38.分からないこと、気づかないこと side-H
相変わらず戸田目当ての女の子でグラウンドはさっきの試合より人が増えていた。
「高田くん、打てるかな…」
と莉央が呟いた。
最近莉央は陽菜といる時に独り言にも聞こえるような呟きを良くするようになったが、陽菜はこれは自分に話しかけてると理解している。
「戸田くんとバッティングセンター行って練習してたもんね、打てるといいよね~」
豆腐屋の手伝いがあったのでいけなかったが、テスト明けの休日に陽菜も誘われていたのだ。
誘われて迷ったけど、テスト勉強で家の手伝いが出来てなかったから普段は手伝わない土日に手伝いを入れていたのだ、母にゆっくりしてもらいたかった陽菜はそちらを優先した。
─メガネつけてる人が打席に立つのってちょっと心配なる。
その高田が1-2塁間にちょうどいい感じのヒットを飛ばして出塁出来た時は莉央と二人でやったね!とはしゃいだ。
戸田はヘルプ要因と聞いていた。
打席にはたってないが守備の時バッチリ1塁にいて、しっかり捕球し、ホームに返し、綺麗な捌きを見せていた。
父がプロ野球好きなせいで、野球なら多少は観戦したことある陽菜にも経験者?と思わせる投球フォームと体捌きだった。
─どっちも経験者、な訳ないよね。身体能力高すぎない?
恐らくバスケも見に来ていた女子が「なんで野球も上手いの!?怖いんだけど!!」みたいな感じで嬉しそうに憤慨していたのに内心で同意した。
─肉体の頑健さと、運動神経の良さ、高得点ね。
でもまだ人間性はしっかり把握してない。
内面を深堀りするようなトークをするのはこれからなのだ。
過去の非行行為の噂がどこまで本当なのか、過去の行いについて今どう思ってるのかは知っておきたい。
─噂の半分くらいが本当だったとしても、反省くらいはちゃんとしてるんじゃないかな。
と普段のニコニコした穏やかな戸田を思い出しながら考えた、思わぬ期待を戸田に抱いてしまっていることに気付いて陽菜はハッとしたあと、苦い気持ちになる。
─期待なんて、バカバカしい。
他人に期待なんかしてもロクなことにならないのを陽菜は知っている。
自分が信じ、何かを期待しても許されのは家族だけだし、家族がいてくれればそれで十分だ。
─未来の旦那様。
未来の旦那様は、家族、になるのだろうか。
─分からない。
血の繋がりの無い他人が、家族のような存在になることが陽菜には上手く想像が出来なくて、そこから考えを進めることは出来なかった。
ましてや、惚れてるわけでもない、自分の将来の夢の為だけに選ぼうか決めかねているだけの相手に謎の期待をするとか、期待してしまったら望みの結果が来なかった時に失望もする。そんなのは身勝手が過ぎる。
自分がなぜそんな身勝手な感情を持ってしまったのかも、今の陽菜には分からなかった。
色々考えていたら、試合は戸田のクラスの負けで終わった。
戸田のクラスも奮闘したが、相手クラスは野球部が多く、1年エースがいたので勝つのは難しかったようだ。
莉央を少し急かしつつすぐ戸田たちに近づいて、「残念だったね!お疲れ様!」と声をかけて、陽菜の提案で4人で校舎方に戻ることになった。
学校の中では目立つほうの女子生徒の陽菜が熱心に話しかけていたおかげで戸田は女子生徒に絡まれずに済んだので、少しほっとしてるような面持ちだ。
─流石に移動の度にあれじゃ疲れるもんね。
「戸田のバスケの試合までちょっと時間あるし裏庭行こう」と高田が言うと戸田が「そうしよう!」と顔を綻ばせた。
陽菜にとって裏庭の存在は、知らない、と言うか存在は知ってたけど、ぼんやりとしか認識してない場所で、そう言えばこんなとこにベンチあったな、と思う程度のものだった。
そこは程よい木陰になっていて、過ごしてみると、暑いがなるほどなかなか居心地のいい場所だった。
普段戸田と高田、と最近は莉央も隠れ家のように使っている場所らしくて、そこに自分も誘われたことに、距離を詰めれている実感を感じて嬉しくなる。
座る場所が足りなかったので戸田が旧校舎の横に積み重なってた古い椅子を2脚持ってきてそれに座る。
女の子をベンチに座らせる辺り、モテる男感がある。
そしてさっきまでの試合の話をして和やかに過ごした。
「直哉ヒット打てたね~!」
「ちゃんとヒットになったのはあの打席だけだったけどね…でも練習の成果出た。」
莉央がうんうんと頷く。
「戸田くんって野球とバスケ経験者なの?」
気になってることを陽菜が聞くと「違うよ~」と戸田は答える。
「戸田は中学の時色んな部活のヘルプしてたらしいよ、それにしても運動神経いいよ。」
「部活に打ち込むとかは無理だけど、体動かすのは好きだよ~」
「私もランニングとか筋トレは好きだな~。」
「陽菜ちゃん帰宅部なのに筋トレとかすんの?ストイックだね~」
「たしかに野崎さん、バレーの時結構いい動きしてたよね。」
─あ、バレー見に来てくれてたんだな。私としたことが気付かなかった。
陽菜が「見に来てくれたんだね」とお礼を言おうと高田を見ると、高田はじっと莉央の方を見たので、陽菜もついつられて莉央をじっと見て、戸田もそれに合わせる。
視線が集まった莉央が「……運動、苦手。」と呟いた。
「それは見てればわかるね~。」
「浅葱さんは見ててハラハラする」
「莉央ちゃん、バレーでボールが自分のとこに来た時、全部目をつぶってたもんね…」
莉央の発言に対して、戸田、高田、陽菜の順でそう言った後、皆笑う。
陽菜がこの時、当初の目的や下心を忘れて心から笑っていたことに自分で気付くのはもう少しあとのことだ。
陽菜は真面目なので内出血が~などと文句を言いながらもバレーの試合はちゃんと集中してやってます。
そういうところも人に好かれる要因の一つです。
陽菜編終了。次は「球技大会1」です。




