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2.少し迷惑なクラスメイト

新学期が始まって早1ヶ月が経過した。

授業にも問題なく着いていけそうだ。


先週は単身赴任の父が帰ってきたので家族で僕の入学祝いと妹の進学祝いを改めてしてもらった。

父さんからは皮のベルトの腕時計、母さんからは質の良さそうな筆記道具、妹からは漫画でも買えばと図書カード二千円分をもらった。


うちはお小遣い制だが、中学生の二千円の価値がどれくらいのものかは分かっているから、表面的には不仲と言えども妹は僕に優しいなと感じる。

父が帰ってくると妹は上機嫌になるから、僕への当たりも柔らかくなる。



クラスはと言うと、徐々にグループが形成されつつも特に何か波立つようなことはなく平和だ。

僕も特定の友人などはまだ出来てないがクラスメートと会話が無いわけでも無い。

中学の時も3年間特定の友達はおらず、こんな感じだったので特に居心地が悪いとかもない。

多くは語りたくないが、中学校の時の黒歴史とも思える自分の思考が成長と共に闇に葬られたぶん、むしろ過ごしやすいくらいだ。

問題…という程では無いが、ひとつ難を上げるなら後ろの席の戸田啓吾だ。


彼は学校は基本寝ている。

自己紹介の趣味に嘘偽りがなかったのが証明されるほど寝ている。


彼の中学時代の素行の悪さは僕の耳にまで入ってきてたから朝から学校にちゃんと居るのが意外なのだが、ほとんどの時間を机に突っ伏しているのだ。

何が困るってまずプリントだ。

僕が前の席で受け取ったプリントを後ろに回す時高確率で寝ている。


─と言うか何故教師はこいつを起こさないんだ?


暗黙の了解でもあるかのごとくこいつに一切触れない。熱血そうな担任ですらそうだ。


「戸田!戸田!!プリント!!起きろ!」


大きな声を出すのは目立つからしたくないため、抑え気味の声で戸田を起こすというミッションが発生する。

声をかけても全く起きない時は、戸田のプリントだけ分けて残りを後ろの席へ渡し、デカい戸田が突っ伏してる机にプリント置く隙間なんかないから僕が預かって戸田が起きたタイミングで渡すことになる。

地味に手間である。

声掛けで起きたら起きたで、めちゃくちゃ睨まれる。

最初は″迷惑かけたやつが睨むかね?″と憤慨してたがよく見てるとこれは不機嫌と言うよりは寝起きが悪いだけの様で、別に僕に怒ったり文句があるとかその後の態度が悪くなるとかでもなく、プリントも普通に受け取るので途中から気にしならなくなった。

ただ周りどころか先生も怯えてる様に見えるし普通にやめて欲しい。



休み時間に起きてたら起きてたで、今度は狙ったように戸田の席に他クラスの女子が寄ってくる。

それが実にうるさいのだ。


明るい女子とは基本騒がしいものだし、人の会話を勝手に耳で拾ってムフムフするのは癖と言うか趣味なので自ら進んでしていることなのに、徐々にそのうるささに辟易してるのは何故なのか。


─もしかして自分は女子生徒に囲まれてる彼が羨ましくて嫉妬してるのか…?


とも考えたけど、もし自分が同じ状況になったら、テンパる、ろくな会話が出来ない、と言う地獄を見るのが簡単に想像出来て、むしろごめん蒙りたいからそれは違うだろうと思った。


それによくよく会話を聞いていると、戸田も女の子に囲まれるのもそんなに喜んでいなさそうだ。

そつ無く会話してるが言葉の端々に面倒だなって意思を要所要所で感じる気がする。


「DMなんで返してくんないの?」には

「DM苦手~、あんま見ない」

「今度遊ぼうよ」には

「最近忙し~」

「連絡先教えてよ、通話しよ」には

「通話嫌い~、インスタなら教えるよ~」などなど。


他にも戸田の個人的なことを探る質問の答え方、どれもしっかり相手に″お前は内側に入れませんよ″と言う線引きをした対応だ。


女子らにはいまいち伝わっていないのか、しつこく戸田の何かしらを求める手を止めることはない。

戸田と女の子達との会話を聞けば聞くほど、モテたところで、ハーレム漫画の様に都合よく可愛くて優しくて物分りがあってそれぞれ違った個性や魅力がある女子ばかりが集まってくるわけではないということも学びになる。



何よりも戸田はその子らと絡んでる間、1度も、クスリとも笑っていない、声に喜びがない。


─けっこう分かりやすいく感じるけど何故女の子達は気付かないんだろう…不思議だ。


あの穏やかな感じの喋り口が分かりにくくしてるのだろうか。

腕を組んで袖が長めのニットで口元を抑えるポーズが人と話す時の癖らしいが、その可愛らしさで色々誤魔化されている感もある。

わかりやすく冷たくはしてないからだろうか、モテる者ゆえの余裕が悩みを産んでるのかもしれないな、と全然集中出来なかった読みかけの小説を閉じる。



休み時間に担任に用事を頼まれて教室に戻るのが遅れた僕は急ぎ足で廊下を進む。

次は移動教室でもう皆行ってしまってるだろうし

、僕は授業に間に合わない。

担任が遅れる教科の先生には後で言っとくと言ってくれたがなんとも不安だと思いつつ教室に入って思わずため息をつく。


また戸田啓吾が寝ているのだ。

そういえば移動教室の時は特に後ろを気にせずに早々と移動していたけど、よく思い返せばこいつはよく移動先の教室に遅れてきたりそのまま来なかったりしている気がする。

起こして連れて行くべきか少し迷う。

でも不良がちゃんと朝から学校に通うってことは、授業態度はともかくなにか目的や目標があるのかもしれないしなと思い戸田の肩に手をかける。


「戸田!起きろ!次移動だぞ!!戸田!!」


声の音量を気にせず方を揺すると「んー」と言いながら戸田が起き上がる。


「次化学ね、実験室。」


自分の教科書とノートを用意しながら声をかけるとしかめっ面で「かがく…」と言いながら戸田も机を漁り出したので、授業に参加する気はあるってことは起こしたのはお節介ではなかったかと内心で安心する。


準備が完了してなんとなく戸田を見るとこっちを見返した戸田に「ちょっと待って」と言われてしまい、準備が出来た戸田と一緒に移動することになった。


「俺、実験室どこか分かんないや」

「実験室での授業は今日で2回目で、たしか1回目は戸田不参加だったからね」


ぼんやりと独り言のように呟いた戸田の言葉に答えつつ、場所を知らないから僕に待ってと言ったのかと納得する。


「てか実験室どころか自分のクラス以外の教室と売店以外の場所まだ全然分かんない」


学校いる間ほぼほぼ寝てたらそうなるだろうな。


「分かんなかったら聞けばいいよ。」

「…高田くんが教えてくれんの?優しーね。」


その辺の人にって意味で言ったのだが、僕に聞けって意味で戸田は捉えたらしくその綺麗なお顔でこっちを見てくる。

眠たげ、気だるげでも見透かすと言うか見射るような目線で人を見る男だ。

その感じが、なんとなくこいつを舐めたらいけないぞと言う支配的な空気のようなものを出しているのだろう。


「まぁ…自分が分かる範囲なら答えるよ。」


人に聞けばと言ったつもりではあるが、自分に聞かれても何も困らないなと思いそう答えた。



その日から戸田は何かと自分に構うようになった。

恋愛下手な女の子は自分が相手に求められてないとなんとなく分かっていても″関わりたい″という欲求を優先させてしまうところがあります。

まともな子は塩対応されたら悲しみ身を引くので、結果関わり方が下手な子が残る悪循環も起こります。


次は「イケメンと食堂」です。

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