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42.【番外編】ファンクラブ会長の憂鬱

長いです。

作者の悪ふざけで生まれた子達ですが、彼女らは至って真剣です。

読まなくても本編に影響はないです。

「許せない、あのクソにわか共。」


球技大会が終わった放課後。

最近お気に入りの韓国風カフェの窓際の一席に座る4人の女子高生の中の一人、戸田啓吾ファンクラブ会長、長澤愛羅は可愛くラテアートされたカフェラテの入ったカップを強く握りしめ、その憤りを隠すことはしなかった。


「会長、気持ちは分かるけど落ち着いて。言葉遣いが崩れてるわ。」


そういったのは中学からの同級生、清水希子だ。

ボーイッシュなショートカットがきりりとした目元に似合っている。


「私は新規の気持ち分かるよぉ?だって今日の啓吾様かっこよ過ぎたし。マジでヤバかったもん。ハマる気持ちも、暴走する気持ちも分かる~。」


スマホで今日の戸田くんの勇姿の記録を見返しながら、そんなことを言うのは田中凛子、彼女も中学からの同級生だ。

緩い巻き髪を低い位置でツインテールにしている少しだけふくよかな女の子だ。

もう一人、黙っている、セミロングで影が薄めな女の子はこの高校に入ってからファンクラブに迎え入れた、伊藤沙耶香だ。



「予想はしてたけどこんなに大変なことになるなんて…最近やっと安定してきてたのに…。」


愛羅が呟くと、希子も理解してくれるように頷いた。


ここで言う″安定した″と言うのは″戸田くんに戸田くんが内心でウザがる様な絡みをする女が減った″という意味だ。

愛羅達からしたら、入学当初は中学当時では考えられない、目も当てられない状態だった。


愛羅達は戸田啓吾と同じ中学出身で、中学の頃に設立したファンクラブを、希子と凛子の3人でずっと取り仕切ってきた。


高校には進学しないと言われていた戸田くんがこの高校に入ると言う情報を聞きつけた時は歓喜した。

情報班の希子と共に調べに調べて戸田くんの祖父がこの高校の校長をしてる事実を掴んだその日から3人は戸田くんがこの高校に入る可能性を捨てずに苦手な勉強をかなり頑張っていたからだ。


満を持して同じ高校に入学出来たが、入学したばかりの時のファンクラブとしての力の無さは、仕方ない部分があったとはいえ、歯がゆかった。

同じ中学から来たファンクラブの正会員達はいるけども、絶対的に数が少なく、中学の時のように学校全体で規律を整えることなど不可能だ。

入学式でついたファンを新規会員として取り込むにも人選は大事だから情報収集と様子見が必要だったのだ。


そもそも、戸田くんがこんなに学校に通ってくれるということ自体が想定外だった。

通う様になってくれた理由は推測の域を出ず、確証は持てなかったが、毎日戸田くんが学校にいる事実、それだけで私達は幸せの有頂天だった。


そんな戸田くんの行動の変化に合わせてファンクラブのルールを変更し、戸田くんの健全な学園生活を邪魔する輩を排除するのことに更に力を入れる必要が生まれる。

諸々の方針決めとその周知に時間を取られ、戸田くんに気付かれないよう活動するため、色々出遅れた部分も強い。


そんな中、全く乗り気ではなく、でも仕方なく女子らに対応している戸田くんを見て無力な私達がどれほど焦燥感を感じたか。


1組の雌豚(幹部内での一級警戒対象の名称)2人組が戸田くん本人直々に排除されてしまった日は、戸田くんの手を煩わせてしまったことに心底不甲斐ない思いをしつつも、あのタイミングで奇跡的に情報回収してたためその場面を目撃できたしまった愛羅は、最高のシーンを目に焼き付けると言う幸運を得た。

幹部と正門会員からは勿論羨望の的となった。


─私たちの動きが遅かったせいで苦労して確保した雌豚1の万引き現場の証拠写真は無駄にしてしまったけど、あぁ、あのブチ切れた、ゴミを見るような冷たい目…最高だったわ…。変な声を出さなかった自分を褒めたい。


思えば自分が、今みたいに戸田くんに深くハマった原因は深淵よりも冷たく昏い目で3年生をボッコボコにしてる戸田くんを校舎裏で見てしまったあの日からだった。


…話はズレたが、方針が固まってからは時間をかけて、戸田くんに近付く子を勧誘して、教育したり、無理なら排除したり、あれやこれや裏工作をして戸田くんの平和な学園生活のお手伝いを陰ながらしていたのだ。



愛羅は心を落ち着かせようと1度深呼吸をして窓の外を見る。


「たしかに~?今日は新規のアホ共が配慮なく啓吾様にがっつくから、2試合目行方も掴めなくなってさぁ~。…マジで決勝戦出てくれて助かったよ。もし嫌気がさして帰宅とかされてたら、新規殺してた。」


と凛子が笑いながら荒っぽいことを言う。


確かにそれが最悪のケースだったわね、と愛羅は少し落ち着きを取り戻す。


「中学の時も最初は大変だったじゃない、またイチから、こつこつ大きくしていきましょう。」


落ち着いた希子の意見で、愛羅は完全に冷静になれた。



「てか新規なんかより、野崎陽菜が一番殺したいけど~」


凛子のその発言を聞いた瞬間、希子が眉間に強く皺を寄せ、それまで静かに話の成り行きを見守っていた沙耶香の表情も、ピクリと動いた。


「凛子!正会員ルールその5!」

「″戸田くんのオキニを害する者は去れ!彼の幸せこそが我らの幸せ!″」


愛羅の掛け声にすかさず凛子が答える。

高校になって刷新された正会員用ルールを即答できる辺り、やはり先程のはタチの悪い冗談だったのだろうと愛羅は溜息を着く。


「…分かってるって、今のは八つ当たり、本心じゃないし、下の子達の前では絶対言わないよ…。」


凛子はバツが悪そうにそう言った。

凛子はこうやって幹部には甘えをみせるところがある、仕方のない子だが、場はわきまえてるので許している。


「後半戸田きゅんを匿ってたのはオキニ2(野崎陽菜)マブ様(高田君)だからね…、気分屋さんで面倒くさがり屋さんな戸田きゅんが決勝戦出てくれたは彼女らおかげなんだから、感謝しなきゃだよ。」


希子が諭すようにそう言うと「うん…それも分かってる。」と凛子が答える。


凛子は戸田くんの居場所認識班の代表だから、2試合目以降の消息が完全に絶たれたのが悔しかったのだろう。

戸田くんの尾行は、戸田くんが意識して人から逃げようと動いた時は中止するのがファンクラブのルールだ。

警戒してる戸田くんをつけ回すことは許されない。


女子に囲まれるのを嫌がって、戸田くんが″先生に呼ばれている″なんて嘘をついてその場を離れたあとに、周りを警戒する様にキョロキョロ見だしたら、凛子に出来ることは尾行をやめてすでに把握してる避難場所をさりげなく確認することしか出来ない。



士気が高いことはいいことだけどオキニにやつあたりなんてらしくないことする辺り、今回の球技大会への凛子の熱意は絶大なものだったのだろうと愛羅は察する。


─凛子…スポーツする戸田くんに激弱だもんね、わかるよ。



「でも凛子、戸田くんを匿った計画を立てて実行したのはおそらくマブ様(高田君)よ。オキニ2(野崎陽菜)の計略じゃないわ」


愛羅がそう言うと3人は目を見開いた。

やはり皆、人脈があり、人柄もよく、尚且つ頭も回るであろうオキニ2(野崎陽菜)の仕業だと考えていたようだ。


「お昼をどこで食べていたかまでは掴めなかったけど、3組の準会員の情報で、マブ様(高田君)が決勝戦から帰宅までの戸田くん保護のために作戦を立てて昼休みの後半にクラスの男子に協力を要請してることが分かったわ。教師まで味方につけて、戸田くんを職員室の裏から脱出させた、と」

「3組の…!そういえば戸田様とオキニ1(浅葱莉央)が未交際って確定情報流してきたのもあの子じゃん?トロくて使えなさそうって思ってたのに…居場所班でも繋いどくべきだったか…!それにしても…初耳なんだけど?」


凛子が悔しそうに言い捨てたあと、怒りを含んだ顔でそう言う。

幹部の情報共有の遅さを責めているのだろう。


「それは仕方ないわ、つい今さっき、個人的に連絡が入ってたの。」

「まだ歴が浅準会員だから仕方ないとは言え、情報が遅すぎるわね…」

「チッ、やっぱりトロいわね。」


希子が不満を抑えきれない様子でそう言い、凛子は苛立ち舌打ちをした。



彼女達の意見には心底同意する。

この情報がリアタイで入ってきてたら、私達は絶妙なタイミングで正門付近に向かい、脱出した戸田くんを遠目で見守りながら駅に向かい、新規に不満はあれど、幸せな気持ちでこのカフェにたどり着けただろう。


「情報精度と速度に関することを会員ルールに追加した方がいいかしら?」


希子が提案するが愛羅は首を横に振る。


「いいえ、このファンクラブの会員の表のルールはあくまで簡潔に、最低限に、そして戸田くんのためだけにあるべきよ。私達やファンクラブへの利益に関することは、口頭で、しつこく伝え教えるしかないわ。」


そいうと、希子も凛子も沙耶香も納得したように頷く。


「また今日新たに出来た新規ファンを、選別しなければいけないわね。」


愛羅そう言って沙耶香を見やる。

沙耶香は要領を得たように頷いた。


「今日私が把握できただけでも戸田くんへの声掛けでの接触者は43名、分かった人間の分は学年別でクラスと名前書き出してます。まだ把握出来てない子は顔写真確保してます。警戒対象は3グループ計11名、こちらは全員顔写真確保済みです。今夜中に希子さんに送る予定です。」

「そのデータは私と凛子にも送ってちょうだい。今日私達が見かけた、接触者と、接触者ではないけど候補になり得そうな子もデータになければ追加したいわ。」


沙耶香の言葉に愛羅は満足気に頷くきながらそう言うと沙耶香「分かりました」とメモをとった。

沙耶香はこの高校に入って、その尋常じゃない隠し撮りの量、そして質の高さ、その目に宿る幹部3人に共通する狂った熱を見出して愛羅が勧誘、即映像班として幹部に抜擢されたとても有能な子だ。



「分かってはいたけど、候補だけでもそんなに…?」


希子がおののくようにそう言う。


彼女は情報班の代表だ、情報班は戸田くんの情報を得るのはもちろんだが、それ以外にも仕事は沢山ある。

これからふりかかる、会員候補達と警戒対象の情報集めと言う大量の仕事に嫌気がさしても仕方がない。

でもこれも戸田くんの平穏な学園生活を守るためよ!そしてそれを私たちが見守れる環境を守るため!愛羅は心で思う。


「時間がかかるわね、情報が集まっても候補達に対する本格的な対処は夏休みが明けてからになるかしら…いや、夏休みでも出来ることはするべきだし、休みに入る前の1週間でも力を尽くすべきね。数が多すぎる候補の情報を集めるのは情報班だけではなく幹部でも手伝いましょう。まずは対象者達の同クラスの正会員と準会員から情報を聞き出しましょう。」


凛子と沙耶香が頷くと、希子は少しホッとした様子だ。

便宜上班分けはしているが、幹部は調べるという事に対しては全方位に能力が長けている。

沙耶香はこれから育てなければいけない部分もあるが、愛羅と凛子が加われば希子の負担は格段に減るのだ。


ある程度の方針が固まり、本日は解散となった。

愛羅は考え事があるからとカフェに残る。

おかわりをしたカフェラテを飲みながら窓の外をぼんやり眺め愛羅は思索する。



─今回の接触者たちの個人情報集め、適正ある子を新規会員へ勧誘、懐柔と教育。非会員への脅しも抜かりなくしなければならない。高校に上がったせいで同学校に在学している会員は減り、目的のためなら手段を選ばないタイプの兵隊も減ってしまった。情報班が上手い具合に警戒対象の弱みを掴めばいいのだろうけど、難しいでしょうね…やっぱりそこは私が動かないと。


夏休みは配給が減る。

同中学の生徒はなれているけど、高校からの新規は飴が減ることに不満を持ちそうね。

ただでさえうちはオキニを害さないって縛りがあるからこそ、会員であるメリットを明確に示す飴の配給は重要。


─夏の戸田くんのスケジュール確保…難しいか、3組の女子がもうちょっと使えたら…幹部の誰かが3組だったなら…、いや無い物ねだりしてもしかないわね。最悪張り込みね。中学時代の唯一の海遊びで確保できた隠し撮りはそれはもう話題になったわね。ふふ、上半身裸だもの、垂涎ものよね。最悪はその写真を高校からの会員に配るか…。でも高校に入って御学友も出来て、楽しそうにされてるもの、この夏休みはそういうチャンスが巡る確率が高いのではないのかしら。

一番はオキニ2(野崎陽菜)からの情報と映像の買取だけど…これはもっと慎重に考えないと、取引に失敗したらファンクラブの存続に関わる危機になる可能性もある…。

オキニ2(野崎陽菜)の性格の見極めがもっと必要ね。



愛羅は手帳を閉じてカフェを出た。

店を出てすぐ斜め前にあるマンションの7階の角部屋をぼんやり見上げる。

駐輪場に戸田くんの自転車はない、きっと御学友(マブ様)の家にいるのだろう。


高校生で一人暮らし、ご家族と上手くいってないのは把握していたが、決別したのだろうか。

生活の資金はきっと資産家でもある校長先生(おじい様)が出しているのだろう。

愛羅は全てを金で済ませて、忙しさで自分を顧みない両親のことを思い出した。


─神に自分を重ねるなんて、不敬ね。


自分のそんな考えを振り払い、絶対に忙しくなる2学期のことをまた考える。



「戸田くん、芸能人なってくんねぇかなー…」



やがてくる忙しい日々、そしてその先に見えている展望を考え、ついつい日頃心がけてるお嬢様っぽい丁寧な話し方を忘れて呟いてしまうファンクラブ会長、愛羅の幸せな苦労は続く。

長澤愛羅…特技:脅迫、加害行為

クソみたいな家庭環境や自分に起こる不幸の鬱憤を昆虫を殺すことで発散してたヤバい人。

ねずみでもバラして見ようかしらって時に戸田にハマる。

戸田の幸せのためなら冗談抜きでなんでもするヤバい人。

中学時代の戸田の空虚で激しい暴力性に惹かれるが、今の落ち着いた戸田も大好き。

戸田に認知はされたくない。


次は「終業式」です。

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