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54.意外な才能

皆が起きてきて、朝の支度を済ませたら朝食だ。


朝ご飯はかまどへは行かずにコンロで焼いた目玉焼きとベーコン、レタスやトマトやチーズなどの具を好きに選んで、焼いたパンに挟んだサンドイッチだ。

父が作ったマスタードのソースも、母が作って持ってきた瓶詰めのバジルソースもどちらも美味しかったし、皆も喜んでいた。


帰る頃には麻衣もすっかり野崎さんと浅葱さんに懐いていた。

母は人手がいるってこんなに楽なのね…と呟いていたし、父もとても満足していたようだった。


こうして僕らの夏のキャンプは終わった。



キャンプが終わって、お盆は田舎のおばあちゃんの家に家族で行く。

戸田も、流石にお盆は祖父母宅に呼び出しを受けたらしく、売られる羊の様な顔で家に帰っていった。



前日に母が「あれ?啓吾くん来ないんだっけ?」と言い、父が「ばあちゃんの家は広いから1人くらい増えても大丈夫だよ」と言っていて、なんと言うかウェルカム姿勢の強い親だなぁと感じた。


父方の祖母の家は絵に書いたような田舎の一軒家で、自然が豊か過ぎてすることは無いけど戸田は喜びそうだなと思った。

勿論、母方のおばあちゃんの家にも顔を出す。こっちは近いから日帰りだ。



お盆が終わったあとは、また戸田の家に集まって、夏休みの宿題会をした。


「こうやって皆で宿題するおかげで、問題集系はほとんど終わりそうで助かるな~。」


野崎さんが嬉しそうにそう言う。


「難しい問題も教えあえるし確かにすごく助かってる」と僕も同意する。


「…莉央ちゃんは確実に家で宿題してないよね?」


浅葱さんの進捗を確認してた戸田が困った笑顔で浅葱さんに言う。


「莉央ちゃん…?」と野崎さんが言うとビクッと浅葱さんが反応する。

反省してる様子で何よりだ。


「宿題に残りの日の日付を書こう、それを莉央ちゃんがちゃんとしたか毎日確認を取れば大丈夫ね!」


さすが野崎さん、すぐに有益な提案をしてくれる。

ぼくらは手分けして残りの課題に日付を書いた。


「どうしても分からない問題は空白でいいよ、最終日にまた集まってどうにかしよ~。」


─最悪そのまま映させる気だなぁ。


と思いながらも賛成する。


「5教科はいいとして、副教科の宿題終わった?」

「家庭科はけっこう簡単だったから終わったよ!」

「俺も~。」

「浅葱さん、美術やった?」

「…途中。」

「莉央ちゃんの美術の宿題見せてもらったけど、絵がすごく綺麗だったよ~!」


そう、浅葱さんはとても絵が上手だ。

美術の時間には先生にやたら褒められている。

おじいちゃん先生に美術部に入りなさいと勧められていつも首を横に振っている。

先生はいつもギラギラした目で浅葱さんのことを見ているし、授業中も″そんなに明らさまで大丈夫?″と思うくらい浅葱さんの作る作品に意識を向けている。


─見ていてハラハラはするけど、美術部の勧誘も1度断られたらその日はしつこくしないし、書き方を厳しく指導する訳でもないし、浅葱さんが嫌がるようなことはしないんだよな。


夏休みの宿題も浅葱さんだけサイズ指定されていた。



ふと見ると戸田が笑いを堪えている。

僕はそれをじとっとした目で睨むことにした。


「戸田くん、どうしたの?」

「いや、この前直哉の部屋で美術の宿題見かけて…。」

「……。」


反応で戸田が何が言いたいのかをすぐに察してしまった野崎さんが、どう反応すべきか困っている。


「どうせ僕の絵は大味だよ。」


僕がそう言うと浅葱さんに「高田くんの絵好きだよ」とフォローされてしまった。

音楽よりはマシだと言う理由で美術を選んでいる僕には、芸術的なセンスに関しては全く自信がないのだ。


「…私は音楽で歌だから緊張するな~。」


いい感じに話を変えてくれた野崎さんに感謝しつつも「人前で歌うの大変だね」と言ったら、音楽室のピアノがあるそこまで広くは無い防音室で個別発表らしくて、それならまだマシか、と思った。


「戸田も歌?」

「いや、俺はピアノ~。」


「え、弾けるの?」と驚く野崎さん、僕も驚いた。


「小学校の頃習ってたからね~。ちょっと弾けるよ~。」


戸田の″ちょっと″を信用してはいけないのは学習済だ。


「練習はもうしたの?」


見た感じこの家にはピアノなんてないし、練習出来るものなのか僕は疑問に思った。


「両親が仕事でいない時に実家で何回か練習したし、盆にじいちゃん家行った時はずっとピアノ弾いてたよ。」


そういえば朝に荷物を取りに帰ると言って家を出て戻ってきたのは昼過ぎだったこと何回かあったなと思い返す。

そして祖父母卓では宿題を口実に逃げたんだなとすぐに察した。


そして防音室での発表で良かったなと心底思った。

このイケメンが人前で多分高い技術でピアノを弾く…考えただけでも恐ろしい。



宿題の次の日は浅葱さんの希望の水族館へ行った。


浅葱さんが気になる水槽の前で、固まって動かない。

どうしよう?と思ってたら、野崎さんは慣れたように館内の至る所にある椅子に座って「ちょっと経ったら気が済むからここで待とう」と言う。

ハッと気付いた浅葱さんが、キョロキョロ周りを見て僕らに気付いてスススッと近付いてきて、また進む感じだ。

野崎さんが浅葱さんの取扱説明書を既に把握してる感じがとてもあって、流石だなと僕は思う。



「莉央ちゃんすごい真剣に見てるね~。」


戸田が自販機でかったお水を野崎さんにあげながらそう言う。


「なんか美術の宿題のテーマが″海の生き物″なんだって~」

「なるほど~。真面目に取り組んでて偉いねぇ」


お礼を言いつつも野崎さんが答える。


普通の生徒の宿題にそんなテーマは無かった。

あの老教師、浅葱さんの絵をしれっとなんかのコンクールに出そうと目論んでそうだな~と僕はぼんやり思った。



水族館を満喫したあと、休憩したカフェで夏休みの終わりにある納涼祭の話になる。


「私と莉央ちゃんは浴衣着る予定だよ~!」

「へ~、浴衣かぁ、いいね~!」


─浴衣の女の子二人とお祭りに行くなんて、ラブコメ展開すぎるな。

ラブ要素はないけども控えめに言って最高だ。


「戸田くん達も着れば?浴衣は持ってない?」

「持ってないなぁ、直哉持ってる?」

「甚平なら持ってるよ。」

「甚平って何?」


野崎さんがスマホで調べた甚平を見せると戸田は「俺もこれ欲しい!着たい~、これってどこに売ってるの?」となり、その足で駅ビルに入ってる夏の間だけの浴衣を売ってる催事がやってるフロアに行くことになった。


それなりにお値段がするものを下駄も合わせてポンと買う戸田を見て「富裕層…」と言いそうになったが、思うに留めた。

キャンパーな戸田に甚平な戸田、ファンクラブの撮れ高満載で会長大歓喜です。


次は「お祭り」です。

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