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6.お前も漫画厨にならないか

「おかえり~、あら、お友達!?」


今日は早く帰ってきていた母が玄関先に帰宅した僕らを迎えてくれながらそう言った。


「ただいま。」

「どうも~お邪魔しま~す!」



喧嘩上等のヤンキーなのかどうかを疑わしくする人当たりの良さを発揮しながら戸田が笑顔で母に挨拶した。


早々に自分の部屋に向かおうとすると、母は笑顔で「後で部屋に飲み物持っていくわね」と声をかけてくれた。

それにお礼を返しつつ、母の表情を見るからに、この人僕が初めて家に友達連れてきたのをものすごく喜んでいるな…と感じた。


漫画でよく見るパターンだと「あんたが友達家に連れてくるなんて初めてじゃない!」とか言うとこだけど、うちの母はそういう事は言ってこないんだよな、となんとなく思った。



自分の部屋に戸田を案内する。


僕の部屋は勉強机とシングルサイズのベット、冬にはコタツになるローテーブルと座椅子が1つ、小さめなテレビ台にネットに繋げただけのそこまで大きくないテレビモニターがあるが、テレビは普段そこまで使われていない。

そして勿論デカめの本棚がある。


本棚には小学生の頃から全お小遣いとお年玉を注ぎ込んでコツコツ集めた漫画達がズラリと並んでいる。

好きな週刊誌はデジタルのサブスク購入で最新のものをチェックして、もちろん1日1話無料で読める系のアプリのサービスはくまなく活用し、その中の好きな作品を紙媒体で収集する。最高に大好きな作品はなるべく初版で買う。

でもお小遣いにも限度があるため初版が無理な本は好きな作品でも古本屋で買うことがある。

社会人になったら絶対に定価で買い直すと決めている。

作家に正当な対価を払いたいのだ。


戸田は本棚を見て「すごい沢山ある!」と感心している。


ここまで集めているのを見られるとオタクと言うか戸田とはやっぱり住む世界が違う人だと思われないか少し心配していたらしく、無邪気な反応に安堵した自分に気付く。



戸田に座椅子を進めると、母がお菓子付きで飲み物を持ってきてくれた。

僕は勉強机の椅子に座っていたが、座るとこがないでしょうと下の階からもう1つ座椅子を持ってきてくれたからそれに座り直す。

ゆっくりしていってね、と声をかけられた戸田が笑顔で応じていた。


「漫画沢山ありすぎてどれ選べばいいか分からない。直哉おすすめ教えて~」


─まぁそうだよな。


「ここにあるのは全部おすすめだけど、そうだな…やっぱ初めは王道の少年漫画がいいんじゃない?」


もう完結してしまっている大ヒットした全少年の心を掴む国民的バトル漫画を進めてみた。



読み出した戸田を横目に僕は宿題を始める。

と言っても初めて漫画を読んだ戸田の反応が気になってそんなに集中はしていない。

30分くらいたった時に戸田がバッとこっちを見て

「ねぇ!漫画!おもしろい!」とだけ言って、僕が満足そうに頷くとまた目線を戻し漫画に集中して言ったので、これで勉強に集中出来そうだ、とシャープペンを握り直した。



高校に入ってからやはり勉強の難易度は上がったなと感じていて、僕は真面目にやらないとついていけなくなる予感がしているのだ。


学校はけっこう戸田まではいかなくても、少しチャラついた感じの人間も普通にいるし、補習や追試はあっても成績の悪い人間に居場所がないみたいな厳しい雰囲気はないのだが、特に将来の夢のない自分は何かしたい事が見つかった時のためにある程度の学力を維持しておきたいし、何よりは今は成績を挙げることが1番のお小遣いアップに繋がり漫画を買えるのだ。

高校卒業までバイト禁止がルールの我が家で学弁(小遣い稼ぎ)に対して手を抜くことは考えられない。


─戸田が今読んでいる漫画は40巻以上あるからまだかかるだろうけど、これが終わったら何を勧めようか。完結作品の方がいいよな…なら昔のド名作から進めたいけど、現代作品の軽いタッチのノリと絵柄の方が入りやすいかもしれない。最近の漫画を楽しんでもらってこれはあの作者の昔の作品で絵は古いけど面白いんだよと進めていくと、劇画タッチにも忌避感を覚えない生粋の漫画読みになれるかもしれない。ヤンキー漫画でもおすすめがあるんだが、ヤンキー漫画は変な中毒性があるから特に共感しやすい不良がそれ読んで初期にハマってしまうとそのジャンルばっかり読むタイプのヤンキーになるかもしれないからそれは頂けない…いや、僕が決めることではないんだが、なるべく最初は偏りなく色んな作風の物に触れてもらいたい…。


ここまで一息で僕は考え倒した。


─いけない、どうしても漫画を好きになってもらいたいと言う押し付けがましい自分を止められないな、落ち着かなければ…


と思いつつも戸田が黙々と読み巻を進める時は嬉しい気持ちになる。



まったく集中出来てない自分に気付かず、宿題と自習を進めていたら気づけば18時半を過ぎていた。

軽く時計を見たが、戸田はこちらの動きを気にせず読書に集中している。


─戸田何時までいるんだろ…


友達を家に招いたことがない僕は、こういう遊び方のお開きの仕方の″普通″が分からなくてそんな風に考え、このまま勉強続けるか迷ってると母がドアをノックしてきた。

僕が返事をして、戸田も漫画を閉じて顔を上げる。


「そろそろご飯だけど良かったら戸田くんも食べていかない??今日はカレーだよ」

「えっいいんですか?」

「いいわよ~、アレルギーとか好き嫌いはない?」

「ないです!」


そう答える戸田の遠慮したような、嬉しいような顔は初めて見た。少し焦っているようにも見えた。

すごく雰囲気が大人っぽいやつだったから年相応な感じは新鮮だ。


「戸田は生のトマトは食べれないよ、あとは大丈夫。あと結構量食うよ」


と母に言うと「体が大きいもんね~」と言い、出来たら呼ぶからねと母は部屋を出ていく。


「…食べよう思えば食べれるよ?あんまり好きじゃないだけで」


と拗ねたように言う戸田を見て僕は笑った。


「そういえば俺お母さんに名前言ったっけ?」


と戸田が不思議がっていたが、普段家でする友達の話が戸田しか居ないということがバレるので適当に誤魔化しておいた。

直哉(主人公)の漫画愛、もっと語らせたいですが長すぎて目が滑ると思うので抑え気味です。


次は「初めてのお泊まり」です。

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