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66.自分の気持ち side-K

何もかもが上手く行かないストレスを地味に感じていた時に、啓吾は少しだけ気になる人を見つけた。


それは前の席の高田直哉と言うクラスメイトだ。


小柄、と言っても啓吾から見たら同級生は皆小柄に感じるのだが、線の細い感じの静かな人だった。

出席番号順で自分の前の席に座っているのだが、その大人しそうな見た目によらず、高田は寝てる自分をめちゃくちゃ容赦なく起こしてくる。


戸田!と呼び捨てにされ、迷惑そうな声で起きろ!と言われたまに身体を揺さぶってくる。

なんだよ~と思い起きて目を合わせるとめちゃくちゃ睨んでくる。

起こされても起きなかったらしい時は起きたタイミングで預かっているプリントを渡してくれるがやっぱり睨まれている気がする。


─…これは…、この人は自分を怖がっていないのでは??


それからちょこちょこ起きてる時に観察してみたけど、休み時間は一人で本を読んでいて、昼休みも一人でもくもくとお弁当を食べて、どこかにふらりと消える、それかそのまま教室で本を読んでいる。

大人しい人かと思い来や、クラスメートと会話しているときとかは普通で、授業態度は真面目。


ずっと見ていたら、睨んでるのは目付きが悪かっただけで、嫌われてる訳ではないんだなと気付いてちょっと安心した。


移動教室の時に起こしてもらった時に、親切にしてくれた。



─よし!この人を1人目の友達にしてみよう!


啓吾は安直にそう思い付いた。


友達さえ作ったら大雅も喜ぶし、高校生活もちゃんと充実していると説得力を持ってアピール出来たら、安心してくれて、また前みたいに遊んでくれるのかもしれない。


そんな下心メインで啓吾は高田直哉に近付いたが、啓吾は予想外に高田を気に入って行くことになる。



今まで啓吾に近づいてきた人間が向けてくる感情は敵意であっても好意であっても、どれも押し付けがましいか、薄っぺらいかのどちらかで、啓吾にとってはありがたいものではなかった。

大雅くんを除いて、この人とは一緒の空間にいても楽だとな思えるのは自分に無関心でいてくれる人だけだったのだ。

そして勿論、無関心で居続けてくれる人と仲が深まることはなかった。


そう思うと高田は不思議な人だった、自分に対する好意は感じないのに無関心さも感じない。


親や親族に束縛される幼少期を過ごした啓吾は、ぶつけられる好意の湿度や重さに反射的に拒否反応が出るのだが、本人にその自覚はなかった。

高田の優しさは淡々としていて、まとわりつくような湿度や重たさはなく、逆に薄っぺらさもなかった。

自分に対して変な自己アピールをすることもない。

少し仲が深まって相手からの好意を感じても、自分を締め付けるような好意を持たない高田の雰囲気を、嫌と感じるどころか啓吾は好ましく思うことになる。



啓吾はまた誰かを好きだと思えるなら、大雅くんみたいな人だろうとどこかで思っていた。

自由気ままで、野生の獣みたいな、それでいて自分に優しくしてくれる人を。

高田直哉はまったくそんな雰囲気のない、普通の人だった。

それなのに。

自分の中に生まれた彼に対する好意の原因を啓吾は把握することが出来なかったため、少し戸惑いもした。



裏庭のベンチで過ごす昼休みが好きだ。


少し涼しい木陰と、心地いい風、隣で本をめくる人、こんな静かで落ち着いた場所に自分なんかがいていいのかな?と思って高田をじっと見ると、こっちを見て「まだお腹すいてるの?」とポケットから飴を出して渡してきて、そんな反応に啓吾は何故か笑った。


桜がチラチラと散って行くのを見ると思わず「綺麗だな~」と声が出て、それに「ホントだね。でも花とか景色を綺麗と思い始めたのってわりと最近かも。小学生の頃とか周り全く見れてなかったのかな…」と啓吾に話しかけてるのか独り言なのか区別がつかない程度のトーンで返事が帰ってくる。

「分かる~」と言いながら啓吾は「景色を綺麗と思ったのは今日が初めてだ」と気付くのだった。


友達の家に行って、初めて漫画を読んで、ご飯ご馳走になって、泊めてもらって、友達の家の家族まで優しくしてくれて、仲良くしてくれて、それは啓吾が今まで経験したことのどこにもない事だった。

スリルや刺激なんてない、平和で、なんてことない会話で紡がれる日常と、そこに紛れ込んでくる初めての体験、そのどれもが楽しく感じて。


珍しく女の子の友達も出来た。

陽菜ちゃんは初めて会った時から喋ってて嫌だなと思うことが一度もない女の子で、自分の考えをしっかり持っていて見ていて眩しいなと思う。

莉央ちゃんはあまり喋らないけど自由で、どこか幼くて、妹がいたらこんな感じなのかなって思う子だった。

啓吾は一人っ子だから直哉と妹の関係性が羨ましくて、つい莉央ちゃんを妹扱いしてしまう。


陽菜ちゃんも、莉央ちゃんも距離が近くても身体が触れあっても嫌な気持ちにならない貴重な存在だった。

むしろ、変な下心は絶対ないと思うんだけど、むしろ触れたいと思ってしまう瞬間もあって、びっくりして自分を諌めたこともあるくらいだ。



─俺に興味を持たないように接してくれた、大雅くんと仲良しな女の先輩たちの感じに近いけど、あの人たちみたいに線引きされてる感じがなくって仲良くなれるから、嬉しくて、タガが外れてるのかも。


啓吾は素直にそう思い、もしかしたら、中学の時に自分に関わってくれた、居心地の悪くなかった先輩たちに、しっかり距離をとられてたのは自分的に寂しかったのかもしれない、と今更になって気付いた。


─でもそれは多分大雅くんがいるからで、きっと、先輩に甘やかされすぎても良くないとかの、大雅くんなりの考えがあったからこそだろうから仕方ないけど。同じ歳の友達を作れって言ってたもんね、大雅くんは。


そう啓吾は思った。



ノアに「大雅以外に興味が無い」と言われて、自分は本当に全部に興味のない人間なのかと不安に思っていたけど違ったのだ。


人の噂や悪口で盛り上がったり、誰が生意気だ今度締めようと話したり、誰と誰がやっただの、私とやろうよだの付き合ってよだの、自分はどんだけ悪いことをしたか自慢とか、補導されたとか、前科持ちだとか、どこの誰と知り合いか…

そういう事に自分が興味がなかっただけで。

思い返せば大雅くんはそんなつまらない話は身内の解決しなければいけないゴタゴタでもない限り、適当に笑い飛ばしていた。


─…大雅くんはそれを俺に気付かせようとしたのかな。言われないと俺、考えないから。


次は「最後の命令」です。

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