58.再会 side-K
21時過ぎ、人通りの多い週末の繁華街を戸田啓吾は一人目的地へ向けて歩く。
8月の終わり、夏は終わりの気配を見せず、外は夜でも暑く、歩いているとじんわりと汗をかく。
繁華街の大通りから横道に入った場所にまだ建てられて数年の、飲食店が沢山入っている真新しいガラス張りが綺麗なビルが今日の目的地だ。
ビルの一階に、そのビルのエントランスとは別の店舗の入口がある。
入口は広く、開放されたオープンテラスになっていて、少し大きいかなと感じるくらいの音量で流れる音楽と客の声がして少し離れたところからも店が賑わっているのが伝わる。
入口から店舗にはいるとすぐ右側にカウンターがあって、人が群がっていた。
「なんかすごい久しぶりに感じるな~」
啓吾はなんとなくそう呟く。
普段は一般的な形式のダイニングバーとして営業しているが、DJが来るイベントがある日はクラブと同じキャッシュオンでお酒を頼む形で営業していて、今日はそのスタイルの営業日らしいく、バーカウンターの前は人で溢れていた。
「あっ啓吾久しぶりじゃん~!」
声をかけてきたのはこの店のウェイトレスをやっている女の人だ、彼女とは彼女がここで働く前から、世話になってる先輩の繋がりで顔見知りだった。
「最近全然顔出さないじゃん。」
少し不満げに言われるのに笑って「高校真面目に行ってます」と返すとか驚いた顔で「偉すぎる」と言われた。
「大雅さん、奥VIPにいるよ!」
そう教えてくれたあと、彼女は颯爽と仕事に戻って行った。
VIPとはこの店には3部屋ある個室で、その1番奥の、1番広さのある部屋が奥VIPと呼ばれていて、啓吾が世話になった先輩、上條大雅がこの店を使う時の定位置だった。
そこに向かっている途中に顔見知りに引き止められて軽い会話をしたりする。
身体に響く低音、酒と煙と香水の匂い、響く嬌声に懐かしさを感じた瞬間に、何故か意識は学校の裏庭に、友人の家の食卓に、この前の満点の星空に戻される。
不思議な感覚に引っ張られながら啓吾は1番大きな個室のドアをノックして、返事は待たずに開けた。
「啓吾じゃん!」
「うわー啓吾久々ぁー!」
「ねー相変わらずイケメン過ぎる」
「また背ぇ伸びた?」
部屋に入った瞬間次々に顔見知りの先輩たちから騒がしく声をかけられる。
個室はカラオケの大部屋をかなり豪華にした感じの雰囲気で、テーブルには軽食が並び、シャンパンクーラーにまだ開けていないボトルが突き刺さっている。
─この感じも久しぶりだな~。
「大雅くん、久しぶり~、誕生日おめでとう~!」
周りの声を無視する形で1番にその場の上座になる所に鎮座してる男に声をかける、勿論誰もそれに不満は持たない。
むしろそうしなければならない空気がある。
なぜなら上條大雅はこの部屋にいる誰よりも強く、誰よりも偉いからだ。
「おぉ、啓吾、久しぶりだな~。」
座っていても大柄なのが分かる野生の肉食獣のような体躯、明るい短髪を短く刈り上げたその男は朗らかに笑いながら啓吾に答えた。
笑顔なのに目だけはギラギラとしていて、相変わらずだなぁと啓吾は懐かしさに和んだ。
会わなくなって半年も経ってないのに今いる場所も、仲の良い先輩も、遠い世界のもののように感じている。
「啓吾、座りなよ。飲み物はコーラね?」
大雅の隣に座っていた女がそう言う。
「ノアさんもお久しぶりです。」
と頷きながら挨拶をするとニッコリと微笑みで返された。
先に座っていた人達が、大雅の近くに啓吾が座れるスペースを作るように移動してくれる。
色んな人に挨拶しながら啓吾がそこに座る間に、入口付近にいた人間が飲み物を頼んでくれていた。
頼んだコーラを運んでくれた店長が、おめでとうございます!と言いながらシャンパンのコルクを抜くと皆は拍手をしたり声を上げたりで一盛り上がりし、それらをグラスに注ぎ、皆に行き渡った所で乾杯をした。
啓吾も乾杯に付き合うが、大雅が酒を飲むことを許していないので、飲むふりで済ます。
大雅の雰囲気から今日は機嫌が良いらしいのは伝わるが、啓吾は久しぶりの再会に少し緊張していた。
─急に呼び出すなんて、何を考えてるんだろ。
大雅の考えてる事は昔から想像がつかない、勝手気ままに人を振り回し、でも強烈に人を惹きつける。
この人がいなければ自分はどうなっていたのか、そんなことは考えたくもないくらい自分を導いてくれた、兄のような人。
戸田編は少し長くなります。
次は「戸田啓吾」です。




