20.戸田バリア
玄関の靴箱に仕舞われていたまだ1度くらいしか履いてないスニーカーを浅葱さんに履かせてみると、予想通り普通に履けてしまった。
思春期の男としては少し立つ瀬がないが、いじめ被害者相手に自分のプライドなど些末なものだと開き直る。
乾いた靴を新しいビニール袋に入れて、浅葱さんに渡す。
戸田と一緒に玄関先で見送ると小さな声で「高田くん、戸田くん、……ありがとう。」と言って浅田さんは帰って行った。
ずっと静かだったから、押し付けがましいことをして困らせてるんじゃないのかと内心不安があったのだが、初めて見せてくれた淡い笑顔とお礼の言葉で僕がしたことは正しかったんだという事が知れてとても嬉しい気持ちになった。
─それにしても一緒に過ごすって言ったのは戸田だけど、いいのかな、戸田って多分だけどあんまり女の子好きじゃないよなぁ。
と考えていたら、タイムリーに戸田が「なんか面白い子だね、あの子」と言ってきた。
─え、まさかのおもしれー女認定?ラブコメが始まる予感か!?
と脳内で高まったが、くだらない発言がフラグを消失させることも多々あるし、下世話な絡みは控えたいので心の内で留めておいて「そうだね。」と答えた。
次の日の朝、教室に入るとドアの近くに席があった浅葱さんと目が合った。
「浅葱さんおはよう。」と声をかけると「おはよう。」とタメがなく返事があった。
会話は独特な間があるけど、挨拶だけは条件反射で返せるんだな、と僕は思う。
戸田も同じ様に声をかけて挨拶をしていて、ちょっとクラスメイトから疑問符が浮かぶような顔をされていたのが少し面白かった。
昼休みになって戸田が「莉央ちゃ~ん、学食行くよ~!」と大きな声で話しかけると、クラスメイトはザワつく。
自分が声をかけようかと思ったけど″戸田にビビっていじめをやめてもらう″には戸田と親しいところを見てもらわないと、と言う話し合いの末、戸田に頼んだ。
浅葱さんは頷いて立ち上がるとスススっと静かに僕らに近付いてきた。
ざわめくクラスを後にして廊下に出たが、廊下でも驚きと奇異の目で見られる。
─昨日まで全く接点なかった者同士が繋がっただけの話でこんなに注目されるとは、女の子が浅葱さんってのもあるけど、戸田の注目度がすごいんだろうな。さすがファンクラブを持っていた男。
戸田の横は浅葱さんにガッチリホールドさせて歩き、僕はそのすぐ後ろから周りを観察した。
「え、どーゆーこと?」「なんでなんで?」などと女子の声が聞こえてきて、戸田は勿論どこ吹く風で歩き、浅田さんもぼんやりとした表情をしている。
「莉央ちゃん、いつもパンだよね~?例の2人は昼学食でよく取ってるからさ、一緒にいるの見せるためにも今日は学食付き合ってね~」
と戸田が小声で浅葱さんに耳打ちすると、声の届いてない様子の周りの女子は、静かに阿鼻叫喚する、という器用なことをしていた。
─これ、もしかして違うとこから新たな恨みを買うのでは??
と、とんでもないことに気づいてしまったが後の祭りだ。
売店に近づくと少し遠くから野崎莉央がこちらをら見ていた、本当に一瞬めちゃくちゃ驚いたように目を見開いてた気がするが、いつもの笑顔で近付いて来たから気の所為かもしれない。
「戸田くん、高田くん~!今日もパン?あ、学食なんだ、いいね~。」とにこやかに会話のやり取りをしながら浅葱さんに目を止める。
「あれ、戸田くん達のクラスの…浅葱 莉央さん、だよね?名前合ってるかなぁ。今日は3人で学食?」
「そうだよ~」
ほんとにいつもと変わらないにこやかな感じで会話が進んでいるけど、もし野崎さんが戸田に恋愛感情があった上で話しかけてるならこれは修羅場と言うやつなのでは!?と気付いてしまった僕に、緊張が走る。
目の前でやたら悲しまれたり、女の子に対してチクチクと嫌味を行ったり、私も行きたいと言う、次は私と行こうと言う、挙句の果てには自分と行かないのは何故かと責める女の子もいるかも…と今まで戸田に絡んできた女の子のパターンからくる最悪の予想が展開される。
しかしその予想達とは違って、野崎さんは両手を口の前で合わせて花が綻ぶような笑顔で「そうなんだ!楽しそう!」と言った。
─考えすぎだったか。そうだよな、そもそもまず野崎さんはそんな人じゃないし。元は確か困ってるとこを戸田が親切にしたのが知り合ったきっかけだから、友達として絡んでるんだろうな。戸田もあんまり浅葱さんのことは嫌がってない感じするし。
野崎さんは浅葱さんをじっと見つめたあと、浅葱さんの手を自然に掬い握って「莉央ちゃん、すごく可愛いね、私3組の野崎陽菜!これからよろしくね!」と言う。
─ほんとこの人コミュ力お化けだな。いや、女子ってこんなものなのかな?
と思いつつ浅葱さんを見ると、消え入るような声で「……よろしく。」と答えていた。
─それに比べて大丈夫かこの子。本当心配になる。
「ねぇねぇ!良かったら今度皆で学食食べない?ご飯って沢山で食べると美味しいし、私お弁当ばっかりだから1回学食のご飯食べてみたかったんだよね」
僕がさっき考えていた最悪の予想にあったのと似た内容の発言なのに、弾むような声で自然に軽やかに重みなく人を誘うこの感じに不快感は全く感じず、これは断らなくてもいいんじゃないか?と戸田に僕が言いたくなるくらい、まったく違う捉え方が出来た。
「いいね~!じゃあ明日の昼はそうしようか~」
戸田が即答でそう返すと「えっ!…嬉しい!ありがとう、楽しみ!」と答えた野崎さんの斜め後ろにいた野崎さんの友達の女子からも嬌声があがる。
いいの?と思いながら戸田を見たが、特になんの不満もなさそうな、いつものように余裕のある横顔だ。きっと戸田には戸田の考えがあるのだろう。
野崎さん達と離れて学食に入ると一気に注目された。
学食には戸田の狙い通り例の2人がいて、ちょうど食券を買っていたので、その少し後ろに並ぶ。
戸田が甲斐甲斐しく浅葱さんに話しかけるのをチラチラと見て青い顔で何か小声で話している。
いじめっこの可能性が高い2人を前に辛い気持ちにならないかな、と浅葱さんの方を気にしたが、特にいつもと変わらない様子で戸田の会話に短く返事を返していた。
─まぁまだ実行犯と確定した訳じゃないからな、でも日頃嫌味は言われてるだろうに、大人しい人ってだけであんまり怖がったりはしないタイプなのかな。
絶対に口には出せないが何も考えてない可能性も…
と思ったところで僕は考えるのをやめた。
頼んだものが来て、昼食が始まる。
今日は戸田が日替わり定食のチキン南蛮と、きつねうどんの大盛りを頼み、浅葱さんはハンバーグランチを頼んでいた。僕はお弁当と、いつものように戸田と好き勝手にシェアする感じだ。
僕が戸田に分けてもらったチキン南蛮を食べようとするとこっちをじっと見ていたらしい浅葱さんと目が合った。
「…野崎さん、仲良い?」
─初めてこの人から話しかけられた気がする。
「俺よりは戸田の方が仲良いと思うよ、ね。」
と、戸田に話を振る。
「そだね~、陽菜ちゃんは話しやすい子だね~」
戸田がそう返すと「…そう。」と言って食事に戻った。
─明日大人数で昼食取る事なったし人見知りかもしれない浅葱さん的には嫌だったのかな?
と心配して彼女を見たが、口元が緩んでいるというか、今まで見た事ない表情をしていて真意は汲み取れなかった。
授業が終わって3人で靴箱に向かう。
放課後すぐの人通りが多い中で靴に危害を加える大胆さはなかったのか、それとも戸田と仲良しアピール大作戦が効いたのか、なんの問題もなく靴がおいてあった。
勿論靴以外の物にも危害を加われることはなかった。
自分らが帰った放課後に隠されたり捨てられたりしたら、誰にされたかも分からない上に困るからと、今度は使用されてない空の靴箱に履いていた上履きを隠して帰ることにした。
浅葱さんは電車通学だから橋を渡ったら駅に向かうのでそこから僕とは方向が違う。
駅まで送ろうかと言ったが首をぶんぶんと横に振られて遠慮される。
─でもまだ向こうの出方がわかんないからなぁ、逃げてくれるのか、いじめが続行されるのか、悪化する可能性だって絶対無いわけじゃないから今が1番警戒した方がいい時期なんだよな。
と考えていたら戸田が「俺駅の近くが家だから俺が送るよ~今日いったん帰りたかったし~。」と言い出して有無を言わさず浅葱さんを駅まで送ってくれた。
学校帰りはだいたいそのままうちに遊びにくる戸田が気を使ってくれたようでこの日は浅葱さんを送ったあとに、家によって私服に着替えて自転車でうちに来た。
自転車買ったんだ~とシティファットとか言うらしいなんだかやたらかっこいい見た目の自転車を自慢された。
カッコイイ奴は乗る自転車すらカッコイイのだなと心底感心した。
今回少し長くなりました。
次は「大人数の昼食にワクワク」です。




