34.野崎陽菜の欲望 side-H
球技大会の朝、陽菜は通学路を歩きながら、綺麗な横顔の女、浅葱莉央をじっと見つめる。
─Eライン綺麗…、眉間から鼻筋への角度も理想的ね。
重たい前髪に隠れているけど多分額の形も綺麗そうで腹が立つ。
陽菜の未来の夫ターゲット候補の男は、関われば関わるほど異性にそう容易く心を開かないタイプの少し難易度の高そうな人であることが分かる。
今のところあの学校では元々彼と同じ中学だった女子生徒を入れても自分が1番距離を詰めれている、そしてこれかどうさらに距離を詰めるべきかと計算していたところに現れたまさかの伏兵がこの女だ。
陽菜からしたらとんだ邪魔者で、初めて一緒にいるのを見かけた時は死ぬほど驚き、なんの苦労も無さそうに常に一緒に行動するようになっているのを見ると若干の殺意も湧いたけど、そんな感情に飲まれるのは3流の女がすることだと自分を諌めた、女の勘的には男女の仲にはなってなさそうだったし、なっていたとしてもひとまず、すぐ莉央を利用する方へ陽菜は舵を切った。
─トントン拍子に話が進んで、一緒に学食でお昼を取れたり、勉強会が開催されたのには驚いたけど。
はぐらかされたり流されたり断られたりを前提でジャブ打ち、そうなったら即撤退でまた距離を詰め直そうと言う感覚で誘ったから、まさか即OKされるとは思わなかったのだ。
─自分が予想してた以上に懐に潜り込めてたってこと?
誘いはすんなりOKだったけど、戸田の反応は以前、少し仲が深まった時と比べてからは変わってない気がする。
楽観視はダメだと、手を抜かずこの球技大会でさらに距離を詰めるのだ、と陽菜は自分を諌めた。
浅葱莉央がどうやって戸田啓悟に近付いたのかちゃんと知りたかったから情報収集のために登校中に近付いたら、いじめから守ってくれたのがきっかけだったことすんなり教えてた。
─説明は下手だったけど。確かに、それくらい大変なことがないと接点なんか出来なさそうな感じだよね。
ちなみにそのいじめ行為については、私はもう心配していない。
戸田達の予想通り1組のバカ2人が実行犯だってことは、陽菜が調べたらすぐ裏が取れた、本当に愚かなことに自分らのいじめ行為をやってすぐに自慢がてら周りに吹聴していたらしい。
その2人の周りの人間に「友達が靴を汚されちゃったみたいで…」と名前は出さずに世間話として振っただけで容易く情報が入ってきたのは嬉しい誤算だった。
─イジメ自慢を聞いた子達、普通にドン引きしてたからすぐあれはないわ~って感じで話てくれたしね。
その後に1組のギャル2人と繋がりがあるけどその2人を実は嫌ってる子に、2人が戸田をキレさせた時のことを話題に出して、戸田の数ある噂の中で1番エグい「戸田を可愛がってた怖い先輩が戸田に危害加えようとしたやつを行方不明にした」って内容を話した上で「女の子相手にそんなことにはならないだろうけど戸田くん怒らせちゃった2人が心配」と嘯いてみて、それを知った2人の反応までしっかり把握したから、浅い深い関係なく戸田と繋がりがある限り、浅葱莉央がまたいじめられるなんてことは起こらないはずだ。
─いじめとか、死ぬほどくらだない。そういう行為をするやつって見てるだけで吐き気する。
莉央から話を聞いてあのメガネくん、高田直哉の好感度はさらに上がった。
─うちの豆腐の良さをわかってる時点で高得点だったんだけど、正義感が強くて、行動力と配慮もあるとかかっこいい。
喋ってないと戸田啓悟以上になに考えてるかわからない人だけど、根底に善性があるのは間違いないと感じた。
そしてメインターゲット候補の戸田は…、
まだ性根が腐ってるような感じは見えてこない、高田に甘えたり色々決めてもらってるのを見たりする感じから、少し子供っぽい部分はあるけれど、それでいて鋭い目で他人を見ていたりしてなかなか掴みどころがない。
ペラペラに軽いようでいて、変な重さがある。
整った顔と雰囲気が生み出すオーラに誤魔化されてるだけで、本当は何も考えずに即物的に生きてるだけな気もする。
─初めて関わるタイプの異性だからどうも今までのパターンに当てはめることも出来なくて見定めに苦戦してるな、まだ要観察って感じかぁ。
陽菜が知る中学の頃にいたヤンキー男子は、皆いばってて見栄っ張りで、言ってることが2転3転する阿呆と言う印象しか無かったけど戸田はそれには当てはまらなかった。
そして浅葱莉央だ。
美しい、整った容姿、その気の強そうな顔に似合わず、中身は真性の天然ボケだった。
─抜けてる子ってたまにいるけど、なんかこの子のはもっと特殊な感じする。
慣れたら案外思ってることが表情に出ることが分かったし、なんだか妙に懐かれているというか、陽菜が莉央からある程度以上の好意を持たれてて、それに他意がないのも伝わっている。
─人を貶めるとか、裏で悪口を言うとか、腹芸とか、そういうの出来なさそうなのはいいと思うけど。そういう意味では無害認定が出来る。
警戒心から、一応莉央がいつか手のひらを返したり、自分を嵌めようとする未来を想像はしてみるが、まっったく現実味がないのだ。
─あの子が悪口を言う?誰に?どんな内容を?そもそもロクにしゃべりもしないのに。
そう考えて陽菜は少し笑う。
でも美人で天然、陽菜がその分野ではどう足掻いても勝てない相手だ。
よそ行きの自分を演じるのは得意だけど、自分のブランディングに天然の要素はないし、天然を自然に演じる能力も陽菜にはない。
あの2人の関係性を見たところ、将来戸田をターゲットと定めた時、確実に障害物になるタイプな気もする。
─早めにどうにかして排除するべきなのは分かってるんだけど。
頭でわかっていてもどうしても出来ない。
出来ない理由は明確だ、排除以上にしたいこと、いや、もはやするべきこと、が発生してしまったのだ。
「莉央ちゃん、球技大会も髪の毛下ろしたままで出るの?」
のほほんと歩いている莉央に陽菜が声をかけると、莉央は少し考えて頷いた。
「そうじゃないかと思った。運動の邪魔になっちゃうよ、莉央ちゃんのために道具持ってきたから、大会始まる前に整えちゃおう。」
陽菜は有無を言わせないようにっこりと笑って櫛とヘアアイロンとヘアアクセとメイクポーチを入れたサブバックを持ち上げて莉央に見せたのだった。
陽菜はルッキズム拗らせてますが自己肯定感は高いので、自分より美しいものを妬むタイプではないです。
薔薇には薔薇、百合には百合の美しさがあると思ってます。
むしろ美しいものに弱いタイプです。
次は「はぁ~~楽しいぃ~~!」です。




