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野崎陽菜 1-5

戸田がキレたらしい。


そんな噂は一瞬で1年生中に回った。


ユイとミサキが興奮しながらペラペラと喋った噂の内容はこうだった。


キレられたのは戸田によく話しかけていた1組の声がギャル2人。

戸田狙いの女は同学年も上級生もどんなのが話しかけてるかチェックしてた陽菜には認識があり、ただ化粧が濃いだけの凡人面で、やたら声がデカく耳を済まさずとも入ってくる会話の内容は酷いものだったから、陽菜は注視する必要も無いレベルだと評価していたやつらだった。


そいつらがトイレから教室に戻る途中に戸田を捕まえていつも通り下手くそな絡みをした際、その場に居ない高田直哉のことを話にだして「あんなダサいのと付き合うのやめなよ」みたいなことを言ってしまったらしい。

最初は優しく「そんなこと言わないでよ~」といなしていたけど、しつこく「戸田に似合わない」などと繰り返した馬鹿2人についに戸田が「お前らさ…加減にしろよ?」となったらしい。


手を出したりはしないが、キレて凄んだ戸田の剣幕と声色がそれはもう恐ろしかったらしく、それを見ていた周りもドン引きしたとか。

「気持ちの悪い考え方を俺に押し付けんの、やめてね」と言った後「二度と俺に声をかけるな」と言われたギャル2人もごめんなさいと謝って脱兎のごとくその場から逃げ去ったらしい。


-ふふふ、自分から全力で地雷踏みに行くとか、愚かすぎない?


陽菜は思わず吹き出しそうになったのを全力で我慢しながら「酷くない?友達のこと悪くいうとか怒って当然だよ!それに高田くん、すごくいい人なのに…」と、戸田のついでに高田も庇い、クラスの男のなんていい子なんだ!と言う内心の評価を拾うのを陽菜は忘れない。


陽菜の意見に周りはその通りだと賛同した。


戸田の不良としての怖さも目立ったが、それ以上に友達のために怒った男として、戸田の評価は下がるどころか激しく上がったらしいのを周りの空気から感じる。


─まぁいつか私が手に入れる可能性があるなら、評判はよく居てもらわないとね。


「てか、その場にいたかった~」

「ねぇ~!キレてる戸田くんも絶対カッコイイよね!遠目から見てみたい!!」


ユイとミサキがはしゃぐ。


「ふふ、流石に男の人がキレてるの見るのは怖くない?」


─…カッコイイか?てかいくら友達バカにされたからって女の子相手にガチでキレるとかダサくない?一応一番の候補だから庇ったけど、マイナスポイント過ぎるんだけど。


ユイとミサキの話に答えながら、そう考えた。

「怖くても見たい欲の方が勝つ!」「絶対安全な場所から見たい!」などと2人は楽しそうだ。


─女の子…。


陽菜はキレられたギャル二人の普段の戸田への絡み方の酷さを思い出して「まぁアレ相手ならキレても仕方ない気もする」と思い直した。

陽菜だって戸田に同情するレベルのウザ絡みを彼女らがしてたのは事実だ。

むしろアレを今まで適当にスルー出来てたんだから、戸田は地雷を踏まない限りは温厚とも言えるのでは無いのだろうか。


─どちらにせよ決定打には欠けるし、要観察だね。



それから戸田に話しかける女子は高田直哉のことも尊重するようになった様子だが、問題が起きてから改善するより、前もって正しい行動を出来た自分にアドバンテージがあるはずだと陽菜は確信を持っていた。

自分が先駆けていると内心で胸を張り、戸田がキレた事件には一切触れることなくまたいつも通り戸田と高田に話しかけた。


心配していた元同級生のリナの件も、蓋を開けたら女側の勝手な暴走行為だったので呆れてしまった。

遊びの場で一緒になる機会が多かったのに、名前もまともに把握してもらってないだけの女が、よくもまぁあんなにSNSに彼の写真を我がモノのようにあげたものだと陽菜は感心した。


─思い返せば何人か含めて撮った写真をアップにしてトリミングしたんだろうなって荒い画像のとか、横からとか後ろ姿とか、1枚もカメラ目線の写真もなかった気がする。要するに隠し撮りのようなものだ。



これに関しては戸田に言ったように、陽菜がその子にちゃんと注意するべきか悩んだけど、最近は戸田とリナが会ってないせいかそれについて更新もないし言うタイミングがな~と迷っていた。


丁度そのタイミングで、元同じ中学の口が軽くて影でスピーカーと呼ばれていた子からDMが届く。



『陽菜の高校ってあの戸田君いるんでしょ!?』

『やっぱりクソイケメン?写真見たい』


「カッコイイよ~女子皆騒いでるよ」


『マジか、写真みたい』


「私は写真持ってない」

「サヤがめっちゃ隠し撮りしてたから沢山持ってると思う」


『マジwwサヤに連絡するわ』



サヤは陽菜と同じ高校に通う元同じ中学の子だ、スピーカーも勿論共通の友人なので写真はサヤから貰えるだろう。

陽菜は写真を持っていたとしても無断で横流しなんて気持ちの悪いことに加担したくないので、その役目はそれを喜んでしそうな子に流すことにしている。



『てか、戸田くんてレナと付き合ってるの?』

『ストーリーよく出てたよね』


「戸田君、レナのことは見たことあるって言ってたけど、絡み少ないとも言ってたから、付き合っては無いんじゃないかな?」


『えww』

『付き合ってなくてあの激エモ匂わせストーリーあげてんのヤバwww』


「う~ん、片思いとかしてるんじゃないかな?」

「戸田くんかっこいいし」


『片想いでアレとかもっとヤバいってww』


「でも戸田くんこれからリナ達とつるむ機会減るって言ってた」

「会えなくなったらリナも興味なくなるんじゃないかな?あの子モテるし」


『あーだからなんか最近は無駄にポエムってるんだあの子ww』

『てかリナはヤリモク男に人気なだけでしょww』



─…完全に同意ではあるけど、悪口を記録に残す子ってホント馬鹿過ぎ。こっちは晒されたら今まで培った印象全部ダメになるから死んでも乗らないけど。


陽菜は適当に話を変えて、適当にDMを終わらせた。

悪口に乗らないことにムッとされただろうけど、スピーカーからの評価は陽菜に取ってなんの価値もないからどうでも良かった。

きっと今頃スピーカーは得た情報を配るために嬉々として元同級生達にDMし始めているところだろう。


─ひとまずはこれですぐ話が回るから痛い女の一方的な匂わせ行為だったとリナと繋がってる元同じ中学の女子ほぼ全員には認識されるね。戸田君ももう会わないっぽいこと言ってたし、今回の件は、またリナが同じことやらかした時に注意する、でいいか。


戸田を攻略に本腰を入れてそれが成功しても、あの女のおさがり認定されなくなることに陽菜は安堵した。



でも陽菜はまだ戸田の人間性が良いか悪いかは測りかねていた。

付き合いが短いのもあるが、飄々としている戸田に掴みどころがないのだ。


─話していて不快感はないけど、ド屑かもしれない線はまだ消えてないわ。


陽菜はじっくり様子を伺うことにした。


─理想は2人、いや、最初は人数多めとかで学校外で遊ぶことかな~、そっちの方が人となりが見える気がする。そう考えると戸田くんに仲のいいクラスメイトが出来たのってラッキーだったのかも。


上級生も含めて本気で取りに行くべき男子はいない、皆練習用の踏み台に使うしかない感じだ。

だからこそ地元に残って夢を叶えれる唯一の希望、その可能性を易々と捨てるつもりはない、陽菜の高校生活はまだ3年もあるのだ。

陽菜ちゃんの独りよがりな作戦は続きます。


次は「浅葱莉央との出会い」です。

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