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53.星の夜

夕方には父を中心に準備したBBQを皆で食べる。

今回荷物を減らすためコンロはレンタルで炭も買ったらしいが、家にはもちろん自家用コンロがある。

母が「レンタルだと片付けが楽よね~」と喜んでいた。


野崎さんのお皿の上は焼き野菜が沢山乗っていてお肉は少し、聞けば野菜を沢山食べた後にお肉中心で食べようとしているらしく、とても健康的だ。


「戸田に浅葱さんはもっと野菜食べなよ…。」


初手から肉、そして肉から肉へと箸をつけている二人にそう言う。

戸田は好き嫌いはないけど、肉があったら肉に飛びつく実に男子高校生らしい性質で、浅葱さんのは恐らく偏食だ。

僕が注意してからは焼いたかぼちゃにばかり手をつけていた。


「お肉はいっぱいあるからな、キャンプの時くらい好きに食べなさい!」


キャンプになると全てに対して甘くなる父がご機嫌でそう言うと、麻衣は海老ばかりを食べ出して父が喜んで硬い皮をバリバリと慣れた手つきで剥いてあげていた、そしてさんな様子を母が呆れた目で見ていた。



一通り食べると父は、ここに同じようにキャンプをしに来ている知り合いに声をかけてくると言って居なくなった。

1時間ほどして帰ってくると片手にビールの缶を持っていて母に「今日は子供たちの監督があるから飲まないって約束でしょう?」と小声で詰められて「この一缶だけ!貰っちゃったから」と小声で謝罪していたのは見なかったことにした。


ご飯を食べたあとは、女性陣は施設にシャワーを浴びに行く。

男性陣はBBQの後片付けだ。

お酒を飲んだ父が罰として押し付けられたのに、僕らは巻き添えを食らった形だ。


─もともと皆でする予定が3人になっただけの話だからいいけどね。



野崎さんたちが戻ってくると寝る準備とか色々のために自分らのテントに入っていく。


このキャンプ場の消灯は22時だ。

22時以降は施設が閉まり、施設の照明も落ちる。

宿泊者たちも焚き木やコンロの火を落として、音楽や大きな声を立てるのをやめなければならない時間になる。



「ほんとにすごいね~。」


閉まる前に売店に行きたいと言う戸田につきあって、皆で売店に向かう道中に、戸田が空を見上げながらそう言う。


「ほんと綺麗だよね、ずっと見てたい。」と野崎さんも空を見上げて歩きながらそう呟くと、浅葱さんも頷き、空を見た。


「天の川、さっきお父さんに星のこと教えてもらった時よりもよく見えない?」

「今からの時間帯が1番見やすくなるんじゃないかな。消灯後は全体が暗くなるからもっとよく見えるよ。」

「へぇ~楽しみだな~。」


売店で戸田のお菓子を買って、テントに戻る。

消灯時間になると、皆で星を見ながら少し話して、女性陣は早々にテントへと戻って行った。

早起きした麻衣は眠気が限界の様だし、意外と野崎さんが眠そうにしていた。

聞けば、早朝に家の仕事を手伝うからいつもこれくらいの時間には寝てるらしい。


折りたたみの椅子をリクライニングさせて、少し寝転ぶように星を眺める。

戸田はお菓子を食べながらぼーっとしている。

また何処かへ行ってきた父が戻ってきて、少し冷えるだろうとすごく小さなガスコンロで暖かいお茶を淹れてくれた。


お茶を飲んで、おやすみの挨拶をして、テントに入ると僕も疲れていたらしく、すぐに眠りについた。



ぶるり、と寒さで目が覚める。

テントの中はまだくらいから夜中かな?と思いながら僕は静かに起き上がる。

父と戸田が寝ているのを起こさないように上着をきて、テントの外に出ると東側の空が少し白んでいるがまだ星が綺麗に見えた。


僕はトイレへ行き用を済ませたあと、また椅子に座って空を眺める。

辺りは静かで、少し明るいからか、夜に見た時よりも空が広く見える気がした。


夜見た時は真っ黒に散らばる星空に吸いこまれそうだと思ったが、朝方だと黒から深い青空に星が散らばって、白んだ空とのコントラストが綺麗で、なんかすごく綺麗な絵を見てるような気持ちになる。


何気に夏のキャンプの1番好きな時間かもしれない。

寝ない訳にもアラームをかける訳にもいかないから偶然起きれて良かったな思いながら、トイレの後に自販機で買ったホットのお茶を飲む。



ガサッと音がしたと思って振り返ると凄く眠そうな戸田が腕を擦りながら出てきた。

小さな声で「さむっ」と言っている。

上着を取りに戻ってまた外に出てきて、僕の隣にあった椅子に座る。


「目が覚めたの?」と僕が小声で聞くと頷いていた。

さっき飲んでたお茶を渡すと小声で「あったか~」と言って嬉しそうに飲んでいた。

そして戸田もリクライニングの椅子から空を眺めて「きれ~」と呟いていた。



「俺さぁ~、高校入ってからなんかすごい楽しいかも。」


まだ少し眠そうな顔をした戸田の唐突な発言に、僕はなんだか胸がいっぱいになった。


「僕も。」


僕が小声で同意すると戸田は頷く。


「中学の時も楽しいことはあったけど、うーん、なんて言うか、自分が楽しくするために頑張ってたと言うよりは、人に助けて貰ってただけ…?っていうかさ、…なんかうまく言えないけど。」

「うん。」


戸田の過去話、すごく気になるけど、戸田が一生懸命自分の言葉を整理して話そうとしてるのが伝わったから余計な横槍は控える。


「今はちゃんと自分から人に関わりたいって思うし、楽しみたいって思えるようになってる気がする。」

「……僕もそうかも。」

「戸田もそうなの?」


なんだか後半は共感してしまった。


「僕は人に助けてもらったと言うよりは人に関わらなくても満足してたって感じだけど…今は皆といるのが楽しいって思うよ。」

「そうなんだ!じゃ同じだね~!」

「うん、同じだね。」


ふにゃりとした戸田の笑顔に釣られて僕も笑う。


「俺大事にできてると思う?」

「何を?」

「皆のこと」

「…全然できてると思うけど。」

「そっか~。」


戸田でも自信が持てないことあるんだな、と思ったけど、そもそも戸田は元々自信家な発言はしたことないなと考え直す。

なんとなく余裕のありそうな空気感があるだけで、褒められたりしても普通に照れるし、どちらかと言うと謙虚な気もする。


「なんか失敗とかしてたら教えて欲しいな。俺、そーゆーの、多分わかってないんだ。」


任せろ、と言おうとして、僕は固まる。


「…あれ、僕も分かんないかも。」

「え、直哉も分かんないの?マジ?」

「マジ。」


少しの間の後に二人で小さく笑った。

僕だって、対人関係は苦手分野の方だ。


「なんとかなるでしょ。その辺は野崎さんとかが優しく教えてくれるんじゃないかな?」

「おぉ、直哉めっちゃ人任せじゃん。」

「適材適所だよ。」

「なるほど!」


相変わら素直な男だ。


「でも陽菜ちゃんって怒ったら怖そうじゃない?」

「…野崎さんが本気で怒るの想像つかないけど、あの優しい人を怒らせるって余っ程のことしてるんだろうから、怖くても怒られた方がいいと思う。」

「確かに~。」

「浅葱さんは…多分戸田が失敗しても…あれ、意外と想像つかないな。」

「莉央ちゃん怒ったりするかなぁ。」

「真剣に食べてるご飯を取り上げたらすごく怒った空気出しそう。」

「陽菜ちゃんにくっついてるの無理矢理引き剥がしても拗ねそうだね~。」

「あはは。だね。」



それからは朝が完璧に明けるまで、空を眺めながら、ずっと小さな声で取り留めもない話をした。

少し長くなりました。


次は「意外な才能」です。

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