46.夏休みスタート
夏休みが始まって10日ほど経ち、8月になった。
今年は例年に比べると冷夏気味らしいけど、普通に外は暑いし、蝉の鳴き声はすごい。
最近の蝉は夜に鳴くのよねぇと母が言っていたが、僕には蝉は普通に夜も鳴くもののイメージでピンと来ず、夜に蝉が鳴かないって静かそうでいいなと思った。
夏休みが始まってから、ほぼ毎日戸田といる。
義理のお母さんが家に来る日だけは帰るけど、ほぼうちの子状態だ。
夏に入ってから、戸田の祖父母から戸田に押し付け…いや贈られたすごい高そうな木の箱に入った素麺や、フルーツがたっぷり入ったゼリー、水ようかん、なんか凄いハムを戸田から度々横流ししてもらった母は「いつも悪いわぁ」といいつつも、甘いものに目をキラキラさせている。
─戸田甘いもの食べないのにゼリーとか水ようかん渡してくるって…
とちょっと不満に思いつつも、なんか凄いハムを美味しくいただく。
「なんか最近食べ物よく持ってくるよね。もしかしてずっと泊まってるから気を使ってる?」
「いや、なんかジジイたち、お中元?を腐るほど貰うらしくって、消費しきれないのか母さんが家来る度大量にもってくるんだよね。だからこの家で食べてもらえると助かるよ~。」
戸田は笑顔でそう言うけど、僕は変な気使ってるんじゃないかなと内心で疑ってる。
一度否定されたことをしつこく突く真似はしないけど。
夏休みに入ってからすでに戸田の家で夏休みの宿題終わらせよう会の第1回は開催した。
普通の冊子の宿題は地道にやればいつか終わる感じだけど、やはり読書感想文と自由研究がネックだ。
あと選択科目の美術・音楽・書道はそれぞれの特性別な課題が出るからそれもどうやってのけるかを考えなければならない。
僕と浅葱さんは美術で、課題はなんと絵日記だ。
小学生の様な毎日書くやつではなく夏休みに印象的だった日を絵に書く感じだ。
日数も使う画材も指定されてないとこに先生の作為を感じる。
戸田と野崎さんがしてる音楽は課題曲が出たらしい。学校で出来る楽器を練習してくるか、楽器を弾けない人は歌を披露しなければならないらしく、心底選択で音楽を取らなくてよかったと感じた。
夏休みに入ってからと言うものの、僕らはけっこう頻繁にLINEのやり取りをしている。
野崎さんと浅葱さんは夏休みに入ってから二人で買い物に行ったらしく、その写真も来ていた。
浅葱さんは綺麗な風景や花、近所で見つけた野良猫の写真を送ってきたり、野崎さんは宿題のことを皆に聞いてきたり、戸田は野崎さんの好きそうなコンビニアイスを見つけたら写真を撮って送ったりしている。
意外と話題が尽きなくてすごいなぁと思ったが、僕がそれまで経験がなかっただけで、これが普通なのかもしれない。
そして他人事みたいに自分から蚊帳の外にいくのはよくないと感じて、僕も皆の真似をして、不意打ちで戸田の写真撮って送ったり、野良猫を見つけた時は真似して送ったりした。
─普通の友達同士って、こんな感じでやり取りするんだな。
返信も最初はなんて返せば?と思っていたが、皆のを見てれば可愛い、美味しそう、ウケる、楽しそーとかのシンプルな感想のみだ。
あえて言うなら野崎さんの文は少し長く、彼女らしい気遣いに溢れている。
浅葱さんが意外と1番好き放題してる気がする。
彼女はラインの中でも無口なのか、写真のみを送り付けてくるし、反応もスタンプ(やたらテンションは高めの絵ではある)だけの時もある。
戸田は普段は通知を見ても「これは後ででいいや~」とか、電話も無視したりマイペースなイメージがあったが、僕らのグループラインには即レスしている、好きな人間には案外マメなんだな、と思う。
そんなシンプルな返信でも、時間差があっても反応しないということはないので、基本的に反応するということ自体が暗黙の了解なのかなと学習する。
「あれ、これでやり取り終わっていいのかな…?」と思っていると、また次の日に全く関係ない内容の話が始まったりするから、あれで終わりで良かったのか…!となったりもして、まだよく掴めていない所がある。
昔の自分だったら、興味のない話題や目的や意味の見えないやり取りに対して疑問に思ってたと思う。
でも今は出来るだけいい形で返信をしたいと思う。
あの黒歴史時代からけっこう変われている自分にちょっとだけ嬉しい。
今日はと言うと、僕の希望だったプラネタリウムを隣町に見に行く日だ。
戸田と二人で駅に向かうと、野崎さんと浅葱さんは先について待っていた。
「ごめんね、待たせた~?」
「さっき来たとこだよ、暑いね~!」
お互いに挨拶を済ませる。
浅葱さんがいつもよりおめかししているのはきっと野崎さんが整えたのだろうな、と思った。
2人とも完全に夏仕様で、今日もとても可愛らしい。
戸田が褒めるから気付いたけど、2人ともお揃いの髪飾りをつけていて、ほんとに仲良くなったなぁ、浅葱さんに女の子の友達が出来て良かった…と親心のようなものを感じた。
電車に乗って隣町の私立科学館へ向かう。
夏休みだし、ちょうど今プラネタリウム上映が、有名な音楽家とコラボレーションした企画をやってるせいか、結構人が多い。
外にある入場用の券売機に並んでいると、野崎さんが後ろから首筋にハンディフォンの風をあててきて、びっくりしたけど、涼しくて気持ちいい。
「暑さ対策のグッツはちゃんと持ってきたから言ってね?」
野崎さんは、駅で合流した時点で戸田に持つよと取り上げられて、今は戸田が持っているサブバックから体を拭くとヒンヤリする制汗シートを渡してくてれたので、じんわりと汗が出ていた首周りを拭くと、スッキリとした気分になる。
拭いたあとのシートをどうしようと思ってたら、野崎さんはサブバックから小さなゴミ袋を差し出してこれに入れてという仕草をされる。
「ありがとう」と答えながら、気が利きすぎて、もはや野崎さんは母、いや聖母なのかと尊敬の念に耐えなくなる。
今日駅で戸田が野崎さんの荷物を真っ先に持ってあげようとするのを見て、他人事の様に相変わらず紳士だと感じていたが、あの行為は、自分の気が回らないこういうことに気を回してくれている人に対する感謝を、相手の負担を軽減してることで示しているのか!と僕は気付く。
自分が人のためになにかする時は″自分がしたいから″の一心でしていたため、今まで相手からされたことに対してどう返すかとか、深く考えたことはなかった。
─僕もなんらかの形でこの感謝を返すべきだな。
もちろん、経験不足な僕にはどう返すべきかはまだ分からないけども。
そんなことを考えながら順番を待った。
戸田は高田家に居座るようになって、自分の腕力が人の役に立つことに気付き力仕事を率先する様になっただけで直哉の考えるような″気遣いへの感謝を返す″とかは全く頭にないです。
陽菜はもちろんサブバッグは戸田が持ってくれるだろうと言う前提で持っていってます。
次は「星とうどんと」です。




