野崎陽菜 1-1
野崎陽菜の朝は早いー。
4時45分には目覚ましを止めて、顔を洗う。
早春の早朝、まだ水道の水は冷たく、洗面所の寒さに軽く震えつつも陽菜は洗顔とスキンケアを終わらせた。
部屋に戻って作業に素早く着替えて階段を降りる。
陽菜の家は老舗の豆腐屋だ。
一足早く起きて釜の煮炊きを始めていた父に明るくおはようと挨拶をされて陽菜はそれに返事をする。
煮炊きされる前の昨日から水につけていた大豆からクズ豆を選別しグラインダーにかける一連の作業の手伝いをするのが陽菜の仕事だ。
前までは母が父の仕事を手伝っていたが、自分が母の代わりに仕事を手伝い、母が少し楽を出来て、小遣いも貰える現状に陽菜はとても満足していた。
家業は老舗と言っても歴史が長いだけであくまで″街の豆腐屋さん″だ。
─世界で1番うちの豆腐が美味しいんだから、もっと学校とか企業に売り込んで販路増やすとか、高級路線に鞍替えして儲け増やせばいいのに!
そう思いながら作業する。
大きな取引先は車で30分くらいのとこにある大きな旅館だけで、あとは飲食店やご近所さんが商売相手だと昔聞いた覚えがある。
貧乏、ではないが裕福でもない感じが陽菜にとって唯一のこの家の不満だった。
─お金持ちになって思う存分お買い物したいなぁ。
7時になると陽菜は2階に上がる。
陽菜の家は1階が工場兼販売店舗で2階と3階が住居になっている。
2階のリビングに行くと母が朝食を作ってくれていてそれを食べると1度部屋に戻って学校の準備をするのが陽菜の日課だ。
部屋に戻って入学祝いにねだった新品のドレッサーの椅子に座り、メイク持ちがよくなるスプレー化粧水を軽く顔にかけて馴染ませる。
ドレッサーの引き出しを開けると美しく整頓された化粧品が覗き、それを見た陽菜はとても満足した気持ちになった。
これらは中学生でメイクにハマってから、お小遣いや豆腐屋のお手伝いのバイト代でコツコツ集めた陽菜の宝物だ。
失敗重ねながらも百円均一や薬局の価格が低い商品から掘り出した名品から、まだ数は少ないがお年玉を使って百貨店で緊張しながら買ったブランドコスメまで、全てが愛おしいと陽菜は感じていた。
日焼け止めと自分の肌にあったカラーの入った化粧下地を手に取り少しづつ指で救って顔の要所に置く、本当はスポンジを使った方が衛生面とか的にはいいのは分かっているが下地だけは指を使って馴染ませるのが陽菜は好きだった。
ウェットティッシュで汚れた手を拭いたあとはコンシーラーを取り出す、最近買ったばっかりの絶妙な色合いのローライトとハイライトも一緒にパレットになっているお気に入りだ。
筆で取って余分についたものをティッシュオフしてた後、顔に塗ったところをスポンジでなるべく薄く叩いて馴染ませる。コンシーラーとローライト、ハイライトはやり過ぎるとただただケバいだけの顔になるが、この平凡な顔に陰影をつけるには必須なのでバランスに神経を使いながら顔に乗せる。
ファンデーションは学校にはしていかない、下地に入った色だけで十分に整うし、進学校の割に自治が緩く、ある程度の自由が許された校風だが、流石にケバケバしい生徒は先生に目をつけられる。
陽菜個人の対人用のセルフブランディングはあくまで″ナチュラル可愛い″だ。
買ったばっかりのクッションファンデをマット肌を作りこんで楽しむのも、派手だったり奇抜なメイクも、個人で楽しめば良くて、学校と言うステージでする必要性を全く感じなかった。
最後に粉を大きなフワフワの筆で本当に薄く、軽く付けたらベースが出来上がる。
チークをほんのりうっすらつける、アイメイクはしないがアイテープで二重をしっかり自然に作り込む、陽菜はこの技術は誰にも負けないと言う自負があった。
ホットビューラーで日頃から育てている長いまつ毛を優しく根元から上げたら目元は完成だ。
あとは1番時間のかかる眉を慎重に仕上げるだけだ。
仕上がった自分を鏡で見て、陽菜は今日も可愛いと思いながら、洗面台に移動して、メイクが崩れないように何種類かの笑顔と表情の練習をしながら髪を整える。
中学時代に安くなるクーポンや学割を駆使して美容室を駆け巡り、やっと巡り会えた理想の技術を持つ担当のおかげで、猫っ毛・くせっ毛・毛量多いで扱いにくかった自分の髪の毛も霧吹きで少し濡らしたのをドライヤーで乾かすだけでいい感じになるようになった。
あとはストレートアイロンで前髪を作るだけだ。
─本当に今の担当さんに出会えて良かったな、それまで朝の髪は爆発してたし、セットも大変だったから。
あとお母さんが私の髪は扱いが大変だからって、美容室探しも手伝ってくれて、美容室代をお小遣いとは別でくれのもほんとに助かった~。
髪も整い、制服に着替えた陽菜は家族に行ってきます!と声をかけ家を出た。
クセ強女子、陽菜ちゃんです。
趣味は美容とメイクと印象操作。
あと4話ほど続きます。




