3.イケメンと食堂
昼休みになると後ろからつんつん、とつつかれたので振り向くと「高田くーん、お昼お弁当なのー?」と戸田に話しかけられて少し驚く。
が、移動教室の時の会話を思い出し、何か質問があるのかもしれないな、と思いながら答える。
「弁当だよ。」
「俺いっつも売店でパン買ってるんだけどさ、1回学食に行ってみたいんだよね~」
戸田が何を言わんとしてるかが一瞬分からなくて固まってしまったが、これはあれだ、場所を聞いているのだ。と気付く。
「あぁ、学食だったら売店の廊下を自販機がある方向に」
「連れてって!」
「え、いや、僕弁当だし」
「連れてって~!一人で食堂行くのやだ。」
─困った、予想だにないワガママボーイの出現だ。
でも不良とは得てして我儘なものだよな、漫画の中の不良のエグい我儘と比べたら可愛いものか。と思い改める。
素行不良と評判の男子生徒の割には頼む態度が可愛すぎる気もするが、強面な感じで脅しのように命令されるのは流石に嫌なのでそれも運が良かったと思おう。
でも断ったら悪者になる様な、懇願するような目でこっちを見つめるのはやめて欲しい。
「…わかった。ちゃんと道覚えろよ。」
弁当を持って立ち上がると戸田は嬉しそうに後ろを着いてきた。
パンを買い求める生徒で溢れる売店の自販機がある廊下を右に曲がると学食だ。
「学食のメニューってどんな感じかな~」
「僕も行ったことないからわからないけど、メニューけっこう多いってクラスメイトが言ってた気がする」
「へぇ~楽しみ~」
たわいの無い会話をしながら廊下を歩く。
自分は母が時間がある時は弁当、ない時はパンか学食になるとは言われているが、今のところ毎日弁当を作ってもらってるため学食に訪れるのは初めてだ。
中学は給食だったので学食に実は興味はあったのだ。
学食に足を踏み入れると一気に視線が集まる。
これは僕に、ではなく、後ろの戸田に、だ。
イケメンはどこに行くのも注目の的だ。
学食は予想していたより広かったが、想像していたよりかなり簡素な作りに感じた。
想像の元がキャンパスライフな少女漫画に出てくる大学や会社のしっかりした食堂のイメージだったからだろう。
入ってすぐに食券の券売機が並び、上にはメニューの写真がある。
長テーブルとパイプ椅子が並んでおり、早い生徒が座って各々食事を取っている。
「うわー、メニューけっこうあるね~、何食べよう。高田くんは何食べたい?」
「いや、僕は弁当あるから。」
「えー、学食美味しいか気にならない?俺いっぱい食べるからさぁ、2つ頼んでシェアしよーよ。お弁当も中で一緒に中で食べればいーよ!」
─…女子か?
正直戸田が元不良なのか、僕は若干疑い始めていた。
それはさておき、当初は戸田が食券を買って満足したら裏庭で弁当でも食べようと思っていたので、なんと答えるか僕は少し迷った。
戸田は教室では見たことの無いテンションの高さをしているし、声にも喜びがあるな…喜ぶとこんな感じなのかとぼんやりと考える。
さっき学食までの道のりも始終学食のメニューの話を延々としてたし、普段の受け身でやる気のない会話しかしてない印象からは大きく外れるほど口数が多かった。
自分を求める女子相手に辟易しているだけで、そうでない相手にはもっと気さくなやつなのかもしれない。
そういえばいつもは昼になるとすぐ起き上がって売店に向かってる様だし、もしかしたらものすごく食いしん坊なのかもしれない。
などと気付きを得つつ、とりあえず学食に少し興味があった僕は「確かに気になるな」と戸田の意見に賛成することにした。
話し合いの結果、唐揚げだった日替わり定食とカレーうどんの食券を買い、食堂カウンターに出す。
話し合いといっても戸田が意外と優柔不断で、券売機の行列の後ろもつかえてたので、最終的には僕が無理矢理決めた感はある。
ちょうどカウンターに1番近い席が空いてたから抑えて、番号を呼ばれて、出来ったご飯を受け取る。
僕はお弁当を目の前に広げて、戸田の目の前には学食ご飯が並ぶ。
どちらも大盛りだからすごい絵になっている。
体が大きいやつはよく食べるんだなと感心した。
「いただきます」
「いただきまーす…ん、けっこう美味し~!あ、唐揚げ1個あげる、美味しーよ」
返事を待たずに僕の弁当の蓋に唐揚げを乗せてきたのでありがたく頂いておく、1個と言ったのに2個乗っけてきた戸田は案外大雑把な性格なのかもしれない。
今日の僕の弁当は卵焼きと焼き魚と野菜の副菜だから唐揚げはメニューとあまりかぶらないのがちょっと嬉しい。
「高田くんのお弁当お母さんが作ったの?美味しそーだね」
「卵焼きだけは自分で作ってるよ、…ひとつ食べる?」
「え!いーの?食べる食べる!」
戸田は卵焼きを食べると美味しい美味しいと喜んでくれた。
「こんな美味しい卵焼き作れるとかすごいね~!」
─すごく褒めてくれる。良い奴だ。
ずっと教室では寝ているか、起きていても気だるげにしていて、自分とはまた違う形でテンションが凪いでいる人なんだろうと認識していたのでそんな幸せそうな表情もするのか、と何故か安心してしまった。
本当に食いしん坊なんだな、と思うとちょっと笑ってしまった。
「どーしたの?」
「いや、なんでもないよ、唐揚げ確かに美味しい。うどんも一口食べてみていい?」
それにしても、あまり意識しないようにしてるが、周りの女子の反応がすごい。
確かになかなか普段は見れないご機嫌な様子には驚くものがあるのだろうが…少し視線が不躾すぎる気もする。
自分が見られているわけではないのは十分理解しているが落ち着かない。
戸田は全く気にしていないようで、日々日頃ずっと注目されてる人間の耐性はすごいと思った。
昼食が終わったあと、教室に戻る途中の廊下で戸田は3年の女子に話があると捕まったので僕は一人で学校の端の旧校舎の影にある、裏庭に等しい人気のない場所のベンチに座って、ポケットから取り出した文庫版の小説を読んだ。
入学して最初にしたのは読書と言う体の1人時間を過ごすためのベスポジ探しだ。
春風が気持ちいいこの季節に、人気がなく、昼時に木陰がかかるベンチのあるこの場所は最適解だ。
周りはなかなか騒がしかったけど、幸せそうにご飯を食べる人ととる昼食も心地よかった。
そう思い返しながら、僕は満たされた気持ちで本の紙を指でめくった。
戸田は食いしん坊です。
ご飯も好きだけど特にスナック菓子が大好きです。
次は「友達…?」です。




