10.戸田周りの女子
5月に入って初めての席替えがあった。
クラスの席替えはくじ引きだが、前2列に座りたい人はその2列の中から選択して席を先取りすることが出来る。
担任が希望者を募ったが希望者は僕だけで窓際の前から2番目を取ったら戸田も手を挙げて窓際の1番前を取っていた。
クラスの女子達が戸田の隣を狙うか迷う挙動は見れたが、まだ新学期も始まったばかりでそこまで積極的にいけなかったのか、誰も声を挙げず、担任は希望者の募集を締め切った。
─今度は僕の前で寝る気か…プリントはきっと戸田じゃなく僕に渡されるのだろうな。
と思っていたが、意外なことに戸田は授業中あまり寝なくなった。
聞けば最近では戸田も授業中起きてることが増えたらしい。
「最近は授業に集中してたからそれは気づかなかったな…」
「ほら~いつも直哉の家にお邪魔してるじゃん?夜遊びいかなくなったんだよね~。別に直哉の家から帰って、夜中から遊びに行ってもいいけど、お母さんの美味しいご飯食べて、家に帰るでしょ?なんか最近風呂でお湯に浸かるの好きだなって思うようになってうちでもそうして、お風呂上がって借りた分の漫画読んでたら、なんかもう出るのもダルいし眠いし寝よっかなってなって」
─…健康優良児になりかけている。
漫画って非行少年を改心?させれるのだな、と改めて偉大さを知った。
そういえばうちで漫画を読んでる時に、戸田は友達らしき人達から誘いを良く受けているが最近は毎回断ってるし、集中してる時は無視してるし、食事の時なんかスマートフォンは僕の部屋に放置だ。
「そんな生活してたら学校で眠くなくなった。」
当然の帰結をオチとして話す戸田は無邪気に笑っている。
「ジジイからは学校を体調不良とか以外でサボり過ぎないようにって指示しか出されてなかったんだけど、直哉見てたら俺も勉強とかちょっとしてみようかな~ってさ」
「戸田って頭良さそう。」
僕がそう言うと、戸田は「えーそうかな~」と照れくさそうにしていたが、暗記が得意と言ってただけあって戸田は記憶力がいい、漫画を読むのが早いから浅く把握して何度も読み返して深めるタイプかなと思いきや、1度呼んだだけでめちゃくちゃモブなキャラクターの名前や細かい設定を覚えていたりする。
僕は勉強はちゃんと頑張らないといいい成績が取れないけど戸田はちょっとやったらサラッといい点取れる気がしている。
現に不良だった中学の時は学校にあまり行ってなかったけどテストの成績はそんなに悪くなかったと聞いたことがある。
─ほんとに漫画の主人公みたいな奴だな。
と少し笑ってしまう。
「戸田が僕より成績良くなったら絶対勉強教えてもらお」
「えー!絶対ないよそれ」
そう言って戸田も笑った。
休み時間になると戸田は窓側の壁に背をもたれて、何かしら僕に話しかけたり、話しかけなくてもこっちを視界にいれてスマホをいじったりする。
僕はと言うとついつい癖で小説を開く感じだ。
戸田がだいたいは起きている状態になったおかげで、休み時間は、女子が近づいてくる機会が前より増えた。
同級生の男子生徒たちは戸田は元々名を馳せた不良であり、ガタイも大きいからか、まだ若干遠巻きにされている。
廊下で他クラスの男子生徒とすれ違う時の、相手の避け方、目を合わせないようにしてる感じを見ると僕が聞いていたよりも″名を馳せた″のレベルが高そうだ。
噂話には疎いほうの自分には正確にはわからないが。
進学校だから不良なんていないため、校内でバトル勃発!みたいなことにもならないし、好奇心で馴れ馴れしく戸田に近付きそうなチャラい感じの男子生徒も今の所目を逸らす派に所属してる感じだ。
そして戸田自身が男女問わず、僕以外には自分から人に話しかけることがないため、結果男子生徒との関わりが発生しない流れだ。
─コミュニケーション能力高い割に、僕以外に積極性全然ないんだよな。
それでも最近は本当にたまに僕に話しかける男子生徒がついでに戸田におっかなびっくりな感じはあるが、挨拶したり話しかけたりするタイミングがあって、なんかいい感じだ。
僕と戸田の会話だけ聞けば、戸田がどれだけ穏やかで平和で気のいいやつかは伝わると思うから、これからは戸田に話しかけてくる男子も少しづつ増えるんじゃないかなと僕は考えていた。
同じクラスの女子は控えめな子が多いのか、戸田のことをカッコイイと思っていても遠巻きに見てるか、挨拶だけで満足してたり、話しかけてくる時も遠慮しがちで時間を取らせないパターンが多い。
ただクラス外では、やはり俗に言うカースト上位女子、ギャルや見た目が派手な子、気が強い子や上級生女子は、戸田にグイグイくる。
あと戸田の通ってた中学からこの学校に進学した元同中の女子も昔から知ってるだけあって気さくに絡みにくる。
戸田の女子人気が強いのか、この学年は戸田の出身中学の女子が多い気がする。
「戸田くん、高田くん、おはよぉ~」
高く愛らしい声で話しかけてきたのは隣のクラスの野崎陽菜とその仲間、計3名だ。
戸田に絡んでくる女の子の中ではその頻度が高い子達だ。
野崎陽菜と僕は元々同じ中学だ、が、一度も同じクラスになったことないし、彼女は僕と違い、常に沢山の人に囲まてれいた。
いわゆる一軍女子だったため、僕との面識など生まれるわけもなかった。
向こうは僕のことなど知りもしないだろう。
3人の中でも特に戸田と親しげにしている野崎陽菜は、同級生に対して使うのに適した言葉か分からないが童顔で、肩までのフワフワとした髪が、その幼い顔立ちにとてもマッチしている。
綺麗と言うよりは断然可愛いタイプで、背が低く小動物の様だ。
女子生徒の中でも一際目立つ存在だけどケバケバしい派手さはなく、自然体な感じの人だ。
野崎陽菜以外の女子2人も会話に参加しているのに、その可愛らしさゆえか、他の存在を打ち消す様な存在感がある。
思い返せば僕が戸田と食堂に行った次の日には戸田に声をかける挨拶の中に僕の名前が入るようになった。
何がと言われると分からないが、凄さを感じる。
ただ彼女は常に笑顔で、明るく、物言いも優しい。
彼女らに取り囲まれた時だけは、なんだか穏やか空気が流れるのだ。
戸田も心做しか、彼女と話す時は警戒心が緩んでいる気がする。
─ここで学園ラブコメが始まるとしたら一番の候補は野崎さんかもしれないな。
と内心で僕は分析してニチャつく。
─ただ野崎さんは戸田に惚れてる女の子みたいな、一生懸命さ、と言うかなりふり構わない感じがないから、戸田を好きなのかと言うと、分からないんだよな。これだけ声をかけてくるんだから、戸田を親しく思っているのは確実に間違いないんだけど。
戸田への執着が激しそうなタイプの女子は、延々戸田の好みを聞いたり、戸田のSNSの更新や出現が無くなったことに対して彼女が出来たんじゃないか、それは誰だと聞いてきたり、乗り気じゃない戸田をしつこく遊びに誘い続けたり、戸田に近付く他の女子の悪口を言うか悪い噂話を流したり、聞いてもいない自己アピールをつらつら話し出したり、戸田が辟易とした気持ちを顔には出さないまでも、対応がつれなくなのも仕方ないと思えるような会話を繰り広げる女の子もいる。
野崎陽菜にはそういうところが一切なかった。
だからこそ僕からの好感度もとても高い。
めんどくさい絡みをされてる戸田を助ける能力は僕にはないけれど、困っているのに表情を作って対応している戸田を見るのは僕だって好きではないのだ。
「そういえば戸田くんってレナと仲良いよね?私元同じ中学なんだけど」
「レナ…?あ~カズキの連れかなぁ?」
そんなことを考えながら野崎さんと戸田のやりとりをぼんやり聞いていると、ふと、入学して戸田がよく寝てた時に話しかけてきた1組のギャル2人組を最近見ないことに僕は気付いた。
見ないどころか一昨日学食に行く戸田を見かけて逃げるように去っていった気がする。
─もしかして、告白とかして、戸田に振られたのかな?
可哀想だとも思うが仕方ないことだし、1番うるさく、ちょっと嫌な人達だったからちょっと助かるな、と僕は思ってしまった。
戸田が真面目に勉強したら直哉(主人公)は即成績抜かされます。
努力家だけど、ちょっと要領が悪い、直哉はそんな男です。
次は「怒れる男」です。




