9.うちの子化する
あの日から戸田はよく家に遊びに来るようになった。
うちで漫画を読んで、母に言われるがまま晩御飯を一緒に食べる。
余りにも毎回ご飯に誘われるから戸田は迷惑じゃないかなと、遠慮しだして、漫画は読みたいけどうちに来ること自体を少し悩み始めていたようだ。
「なんかこんなに毎回ご飯をご馳走になるのは、なんか悪い気がします」
皆で食卓にいる時に、戸田がシュンとした様子で呟く。
「うちはパパが単身赴任でいないでしょ?でも最近も近くで外国人の強盗とかあったしなんか怖いじゃん!だから夜家に大きい男の人増えるとママも安心だよ!おにぃだけじゃ頼りないし」
と、妹がさりげなく僕をディスりながらもフォローした時はナイスだなと思いながら僕も頷く。
妹はあれから戸田とすっかり打ち解けて懐き″啓吾にぃ″と呼び慕っている、実の兄としての立つ瀬がなくなるかと思いきや、なんの効果か僕に対する当たりも柔らかくなったのだ。
前のように突然鋭利に存在否定してくる様なやり取りはなくなり、さっきの言葉みたいにからかうような事を言う時はあるが、言い方が柔らかくなったというか、愛がある気がするし、僕と二人でいる時だって怒ったような顔を見なくなって普通に会話するようになった。
朝も「おにぃおはよ~」と言いながらリビングに入ってくる。
まるで昔の妹に戻ったかのような様変わりだ。
よく分からないが僕は何も変わってないので、恐らく戸田効果だ。
─戸田マジで本当にグッジョブ。
それに恐らくだが、妹が僕に当たりが強くなったのは父が単身赴任に行くようになってからだ。
僕が妹に酷いこと言ったとかは心当たりがないし、もしかしたら妹は本当に父と言う柱が家にいないことで心配が増え不安定になってた気持ちを僕にぶつけてたのかもしれない。
戸田と言う″大きい男の人″は妹にとって安心材料になり得たのかもしれないなと僕は思った。
─大きいと言っても戸田は高校生だし、父さんとは全然違うけど。でもご飯の時の感覚が、変な話、昔に戻った感じはするんだよな不思議と。父がいなくなって食卓が一席空いてしまうのに妹が寂しさを感じててもおかしくはないよな。元々甘えたがりでさみしがりだし。
だからこそこの男手問題の発言は、戸田へのフォローが混じっているかもしれないが、妹の本音の方が強いのだろう。
妹の発言を聞いて母も何かを察したのか、逞しく1人で何でもこなすタイプなのに「そうね~やっぱり男手って多いと助かるわよねぇ~」などとヌケヌケと発言してくれたので説得力が増す。
戸田は素直なとこがあるのか、2人の言葉を聞いて、そうなのか!と言う顔になっていた。
「戸田は腕力ありそうだよね」
と僕が話を振ると「腕力は分からないけど、握力はあるかも」と答えた。
確かに戸田は手がデカい。
バスケットボール片手で掴み持ちしてそうだ。
「身体測定って来月だっけ?戸田、身体能力高いから記録たたき出しそうで、実は楽しみなんだよね。」
「えー、流石に部活生には負けると思うけどな~。」
「おにぃも啓吾にぃに1個くらいなんかで勝ちなよー」
「いや勝てるわけないでしょ、せめて同じ体格の人と戦わせて。」
そう言うと皆が笑う。
「直哉は長距離走が得意なんじゃない?」と母が言う。
「あぁ、確かにマラソンは好きな方かも。」
「おぉ~直哉持久力あるんだね。」
「麻衣マラソン嫌~い。」
「麻衣は短距離早いもんねぇ。」
「でも麻衣は縄跳び好きじゃん。延々飛んでるし。多分マラソンも向いてると思うけどな。」
「縄跳びは飽きないけどずっと走るのはつまんない。」
そんなたわいの無い会話をして夜はふけていった。
それからは戸田は遠慮するような発言をしなくなったし、遠慮なく泊まる様になった。
僕としては、戸田がなんの憂いもなく漫画を楽しめる心境になってかれてよかったと言う気持ちだ。
家族以外の誰かがずっと自分の側にいることに対してもなんの不満もなくて、戸田だからそうなのか、自分が気にしないタイプなのかはまだ分からないが、新たな自分を知れたのも面白く感じた。
そして戸田は頼られていることに意義を感じているのか、母が重たいものを持とうとしたり高いところから物を取るために背を伸ばそうとすると、僕よりも素早い動きで、颯爽と助けに行くようになった。
─ここで人任せにするのは実の息子としての立つ瀬がなくなるのか…?
と考えたが、手は増えるに越したことないし、適材適所でもあるだろうと開き直った。
もちろん僕しかいない時は僕の出番だが、僕の身長は母と同じくらいだし、そして自慢じゃないがそんなに筋肉はついていないのだ。
実は母には、戸田が初めて家に泊まった次の日に、戸田の家庭環境の話をしていた。
「なるほど。」と答えた時に反応が自分と全く同じで少し笑ってしまった。
母はそれについて深く語ることはしなかったけど、戸田が家に来たらご飯食べてけ泊まってけと絶対に言う流れができた。
戸田が遠慮しようもんならスキル″おば様の厚かましさのようなもの″を発動してもう人数分作っちゃったから、とか困ったわ余っちゃうわとかありとあらゆる手を使って強引に食卓に引き込んでいた。
最近ではもう、食べていくかどうかの質問はなく、妹が「おにぃ達ご飯だよー」と呼びに来るようになっていて、初めてそう声をかけられた時、戸田がとても嬉しそうに笑っていたのは印象深かった。
戸田はその内に無駄に遠慮をしなくなった代わりに、祖父から押し付けられて消費しきれないちょっとお高そうなフルーツとか焼き菓子、これまた高そうな箱に入った肉を家に持ってくるようになった。
本当に祖父に押し付けられている様子で「自分じゃ腐らせちゃうからお母さんと麻衣ちゃんが喜んでくれるなら嬉しい」と2人の時に呟いていた。
戸田の祖父母も良かれと思って渡してるんだろうけど、戸田は甘いものはコーラと飴くらいしか求めないし、焼き菓子も、た沢山の果物も大量の肉も、一人暮らしの男子高校生に保護者がする物理的な仕送りとしては少しズレてるよな、と僕は考えた。
─と言っても僕は親から仕送りなんてされる状況じゃないし、漫画で見たレンチンご飯とかレトルトカレーとかのイメージが正しいかは分かんないけど。
家に寄って違うのだろうし、おじいちゃんおばあちゃんって高齢ゆえにどっか感覚ズレたりとかもあるよね、品物には母も妹も喜んでるからそれでいいか。と僕は思い直した。
父が単身赴任なった時、直哉(主人公)は″何事にも動じない俺かっけぇ″と言う黒歴史思考×自分がしっかりしなければと思いでいたので、その寂しさを大好きな兄に共感して貰えなかった妹は一人ぼっちになった気持ちになります。
そして拗ねておにぃ嫌い!となりました。
次は「戸田周りの女子」です。




