62.大雅という男 side-K
それからと言うもの本当にめんどくさい奴らに喧嘩を吹っかけられることがパタリとなくなった。
次の日あの場にいた連中から聞いた話だと、大雅は治安の悪さで有名な近所の中学で番張ってた人で、高校でもあらかた歯向かうやつを潰した後は学校つまんないと言い即中退して、その後らこの辺の悪い奴らを仕切っている悪の親玉のような人らしい。
啓吾が車に詰まれた時は周りの人間はもうダメだと思ったらしいが、次の日怪我ひとつなく現れて、焼肉食わせてもらったと言う話を聞いて、皆愕然としていた。
親がヤクザだとか本人が既にそうだとか、あんな人に可愛がっもらえるとか啓吾はすげぇよとか、いろんな話が飛び交っていたが啓吾的にはそこはどうでもよかった。
─これからほんとに面倒な喧嘩を仕掛けられなくて済むようになるなら助かるな。…またあの焼肉屋連れてってくれるかな。
などと考えていた。
それから大雅はことある事に啓吾を連れ回した。
「お前さ~、お下がりやるからこれ着ろ。ガキなのは仕方ねーけど、流石に俺の横にダサいヤツは置きたくねーからな~。」
と最初に紙袋いっぱいの洋服を押し付けられた。
そこまでファッションに興味があった訳では無いが、やんちゃな中学1年生としては別にダサいとか言われることのない服装をしているつもりだったから啓吾は密かにショックを受けた。
大量の服を突然家に持って帰ったら義理の母に何を言われるか…と途方に暮れていたら、繁華街にあるワンルームマンションの部屋の鍵をくれて「今ここ使ってないから好きに使え、あ、そこに置いてある服も着ていいよ。女…はまだ早いか、他のやつはいれんなよ~」と言われたので、実家に持って帰れない服をそこに置き、ちょくちょく泊まらせてもらった。
大雅に渡された服は少し大きかったけど、中一にして身長が170近くある啓吾ならオーバーサイズとしてなら十分着れたし、かっこよくて着心地のいい服ばかりだった。
着てみたら、大人になった様な、もっと強くなったような、存分に背伸びができてるような感覚がしたし、大雅に「似合ってるじゃん」と言われるととても嬉しかった。
大雅は金回りが良く、遊び方も派手で、いつも啓吾が行ったことのないお店で食べたことの無い美味しいものを食べさてくれて、大人が行くようなお店に当然の顔で出入りしていたし、大雅より明らかな大人な人に気を使われているのもよく見て、親が怖い人ってのは本当なんだろうな、と啓吾は考えていたが、なんとなく本人に聞くことは出来なかった。
大雅はとても享楽的な人間だった。
美しいものと美味いものが好きで酒が好きで女が好きで金が好きで、やりたい事をやりたいようにして、それが許される空気のある男だった。
そばにいる女なんか見かける度に違うので、啓吾は途中から覚えるのをやめた。
啓吾は見た目だけは高校生辺りに見えるし、とにかく整った容姿をしていたから、大雅の顔見知りの女や商売の女に本気で言い寄られるのも茶飯事だった。
それに対して啓吾が困った顔をしてやんわりと拒否をする様に対応してるのを見た大雅が「もしかしてお前彼女とかいんの?」と聞いてきた。
「いたことない」と答えると「童貞!?流石にそこは中1か」と大爆笑しだしたから「1回あるし!なんか知らん女の先輩に…無理矢理?」と答えると、周りにいた人達がおぉ~とか、何それエロい!と囃し立てる。
「へぇ~、啓吾的にどうだったの?」
と普通の顔をして大雅が聞く。
「別に…なんか気持ち悪って思った。」
少しぶっきらぼうにそう答えたら、周りの先輩たちは子供がいきがってる感じを啓吾に感じているのか、啓吾のことをやたら暖かい目で見るから少し居心地悪く感じる。
大雅は席から立ち上がるついでに啓吾の頭をクシャッと撫でて「お子様にはまだまだ早かったってことだな~」とからかうように笑って言うと、よし、次の店行くぞ~と周りに声をかけだした。
それからは言い寄ってくる女の人がだいぶ減ったように感じた。
─大雅くんがなんか言ってくれたのかな。
それでも大雅のいない隙をついて近づいてくる女はいた。啓吾は大雅の女のかわし方を真似て、上手くやりすごしていたが、大雅君が俺に近づくなと言ってくれていたとしたら、その言いつけを平気で破る女の人は怖いもの知らずだなと啓吾は感じた。
対して大雅の周りの男たちは、酒も女も違法なお薬も「啓吾はガキだから駄目」の一言で、啓吾に無理をさせるような真似は絶対にしなくなって大雅くんはどんだけ権力ある人なんだろうとしみじみした。
本当にいつも自由に行動していて、なんの仕事をしている人かと聞かれたら啓吾は答えられない。
一緒にいる時に大雅の仕事の部分が垣間見える時もあったが、大雅は啓吾に仕事についての質問を絶対に許さなかったし、一緒にいる時にどうしても仕事の用事が出来た時は、啓吾を帰らせたり、車で待機させたりして絶対に関与させないようにしていた。
知りたい気もしたし、悪いことだって大雅となら意義が理解できるかもしれないとも思えるようになっていた。
仲間はずれにされたような疎外感がなかったと言えば嘘になるけど、啓吾は黙って大雅に従った。
自分には喧嘩禁止だと言っておきながら大雅自身はとてつもなく手が早かった。
少しやらかしただけでも即鉄拳制裁をする、基本的に容赦がなく好戦的で、無知ゆえに敵対してしまったやつらなんか大喜びで叩き潰していた。
電光石火の如きその素早さ、しなやかさ、力強さ、華やかさのある暴力に誰もが惹かれていて、大雅には沢山の信奉者がいて、啓吾もいつの間にかその1人になっていた。
よく笑うしよく喋るが、キレた時は誰も手をつけられなかった。
1番大雅のそばに居た啓吾も、大雅が本気でキレた時は絶対に何も発言すること無くひたすら黙って流れを見ていた。
大雅は喧嘩の後、ある程度落ち着いたら場所を変える癖があり「啓吾、行くぞ」といつもの様に声をかけられると、それに何も無かったかのように「は~い」とついては行くが、内心は「怖すぎ~」と思っていた。
でも怒りを理不尽に啓吾にぶつけてくることは一度もなかったし、切り替えが死ぬほど早いので次の瞬間にはどこに行こう何を食おうと明るく言ってくるのが救いだった。
大雅はジムで身体を鍛えるのが好きで、よく啓吾も連れていかれて付き合わされた。
マンツーマンで指導してくれるコースらしく、えらく親しげな指導員が大雅と一緒に啓吾の分も指導してくれた。
重たいウエイトを持ち上げる大雅を見て俺もやってみたいと言ったら「ガキにはガキの鍛え方があんのよ。アレはお前にはまだ早い」と言われた。
ジムに併設した格闘技の教室にも付き合わされる。
ここでもやたら親しげなトレーナーから「大雅さん大会出てくださいよ」と誘われ大雅は笑いながら断っていた。
「なんで大会出ないの?大雅君絶対強いじゃん」
「無理無理!それにそーゆーの出たら普通の喧嘩出来なくなるしね~」
─そういうものなのか。
と思いつつも格闘家になるよりも喧嘩の方が大事なんだ。
と、ちょっと啓吾は引いた。
自分勝手だし、周りを振り回すし、何やってるか分かんない胡散臭さがあるけど啓吾にとって大雅は唯一本当の言葉をくれる人で、発する言葉全てに嘘や取り繕うことがなく、強い言葉が虚勢にならない実力のある人だった。
本質を抉るような言葉を投げかけてきて、大雅の言う通りにすれば間違いはない。
自分の周りにいる人間には、不良たちにも、大雅よりもずっと歳をとった大人にも、そんな人はいなかったのだ。
次は「進路」です。




