32.カラオケにて
「テスト終わった~~~!」
4日目の最後の教科が終了して、終礼が終わると戸田が嬉しそうに言ってくる。
「今回真面目にテスト勉強したけど、やっぱ俺勉強嫌いかも~」
へにゃりと少し困った様な笑顔で戸田は言う。
─頭の出来も、成績もいいのに、勉強は嫌いなんだな。変わってる。
でも頭がいいなら適当でもそれなりにいい成績取れるから、それはそれでありだよな、と思いながら「じゃあ次からは適当にする?」と戸田に言う。
「勉強は嫌いだけど、皆と頑張るのは楽しかったから頑張る~。」
─なんかすんごい可愛いことを言っている。
ここ最近では僕はもう戸田のことを完全に元不良としては見れなくなっている。
いつもニコニコして全然短気とかでもないし、荒々しさとかも全く感じない。
ワガママな所はあっても「あれが食べたい~」「これがしたい~」「動きたくないからあれ取って~」みたいな″甘えてる″で済むようなレベルの内容のことしか言わない。
むしろ野蛮なとこがあるなら1度見てみたいくらいだ、1組の女子にキレた場面を見逃したのは勿体なかったのかもしれない。
そんなことを考えてたら、うちのクラスの終礼が終わるのを待ってたのであろう野崎さんが、廊下からひょこっと教室を覗いてきた。
浅葱さんがガタンと立ち上がって、僕らの方を見たあとにスススっと野崎さんの方に歩いていったので僕らも立ち上がる。
そうやって合流した野崎さんも、開放感でいっぱいの様子だ。
「今回手応えあったんだ~!皆と頑張ったおかげ~」
とても嬉しそうに言っている。
「打ち上げはどこいくの?」と戸田が言うと野崎さんが「実はカラオケ行きたいんだよね、皆がよければ」と言う。
「全然いける~」
「カラオケいいね」
「……(頷く)」
浅葱さんの反応に僕は一抹の不安を覚えながらも、一応満場一致という形で、本日の打ち上げはカラオケに行くことに決まった。
僕は友達との初めてのカラオケに内心ソワソワ以下同文だ。
駅の近くにある、学割の効くカラオケ店、このお店には初めて来たが、実は僕はカラオケにはよく来る。
父がカラオケ大好きなので単身赴任前は家族でよくカラオケに行っていたのだ。
─ふふふ、アニメが好きだからアニソンが大好きだけど、ちゃんと一般の方の前で披露する用の歌もその時に練習済みの俺に抜かりはないっ
などと考えていたら部屋についた。
「部屋暗い方がいい~?」などと野崎さんが聞いたが皆こだわりがないので、とりあえず明るくしようと照明を入れた。
戸田はコーラと大盛りポテト、僕と野崎さんは烏龍茶、浅葱さんはジンジャエールを頼んで届いたら乾杯した。
「「「期末テストお疲れ様~!」」」
「…さま。」
「テスト大変だったけど、皆で集まって勉強するの、意外と集中できたし楽しかった~!」
野崎さんがそういうと、戸田が「好きにつまんでね」と言ったポテトを早速つまんでいた浅葱さんが、ポテトを咥えながらコクコクと頷く。
「うん、またテスト前はやろうよ~。」
戸田の意見に僕も「いいね」と頷く。
野崎さんはカラオケの選曲用端末をピッピッと操る。
「カラオケ高校生なって来てないから久しぶり~、勉強でストレスたまると歌いたくなる派だからずっと来たくって。」
「俺も最近は夜外出てないから久しぶりかも~」
「……。」
─浅葱さんがカラオケ初めての可能性出てきたな。
そう思いながらも僕は戸田に話しかける。
「もう予言しとくけど、戸田は絶対歌うまいよね。」
そういうと何故か野崎さんが吹き出すように笑いだした。ウケた。なんか嬉しい。
「ふふっ、あはは、その予言、当たってそう!!」
「え、やめてよ!ハードルあげるのっ」
珍しく焦った戸田を見て僕も笑う。
「可愛がってくれてた先輩?が人に歌わせるの好きな人だったから多少は歌えるけど…なんかそのフリは歌い辛いってば」
「いや、下手だったら逆に感動するから大丈夫だよ」
「なんで感動!?」
戸田にも弱点あったんだなって感動すること間違いなしだ。
まだ僕の発言にややウケしてくれてた野崎さんが自分の曲を入れて、気持ちを切り替えるように深く呼吸したあとに歌い出した。
よく聞く流行りのアイドルソングだったんだけど、きっちり上手いし、声が可愛すぎる。
─喋る声もかわいいもんなぁ野崎さん、はぁ~可愛くて綺麗な歌声癒されるぅ~。
ペンライトを全力で振りたくなる気持ちを抑えつつ、歌ってる野崎さんを見つめる浅葱さんに話しかける。
「端末の使い方分かる?歌える曲ある??」
野崎さんが歌えると言ったのはちょうど自分らの親世代で売れてた歌手の歌だった。
少し棒読みな歌い方が実に浅葱さんらしいなと感じたし、子供が歌ってるみたいで可愛かった。
戸田は…予言通り、バカうまだった。
歌い出しの発声から素人の歌唱とは違う上手さがあって、僕と野崎さんでやっぱり!!と大爆笑したのは言うまでもない。
「なんで笑うの~!?」
と戸田も戸惑いながら笑っていた。
「ごめんごめん、歌って歌って。」
もちろんその後は真剣に聴いた。
この子にはイケメン歌手の道もあるのかとしみじみする。
歌い終わったら皆拍手だ。
「上手すぎ」
「天才」
「……。(拍手)」
「やめてっ、なんで俺だけ拍手あるのっ!」
いじられてる戸田は貴重だなと思いつつ拍手を続けた。
僕も最近のバンドの有名な曲を歌った。
自慢ではないが僕の歌声は、下手でもないが上手くもない。
でも野崎さんは「声に味があっていいねっ」と言ってくれた。
─野崎さんは優しいなぁ、お世話でも嬉しい。
「エンドロールとかshakumageとか、その辺高田くんの声に合いそうだよね。」と名前は聞いたことあるなってバンドを進めてくれたので今度聞いてみようと思った。
お世辞に、そうやって追加の要素を足すだけで、お世辞感がなくなって、本当に良いと思ってくれてるような気がする。
やはり野崎さんの対人術はレベルが高いなと思い知らされる。
最初は気を使ってしてた選曲も1時間経たないうちに早々にネタ切れとなり、後半は普通にアニメの主題歌を歌ったが、最近のアニソンは一般の人も耳にするくらい有名なものが多いのか、特に変な空気になることもなく、楽しい時間だった。
痛い思考から抜けたあとも「友達…出来ないだろうなぁ」と思いつつも、もし友達とカラオケに行くことになったらを妄想して普通の曲を練習する、直哉(主人公)は可愛いやつです。
次は「普通の夏休みの過ごし方」




