11.気遣い女子と怒れる男
「あれ?あんま絡みない感じだった?レナのインスタで戸田くんよく見かけてたからめっちゃ仲良しかと思ってた…」
「カズキとはたまに飲みの場で会うから、その時に一緒になるときあるかも~。」
─コラ、飲みの場とか言うんじゃありません。未成年飲酒、ダメ、絶対!
野崎さんが居なかったらそんなツッコミをしていたと思う。
とは言え、高校生の不良がお酒を飲まないなんて都合のいいことはなかなかないのが現実だ。
聞けば野崎さんは入学前から友人のSNSで戸田をたまに見かけていたらしい。
もしかして、とは思っていたが、最近同じ学校の戸田と同一人物だと確信出来たらしく「だからこの高校で戸田と初めて話した時も、初めての感じがしなかったのかな」と言うようなことを、これまた愛らしい表情で笑いながら言っていた。
野崎さんは全然ぶりっ子的なわざとらしさは無いし、他の女の子達みたいに戸田に対する媚びの様な視線や声色は感じさせないのに、話している相手に自分からの全面的な好意を感じさせるような雰囲気があって、凄いなと思う。
戸田だから余裕の表情だけど、慣れてない男子なら「この子もしかして俺に惚れてる!?」と勘違いしてドキマギすること間違いなしだ。
自分だって自慢じゃないが、戸田がいるおかげで変な勘違いをせずに済んでいるのだ。
「そんな絡みないけどよく写真撮る子だから写りこんでるのかも俺」
「え、レナ勝手に載せてたの?…レナいい子なんだけど、そういうとこ緩い時あるからなぁ。私が注意しとくねっ。」
少し困ったような怒ったような表情が完璧だな…漫画の清純派ヒロインの様だと僕は感心する。
「別にいいよ~俺気にしないし~」
「ダメだよ!レナ、戸田くんと凄い仲良い感じで載せてたし、実際私も彼氏なんだろうなって思い込んじゃってた…。周りに変に誤解されてもつまんないし、人の写真勝手に沢山載せるのは良くないし、戸田くんは特に有名なんだからそういうのはちゃんとしないと!」
緩く答える戸田に、野崎さんは言った。
戸田の意思を真っ向から否定してるのに押し付けがましくないと言うか、言い方にすごくこっちを心配してて優しさが滲み出る感じがあるから素直に聞きたくなる。
言ってることも良く聞けばなんだがふわふわとしているのだが、なんとなく彼女が正しいことを言ってるような気にさせてくるから不思議だ。
─まぁ実際正しいこと言ってるしね。真面目に捉えてやめてもらうか、迷惑だけど適当に流すかの違いってだけで、その女の子のしてること自体は迷惑な行為だし。
「そっか、そうだね、ごめんね陽菜ちゃん。最近夜遊んでないからもうあの辺と遊ぶ機会は減ると思うけど、次から気をつける!」
戸田がそう言うと、野崎さんは「戸田くんは何も悪くないんだから謝らなくていいの。」と言う。
「そっか、間違えた、ありがとうね心配してくれて」と返した戸田の言葉で飛び切りの笑顔をで頷くと、またいつもの和やかな雰囲気に戻った。
─でも僕だったら戸田が別にいいって言われたらモヤモヤしても″そうか″で済ませちゃうかも。こういう風に反対意見を出して、最後は穏やかにまとまるのは野崎さんの話術があってこそなんだろうな。
と僕は心底感心する。
それにしても他の2人もこの会話にちゃんと参加してるのにほんとに野崎陽菜と戸田の″二人の世界″になっているのも凄いなと僕は改めて思った。
二人の世界と言ったが、野崎陽菜の照準は確実に僕も捉えている。
僕が一言も喋っていないだけで、彼女は僕にも話しかけている。
戸田に積極的に話しかける女子は、戸田が僕も入れて会話をしていても僕の存在をそこまで気にせずに戸田に集中する感じが基本なんだが、彼女だけは戸田と絡むようになった次の日から、一貫して僕の存在を自分の対人関係の射程に入れてくれている。
なんなら僕が1人でいる時も挨拶や一声かけをしてくれるくらいだ。
─そして僕がお喋りなタイプじゃないことを多分理解した上で適切な距離で関わってくれている…気がする。
彼女に関しては可愛らしさやその女の子としての存在感の凄みにばかり言及していた気もするが、とても気遣いと思いやりのある人なのだ。
「大変だね。」
「へ、何が~?」
昼食後の裏庭のベンチで表情を緩めて伸びをしていた戸田が要領を得ない顔で答える。
5月に入り裏庭は芽吹いた新緑の明るい緑に満たされ、地面にはシロツメグサが所々自生している。
「いや、勝手に写真ネットにあげられて、仲良くない人に仲良いみたいにされるの」
「あ~、うん、でももう慣れちゃったかも。昔から勝手に写真撮られたりしてたし、ほら、俺、かっこいいから」
その通りでしかない自慢のはずなのに、なんだか困ったような笑顔の戸田を見て自分の胸に燻るものを感じた。
「…慣れる必要ないよそんなの。失礼な事されてるんだから。」
野崎さんに影響された僕は思い切って自分の気持ちを言葉にだしてみるが、やはり、野崎さんの様な柔らかく相手を気遣うような言い方は出来なかった。
戸田はすごく驚いた顔で僕の顔をのぞき込む。
「直哉が怒ってんの初めて見た。」
─そうか、自分は怒っていたのだ。
顔に出てたのかな、と無意識に頬を触る。
喜怒哀楽の中でも怒りは自分には少ない要素だったから、これが怒りだということにも自分で気付かなかった。
そりゃ野崎さんみたいに柔らかい言い方が出来ないわけだ、と納得する。
友達のために怒れる男、そんな感じで称すると自分がすごく良い奴になった気がするな、と内心で自画自賛しているのを見透かしたようなタイミングと顔で
「ねぇねぇ、ありがとね、俺のために怒ってくれて。」
と言ってきた。
戸田がなかなか見ないニヤニヤした顔でこっちを見る。
「やめて、なんか恥ずかしい。」
「ほんとはちょっと嫌だな~って思ってたけど、俺のために真剣に怒ってくれる人がいるとなると、どうでもよくなるなぁ」
「ほんとやめて頼むから。」
まだ少し冷たい風が、僕の変な汗を早く引かせてくれることを祈った昼下がりだった。
直哉(主人公)は感情表現が苦手ですし、感情がバレたら少し恥ずかしい気持ちになります。
元々の性質もありますが、厨二病時代に「何事にも動じない俺かっけぇ」をしてた名残です。
殻が向けるにはまだ時間がいる様子。
次は「野崎陽菜と言う女」です。




