61.焼肉と命令 side-K
─いや、勝てるわけないよ。ガキの喧嘩にいかつい大人が出張るとかマジかよ。
うんざりしながらも、ギャラリーを逃がす算段を考えながら、殴っていたやつの襟ぐりから手を離す。
ぐぇっと地面に落ちたそいつを横目に起立して、大雅と呼ばれた男を見据える。
「大雅さん、こいつです!」
と言って絡んできた男が嬉しそうな顔で地面に倒れながらも大我を指差す。
大雅は値踏みするような目で啓吾を見ていた視線をそいつに向けながらそいつに近づく、次の瞬間、地面から起き上がりかけていたそいつの腹を思いっきり蹴りあげた。
見ていた全員が驚き固唾を飲んでいると、大雅は爽やかに笑いながら「ガキ相手にマジになんなよ馬鹿が。」と吐き捨てた。
─ん、これは仲間逃がさないでも許してもらえるパターンか?
啓吾がそう考えながらも先程の美しい蹴りを放った人物から目を離さないでいると、大雅はくるっとこちらをむいてニコッと笑う。
「お前、もう飯食った?」質問形式で話しかけてきたくせに大雅は啓吾の返事を待たずに肩を組んできた。
肩を掴む手の握力が今まで感じたことの無い力の強さで、啓吾は普通に″怖っっ″と怯えた。
そのままの勢いで戸惑う啓吾を強引に車に詰めて、そのまま深夜までやってるらしい焼肉屋に強制連行された。
大雅は席に座ると慣れた感じで注文をしたあとにメニューを渡して「今頼んだやつ以外で食いたいのあったら頼みな~」と言ってきた。
大雅の目的が分からない啓吾は警戒しつつもメニューを見たが、家族で外食なんてろくにした記憶もない啓吾にとって焼肉屋に馴染みもなく、何を頼めばいいか分からない、唯一知ってるカルビはさっき大雅が頼んでいた。
─車に詰められた時は殺されんのかと思ってヒヤヒヤしたのに、腹なんか空くかよ…
と思っていたが、店に入ってからのいい匂いとメニューに乗せられた写真の綺麗な赤い肉を見たらなんだか食べれる気がしてきた。
飲み物は大雅がビールで啓吾は烏龍茶だった。
─この人、車運転してなかったけ。
などと野暮なことは勿論言わない。自分の分を勝手に烏龍茶にされた不満も勿論口には出さない。
不服そうな顔をしてるのがバレたのか、
「お子ちゃまに酒は早いよ~。烏龍茶で我慢しろ」
と大雅に言われた。
別にたいして美味しくも感じないお酒が飲みたかったわけではないけど、と思いながら啓吾は別に好きでもない烏龍茶に口をつけた。
頼んだ肉が次々テーブルに来る。
大雅のまったく威圧や敵意の無い態度に少し慣れたのもあったが、それ以上に初めての光景に少し夢中になっていた。
「トング取って」と言われてトングが何かわからないでいると「それ、その銀のやつ」と教えてくれた。
トングを大雅に渡すと生の肉をそれで掴んで綺麗に鉄板に並べる。
出た煙を鉄板の横にある穴が吸い込んでいて、啓吾はそれがなんだか不思議で、じっと見ていた。
「お前、戸田啓吾くんでしょ?お前が今日ボコボコにしたやつから聞いたことあるよ~、他にも色々…随分やんちゃしてるらしいじゃん」
と大雅に言われる。
─この人の知り合い殴っちゃったんだよな…それに関しては怒ってなさそうだけど。
と思いながら頷く。
「あいつもう17よ?相手中坊だって聞いたからやめとけとは言ったけど、あいつマジでアホだから案の定聞かなかったね~」
─高校生だったのか、背も低かったし体も細かったし力も弱かったから中3くらいかと思った。
「あんな小物でも力加減とか体型が違うガキ相手にマジでやるとね、必要以上に怪我させちゃったり、加減知らなかったりすると最悪死なせちゃうこともあるんだよ。そんで、あのバカは一応俺が使ってるから、連絡あって止めに来たんだけど、全然問題なくて笑った~」
そう言いながら大雅が焼けた肉を啓吾の皿に乗せて「食べな~」と言ってくる。
初めてお店で食べた焼肉はビックリするほど美味しくて顔に出てたのかそれを見て笑った大雅はどんどん肉を焼いて皿に乗せてくれて、白米も頼んでくれた。
「お前けっこうデカいし、ガキのわりに肉付きいいよね~。中3でも腕力は頭1つ抜けてる方だろ」
「…中1、です。」
もうすぐ中2だけど、と思いながらそう答えると、大雅は啓吾の年齢にも驚いた様子だったけどそれよりあの喧嘩を売ってきた男の行動が気に障ったらしく「マジかよ、あいつ中1にマジになってたの?ほんと引くわ~、もう1発蹴っとけば良かった」と言っていた。
大雅の歳を聞いたら18歳だった。
啓吾的には18歳も十分大人に見えるのだが、大雅のことはもっとそれより上の20代の思って居たから意外そうな顔してたら「おいコラ、老けてんなって思ったろ今~」と言って笑っていた。
大雅がなんのために肉を食わせてくれてるのかは分からないど、なんか案外優しいしもういっか、何かこの後嫌なことがあっても別にどうでもいいか、と啓吾は考えるのをやめて、肉を食べることに集中した。
「お前さ、今日から喧嘩禁止ね。」
存分にお肉を満喫して冷麺頼もうかと言う大雅の言葉に冷麺ってなんだろう、なんだか分からないけど美味しそうな響きだな、とワクワクしていたら、突然大雅に突然そう言われ、啓吾は少し動揺した。
─なんでこの人にそんなこと言われなきゃ、いや、てか今はしたくてしてる訳じゃねーし。
「こっちにする気がなくても、仕掛けられるし…」
内心で悪態をつきながら、啓吾は少し不貞腐れたように答える。
「あ~それならもう大丈夫、お前は俺が可愛がることにしたから、もうお前に絡んでくるやつはこの辺では出なくなるよ~。話通ってないアホから絡まれたらまぁ~身を守る程度なら許すけど、やりすぎは駄目。あと先に俺の名前出せ~。」
ギラついた目で言われた大雅の可愛がることにした、という言葉がよく分からなくて呆気に取られていると、大雅の表情が笑顔に切り変わる。
「とにかくお前は今後喧嘩禁止!これ破ったら俺に泣くまでボコられるからよろしくね~」
と恐ろしいことを言われた。
ちなみに帰りは焼肉中に呼び出していた下僕に自分の車を運転させて、啓吾を家まで送ってます。
「こんな見た目の人間なのに飲酒運転はなしいんだな」と啓吾は驚きました。
次は「大雅という男」です。




