43.終業式
球技大会の翌週、僕は登校してすぐ、球技大会の時協力してくれたクラスの男子たちにお礼を言って回った。
「全然いいよ、またなんかあったら言ってよ!」
と声をくれる人もいて、全員が好意的な感じで僕はほっと胸を撫で下ろした。
戸田への熱狂はどうなるかな?と思ったが、こっちが対応できないほど女子が群がる、みたいなことには流石にならなかった。
もちろんどの女子も隙を見て話しかける気は満々だ。
そして週明けから戸田は昼休み、放課後の度女の子に個人的に呼び出され出した。
そう、告白である。
中々会えなくなっちゃう夏休みまでになんとか戸田くんと付き合いたい!と言う積極的な女子によって、終業式の日まで戸田は一日平均2告白はされることになった。
写真を頼まれて断る、連絡先を聞かれて断る、夏休みの予定を聞かれて濁す、遊びに誘われて断る、「相互にしかDM返しません」とプロフィールをわざわざ書き換えたインスタに死ぬほどDMが来る、返さないのを遠回しに責められる、学食でも明らかに近い距離から戸田を盗撮するシャッター音が聞こえる、etc…
終業式までのたった数日に、戸田の精神ゲージをがガンガン削られて行く感じが僕らには見て取れた。
そんな戸田を僕と浅葱さんと野崎さんは心配して見ていた。
「早く終業式来て欲しいね。でも終業式の帰宅時も球技大会の時みたいな対策が必要な気がする。」
そう簡単には帰らせてもらえない気がするし、告白の列が出来そうだなんて冗談が、冗談にならない気がする。
「俺、休んだ方がいいかな~」
戸田は虚ろな目でそう言う。
「戸田、頑張ってサボらず学校通ったんだから、そんな理由で終業式休むのはもったいないよ。協力するから、頑張って出てこよう。」
「私も協力するよ!」
「……協力する」
「ただ、どうするかだな、同じ手を何回も使うのは避けたいし…。」
僕らのやり取りとへにょりとした戸田を見て野崎さんが言う。
「…力技でいいのなら、やりようがあるかも。戸田くんがいいかどうかも大事だからひとまず聞いてくれる?」
そう言って野崎さんは力技プランの概要を説明しだした。
終業式の日、まずは体育館で表彰、風紀の先生が夏休みの心得を指導したあと、校長の話があり、校歌を歌ったりして教室に戻る。
教室では期末テストの結果と通知表を配られて、先生からも話がある。
「そういえば夏休み期間中1年の教室は補講以外は基本閉まってるからな!荷物は持って帰るように!宿題とか忘れたら大変だぞ!後ろの棚みると色々まだ置いてるな、今取りなさーい!」
色々話した後に先生がそう言うと、教室の後ろにある各自の物が置ける棚に色々置きっぱなしにしてる生徒たちが慌てて荷物を取りに行く。
僕は嫌な予感がして浅葱さんを見るが、彼女は微動だにしてない。
ザワザワと生徒たちが動く中「浅葱さん、荷物、あるよね?」と僕が声をかけると、浅葱さんは頷いた後黙って荷物を取りに行ってくれたので安心する。
でもその後すぐ戻ってきた浅葱さんが大量に持っていた紙束が全部夏休みの宿題なのに気づいて驚愕する。
─この子、全部、置いて帰る気だったの…?
「莉央ちゃん、それ1人で持てる?駅まで手伝おうか?」
と優しい戸田はそう声をかけていたが、もっとつっこむところがあるだろうと僕は思った。
そろそろホームルーム兼終礼が終わりそうだ、少し時間がかかったせいか、廊下は生徒でごった返している、戸田狙いの女子生徒も集ってきている感じがする。
帰りの挨拶をして、担任が教室を出て行ってすぐだ。
「戸田くーん、高田くーん、莉央ちゃん!帰ろ~!!」
廊下からいつもより大きな声を出した、野崎さんが僕らを呼ぶ。
そのうるさい訳じゃないのに、よく通る声にクラスの人も廊下の人も、面白いくらい野崎さんに注目した。
最初の予定通り、戸田が立って野崎さんの方に向かい、僕らも後に続く。
いつもの笑顔の3倍くらい、大輪の花が開いた様な笑顔を戸田に向ける野崎さんに、またしてもにこやかな戸田が近づいて、野崎さんの肩にかかったバックを戸田は取り上げ、自分の肩に下げた。
「あっ、荷物いいのに!」
「終業式だし、重たいでしょ?」
戸田は自分のバックに浅葱さんの荷物も入っているのでかなり荷物重たいんじゃないか?と僕は思いながらも、急に2人が醸し出した異様な雰囲気に集中する。
─野崎さんも戸田もお互いしか見てないというか、一緒に動いてるはずの僕らも背景になってるこの感じ…なんで?美男美女だから?まるで青春恋愛映画のワンシーン見たいだ。
いつもと全然違う立ち振る舞い、こうなると野崎さんがいつも本当に全体を見て会話をしているのが分かる。
野崎さんは戸田の目から目をずっと離していない。
戸田も釣られるように野崎さんの目を見ている。
そしてスルリ、と、とても自然に野崎さんは戸田の腕に手を絡めた。
「今日はカラオケ行きたいなぁ」
「いいね、陽菜ちゃんが言ってた曲、俺歌えるようになったよ~。」
「えっ、嬉しい!」
廊下を歩きながらそんな話を続ける。
─うはぁ~、凄いなにこのカップル感。下世話なこと言っちゃうけど、完全に一線を超えてますよね?みたいな雰囲気でドキドキするんですが!え、その野崎さんのトロけるような笑顔!!そんな顔、初めて見ました!!素敵です!!!
クラスの人達、廊下の人達、戸田を待っていた女子、戸田を見つけた女子、通りかかった人達、全ての人が2人のそんな光景を見て固まる。
最初にクラスの廊下の前で出待ちしてた女子達の憤慨した「何あれ!は、なんなの!!」と言う声は、だいぶ離れた後に聞こえてきた。
一歩歩みを進める度に、遭遇した全生徒と言ってでも過言では無いない、大量の生徒の視線を集め、数秒動きを止め、言葉を失わせるその謎の手腕に僕は心の中でスタンディングオベーションだ。
浅葱さんはよく分かってないいつもの顔をして歩いている。
正門を出て、駅の方へ進み、周りにだいぶ人が少なくなったタイミングで野崎さんはパッと戸田の腕から手を離す。
そしてそれを待ってたかのように浅葱さんはスススッと野崎さんに近付いた。
「なんとかなったね~!」
「いや、野崎さんすごいよ」
「ほんと、なんか、すごかった、陽菜ちゃんありがとうね」
「…すごい。」
「いや、球技大会の時にあんまり私は役に立てなかったから…」
「いや、そんなことないよ、野崎さんすごいよ」
「演技とは思えなかったよ、俺ちょっとドキドしちゃた~」
「…すごい。」
「や、やめて、皆、なんかからかってない!?」
焦ってる野崎さんも可愛い。
荷物を返してもらおうとする野崎さんをスルーする戸田を横目に、僕らはひとまず戸田の家に向かった。
陽菜ちゃん、珍しく体を張りました。
次は「一学期の打ち上げ」です。




