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エピローグ

高校の入学式の朝、登校の準備を済ませて1階のリビングに降りると、テーブルにはいつもの様に朝ご飯があった。

今日は焼きジャケだ。

席につこうとした時、母が慌ただしく朝の挨拶と共に話しかけてくる。


「直哉は今日は入学式だからお弁当いらなかったわよね?帰りはお昼過ぎかしら、お昼ご飯は家で食べる?」

「うん、ぼ…俺は、大丈夫、自分で焼きそばでも作るよ」

「そう?助かるわ~!お母さん今日仕事夕方まであるから!」


エプロンを外した母は慌ただしそうに廊下に出て、まだ2階から降りてこない妹に声をかけに行った。



自分はと言うと朝ごはんに手をつけながら先程一人称を変えたことに不自然さが無かったかについて考えていた。

元々使用していたのは″僕″で、今回初めて″俺″を使ってみたけどどうもしっくり来ない。


″私″ もありだと思う、おかしいだろうか?

″ワタクシ″は流石に硬すぎるよな。

″自分は!″みたいなのは体育会系っぽさを感じてキャラが違うなと感じる。

漫画好きとしては拙者、小生、オラ、俺っちなんかにも憧れはあるが、それをもし現実で使ってしまったら、どのような目で見られるかはインターネットで予習して知っているので勿論使わない。


俺…に特別いい印象があるとも思わないが何故か使ってしまった、多分それが1番一般的なものだと言う気がしたからだ。

世間体に迎合したい様な、したくない様なこの気持ちも、一人称が定まらないことも、自我が揺らいでいるような不安定さを感じる。


そう、思春期なのだ。


自分が思春期というものの真っ只中にいることを感じて、なんだか感慨深いような思いにふけった。



味噌汁を飲みながら思索の海にひたりかけていると、騒々しい音を立てながら妹がリビングに入ってきた。

こちらをチラっとは見てきたがスンっと顔をそらして勿論挨拶はない。


今日も順調に嫌われている。


「あーもう寝坊した最悪」とか「前髪気に食わない」とか騒いでいるがこれに答えてはいけないことは学習済みだ。高確率で「おにぃに言ってない」か「キモい」と「うるさいんだけど」が返ってくる。


小さな頃から兄としてしっかり面倒を見てきた妹からの可愛い甘噛みに傷つくことはないが、妹を朝からわざわざ不快にさせることもないだろうと僕は反応しないことを選択する。


「ごちそうさま」


と小さく言い、食器をキッチンの水桶につけて、廊下に置いておいた通学用の鞄を手に取ってリビングを出た。



玄関で靴を履き、靴箱に備え付けてある全身鏡で軽く身嗜みを整えた。


整えると言っても髪に整髪料をつけている訳でもない。

おしゃれなタイプでもないしこの直毛にどう整髪料をつければいいのかも分からない。

跳ねているところがないか見て、眼鏡がズレてないか、制服に変なところがないかを見るだけだ。

今日も何の変哲もない自分だ。

強いて言うなら少し大きめの新しい制服に完全に着られている感じはある。


妹は割と可愛いらしい顔立ちをしている(兄の欲目かもしれない)が、全く似ておらず、自分は至って平凡で、特徴と言えば母に似て少し目付きが鋭いくらいだ。



「直哉、いってらっしゃい!気をつけてね!入学おめでとう!」

「母さん、ありがとう、いってきます。」


いつも通り送り出すために玄関に来てくれる母に安心を感じる自分に気付いて、案外、新しい環境に飛び込むのを緊張している自分に気付く。


緊張してる反面、それでも中学の時と変わらない、平和で平凡で、特に特徴のない高校生活を送るのだろうとも漠然と感じていた。



その予想が裏切られるなんてことは、この時の僕には知る由もなかったのだ。


これからよろしくお願いします。


次は「イケメンとの邂逅」です。

直哉(主人公)より主人公なやつの登場です。

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