40.球技大会2
自分たちのクラスの女子のバレーの試合は、残念ながら1回戦敗退だった。
相手クラスのバレー部女子の強靭なサーブが、一応構えてはいた浅葱さんにぶつかって、浅葱さんが吹っ飛んだのがその試合一番のハイライトだった。
「だ、大丈夫!?」
とめちゃくちゃ女子達が心配する中、僕だって心配はしたけど、ぼんやりした表情でムクリと起き上がる浅葱さんを見た瞬間「あ、大丈夫だな」となんか落ち着いてしまった。
戸田は戸田で、めちゃくちゃ笑いを堪えていた。
「いやっ、無事でよかったし、笑っちゃいけないんだけどさ、…あれは、だって…」
「分かるよ。」
「すごい吹っ飛んでたよね。」
「ははっ」
堪らず吹き出した戸田を見てなんだかちゃんととどめをさせたというか、とにかく勝ち誇った気持ちに僕はなった。
浅葱さんは試合後に、先生が一応と救護班の場所に連行されていったが、後に無事に戻ってきた。
隣のコートで野崎さんのクラスがやってたから、もちろん応援しに行く。
自分のクラスを応援してる時もそうだが、戸田と二人でいると、僕の影が薄いせいか、すぐ女の子達が近付いて来ようとするから、そばで応援してたクラスの男子も誘って、男子たちを壁にするように試合を見た。
野崎さんは男子人気が高いので、クラスの男子も二つ返事で着いてきてくれた。
真剣にバレーをしてる野崎さんは相変わらず可憐だ。
「…野崎さんけっこう胸でかくね?」
「わかる、スタイル良すぎ。」
「えー、俺はもっと細い子がいい。」
体操着だからか、男子たちが彼女の胸の豊かさについて小声で言及しているが、僕は乗らない。
男子生徒の気持ちは思春期の男子として全面的に彼らの発言は容認できるが、僕個人は、友達の体型をいかがわしい目で見て、あまつさえ評価するなんて、罪悪感で死ねる。
浅い欲よりも理性や友誼を大事にしたい。だから乗らないのだ。
同じくそんな話を聞いているだけだった戸田に、「戸田は胸派?腰派?」とちょっとお調子者のバスケ部男子が聞く。
─それはちょっと僕も興味あるな。
「え、………。」
戸田が珍しく黙り込み、僕も周りも???となる。
「考えたことなかったかも。」
戸田がそう言うと、皆一斉に「嘘つけー!」「かっこいいくせにこれ以上かっこつけんなー!(小声)」「わかった!戸田くんは人には言えないフェチがあるんだ!」と盛り上がっていた中、僕だけが「これはマジだな。」と思っていた。
ちなみに全然聞かれなかったけど、僕は全体的にふくよかな女性がタイプだ。
全然聞かれなかったけど。
─昔漫画で美女に囲まれすぎた金持ちがB専になるみたいなのあったよな、女の子に囲まれすぎると好みとか深く考えなくなるのかもなぁ。
困ったように笑う戸田を見てそんな風に思った。
野球の試合は負けてしまったけど、1本ヒットを打てたので上々だ。
それに勝ってもう一試合したいかと言われたら、それはしなくていいなぁと言う感じだ。
スポコン的な青春は漫画で読むだけで十分なのだ。
自分たちの試合が終わって、合流した野崎さんと浅葱さんのおかげか、女子に捕まることなく戦線離脱出来たので、その流れで裏庭に逃げ込んだ。
それまで移動の度に、応援の度に女子に捕まり、なかなか先に進めない状態が続いていたので、僕も戸田もやっと一息つけた。
女子が女子を呼び、私も私もと言うあのジリジリとした空気、戸田を見かけたら嬌声をあげ、走ってくるグループもいた。
自分が中心にいなくても恐ろしかった。
そんな状態で、涼しいからって空調の入っている教室にいたら、いずれ戸田が女子の波に飲まれるのが簡単に予想できたから外に来たが、流石に木陰があっても7月の裏庭は暑い。
4人で少し雑談すると、野崎さんは自分のクラスの男子の試合の応援に呼ばれたからと抜けていった。
もう少しすると戸田の2試合目も始まる。
「それにしても暑いよね、お昼今日も学食にする~?」
ここ最近は暑いから、昼は冷房の効いた学食ばかりになっていたが、今日はとにかく戸田が女子に囲まれてどうにもならない気がするなと僕は予想していた。
今日の女子生徒にはそれくらいの熱狂を感じるのだ。
─僕と野崎さんはお弁当か…。
「そうだ!準備室にしよう!」
─戸田に野崎さんに場所変更の連絡を入れとかないとな。
浅葱さんと戸田は「?」という顔で計画を立てる僕を見ていた。
昼休み、売店が営業を始める時間の10分前から僕と浅葱さんは売店に陣取る。
売店は少し時間より遅れて開店したせいで、パンを買いたい人達がけっこう集まってしまっていたが、10分前に来ていたお陰で一番乗りで浅葱さんと戸田の分のパンを確保出来た。
自分のお弁当も持って図書室の隣にある準備室に、人に見つからないようにコソコソと向かう。
そう、クジで負け、図書委員の学年代表になってしまった時に得たアイテム「図書準備室の鍵」を使う日がやっと来たのだ。
私物化しようとは思っていたが、すっかり存在を忘れていた。
図書室がある校舎は、職員室や1~3年の教室がある校舎とは棟が違うので、図書室のある校舎にたどり着きさえすれば、体育大会の今日は他の人に遭遇することもない。
階段を上り、準備室の戸を開くと、窓を開け放した準備室の中、僕に鍵を託された戸田が、先に準備室を開けて、パイプ椅子に座って扇風機に当たっていた。
「直哉の言う通り、試合が終わってから女子に囲まれたけど、先生に呼ばれてるって言ってすぐ逃げた~」
「でかした。」
万が一逃げられなかったら野崎さんが連絡を受け救出に向かうてはずだったが、無事一人でここに辿り着けたようだ。
戸田のバスケの2試合目も、華々しく勝利を抑えたらしい。
らしいと言うのは、僕と浅葱は試合終了前に抜けて売店のパン確保作戦を実行していたからだ。
─僕が見ていた時は同点だったから、それは白熱した展開でかっこよく勝利を収めた可能性があるな。
ぼくは滾る女子たちを想像し、身震いした。
「あ、皆無事集まってるね!」
野崎さんが到着する。
「高田くんの作戦、大正解だったよ。女子皆、戸田くん探してる。私も聞かれたし。なんか捕まりそうだったから、私も適当なこといって逃げてきちゃった。」
野崎さんが困ったように笑い、戸田はマジかよ みたいな顔をしている。
「そうじゃないかと思った。危なかったね。」
「今日戸田くんたちとお昼食べるのはユイとミサキにしか言ってなくて助かったよ、一応2人にも内緒にするように頼んじゃった。」
「なんかごめんね~」
「いや、戸田くんが謝ることじゃないよ?…ふふ、学校で人に見つからない様に動くとか初めて。」
野崎さんが優しく笑ってそういう、何故か浅葱さんも頷いている。
「今日の流れは仕方ないよ、戸田カッコよすぎたし。」
僕が言うと戸田は「え、そうかな?」と照れたように言う。
褒められ慣れてるはずなのに、褒め言葉にちょっと弱いのが戸田の可愛いところだ。
「うん…、流石に…あれはかっこよ過ぎたね…。」
「……。(頷く)」
めずらしく野崎さんがやけに演技かかった感じで、深刻そうにそう言い、それに釣られたように深刻そうな顔をして浅葱さんが頷くもんだから、戸田も僕も笑ってしまった。
「ひとまず、お昼を食べよう。」
戸田は結構ゲラです。
不謹慎ネタにも弱い。
思春期のかっこつけで笑うのを我慢しようとしますが、たいていは我慢が効きません。
次は「球技大会3」です。




