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第二話「放課後心霊戦士誕生」

 霧の立ち込める暗い空間、横にいる少年に彩が問いかける。


「あなたは、姿が見えるの?」

「ああ姿は見えるが、声は聞こえない!」

「良かった、私は姿が見えないの、でも声は聞こえるわ!」

「それなら奴らは、何て言ってる?」

「何かを返せって言ってるわ、うめき声が混ざって良く聞き取れない!」

「そうか!」

「どんな姿をしているの? たくさんいるの?」

「落武者の亡霊、二~三十人見える、刀を抜いてこっちに迫ってくる!」

「どうするの、何かすごく怒っているは、私怖い、早く逃げなきゃ!」

 

 彩、後ずさるが何かにつまずき転ぶ「あっ!」

 ハッとベッドから起き上がる彩、汗をぬぐいながら、


「この夢、いつもここで目覚める……」



 月曜日の朝、体育館に全校生徒が集まり朝礼が始まる。山根校長の長い挨拶の後に教頭の小原恵子が登場、白衣を着た黒縁メガネの四十代の女性を連れ、演台のマイクの前でお辞儀して話し始める。


「今度、新しく本校に来られた明石涼子先生です。化学の教科を担当していただきます。先生、ご挨拶をお願いします」

「みなさんおはようございます、化学を担当します明石涼子です、化学を好きな人も、そうでない人も楽しく勉強しましょうね!」

 

 とお辞儀をすると、生徒たちの拍手が体育館に響く。

 朝礼が終わり体育館から教室に戻る生徒たちの長い列の中、子猫のように襟首を掴まれ柱の陰に引き寄せられる彩。


「えっ!?」

 

 掴んだ相手を見て驚く、先程の新任教師の明石涼子が立っていた。


「せ、先生、え、なんですか!? あっ、初めまして!」

「初めましてじゃないじゃろ! わしじゃ!」

「えっ、その言い回し、お前は慈音尼!」

「しーっ、声が大きい!」


 口をふさがれる彩。


「何してるの? 何でここにいるの? あなた先生なんかじゃないでしょ、バレたらどうするの!?」

「心配するな、わしの呪術は千年は解けぬわい!」

「呪術って! 千年も騙してどうすんの!」

「黙れ、わしに良い作戦があるんじゃよ」

「作戦って……!?」


 その日の放課後、『心霊現象研究部』のプレートの掛けられた扉の前に立つ彩と慈音尼。


「ここがわしの新しいアジトじゃ!」

「アジトじゃって、部室でしょ」

「そうじゃ、今日からお前もここの部員じゃ」

「えっ!?」

「部員は娘一人じゃが、じゃんじゃん地縛霊を解き放しに行くぞー!」

「行くぞーって、言われても……」

「心配するな、表向きはわしが顧問の部活動じゃ、心霊現象を研究するな、部活動としてなら娘も手伝えるじゃろ!」

「部活動……はあ、ホント悪知恵だけは働く」

「聞こえたぞ、悪知恵とはなんじゃ、良いか今日から娘は『放課後解放師』じゃ!」

「やだ、カッコ悪い、それだったら『放課後心霊戦士』はどう?」

「……まあどっちでも良い、とりあえず中へ」


 カギを開け部室に入る二人。

 部屋の真ん中に大きなテーブルがドンと置かれ、その奥には部長のデスクが置かれている。壁には日本地図が貼られて、いろんな箇所にマーキングがされている。奥の棚には除霊に使うと思われる奇妙な道具が置かれていた。


「先ずこの地図を見ておくれ、赤バツは既に終わったところじゃ、黒丸が付いているのが、これから処理すべき場所じゃ!」

「えーっ、こんなにあるの!?」

「そう、だから助手のお前が必要なんじゃ」

「助手と言われても、私まだなんにも出来ないし……」

「何を言う、お前は瞬間移動出来たじゃないか!」

「あれは私じゃないってば!」

「まだ言うか!? まあ良い、次はこれじゃ」


 と棚を指さす、棚に置かれた資料を包んだ古びた風呂敷の山。

 慈音尼、その風呂敷の横に置かれたノートパソコンを取り出し開く。


「えーっ、この風呂敷の資料じゃないの!」

「これはダミーで偽物、イメージ、イメージ!」とネットで検索を始める。

「ネット!?」

「霊の世界もこれからはネットの情報を取り入れないと、おうこれじゃ!」

 

 パソコンの画面を彩に向ける、画面を覗き込む彩。


『深夜の海岸道路で頻発する、カップル謎の死亡事故!!』

『二年前に亡くなった、女性の霊の仕業か!?』

「これって、ただの心霊スポット情報じゃないですか! こんなの広告収入欲しさのでっち上げですよ!」

「噂か誠か、真実を見極めるのも我々の仕事じゃ、一晩で片付けるぞ!」

「えっ、ちょっと待って、岬までどうやって行くの? 車あるの?」

「心配するな、わしに任せろや!」

 

 部屋を出て行く二人、誰もいなくなった部屋のパソコンの電源が勝手に入り起動する、画面に映る鋭い目が左右を見渡しブラックアウトする。



 海岸道路を疾走する真赤なSUVが、二人の自転車を追い越していく。


「もー自転車じゃ日が暮れちゃうよー!」


 登り坂を立ちこぎしながら半泣きの彩と、電動アシスト自転車でスイスイと走る慈音尼。

 ちょうど日が暮れたころ、事故現場付近に到着する二人。


「計算通り日暮れに着いた、真っ昼間から霊が出ると思っておるのか娘!」

「そんなの詭弁よー!」


 と彩が叫ぶも慈音尼無視して、自転車を道路脇に止めてトンネルの事故側出口へと向かう。


「もう」慌てて後を追う彩。


 そこは片側一車線の三百メートル程のごく普通のトンネル。


「このトンネルを抜けた後に、このカーブを曲がりきれずに、そのまま崖から海へ転落して亡くなっているのじゃ、それも全て若いカップルを乗せたスポーツカーばかりじゃ!」

「トンネルを抜けてすぐに下りの右急カーブになるでしょ、それと視界が開けた途端に正面に海が見え一瞬鮮やかな夜景に気を取られる、この二点でカーブに気づくのが遅くなるのが原因じゃないかな?」

「なかなかの推察力、事故調査委員会も同じ事を言っておるが、若いカップルばかりが起こすのはなぜじゃ!」

「ラブラブでお互いを見つめ合って、チューなんてしてて、気づくのが遅くなるのよ!」

「子供のくせに知ったような口を……でも、当たらずも遠からずじゃな!」


 このトンネル、二年前に最初に起きた事故の犠牲者の女性は、白金美知加(しろかねみちか)二十六歳、実は運転していた男性の三好慎一(みよししんいち)二十九歳は、車が海に落ちた後に自力で車から脱出して助かっていた。男性は学生時代に水泳選手として活躍しており、オリンピックの代表候補までいった経歴があり、その為、別れ話がこじれた上での偽装殺人事件としてテレビのワイドショーなどで取り沙汰されたが、物的証拠も無く、検察側も殺人罪では立件出来ずにスピードの出し過ぎと、前方不注意が原因の交通事故として処理された。


「もし噂通りに殺人事件だとしたら、殺された彼女の男に対する怨みから、自分と同じ様なカップルを狙って事故を起こさせているに違いない」

「そんなの八つ当たりでしょ? みんな関係ないのに」

「それが地縛霊というもの」

「本当に故意の事故だったのかな? 生きている男の方を調べてみたらどう?」

「警察が取り調べて無罪になった男だ、我々が聞いたところで白状しまい、我々が聞くべきは亡くなった彼女のほうじゃろ!」

「確かに!」

「娘、彼女に話しかけて見ろ!」

「私が!?」

「お前の方がワシより警戒心を持たれんじゃろう」

「そうかなー、でも何て?」

「とりあえず今晩はかな」

「もー、真面目に!」

「ワシはここで待っとる、行ってこい!」

「もー!」


 と言いながらトンネルの中へ進んで行く彩。


「あの―こんばんわ、私は高校一年、カリナ女学院心霊現象研究部の西野彩です、どなたかいらっしゃいますか?」


 と何度か呼びかけるが返事もなく気配もない。


「もう自分で未練を絶って成仏したんじゃないの!」


 出口で待つ慈音尼に叫ぶ彩。


「それなら助かるが、そんなにうまくいかんじゃろう! もう少し呼び掛けてみよ」

「うん」


 彩は更にトンネル入口側へ歩き始める。その時、トンネルに向かって猛スピードで走って来る一台のオープンカーに気づく、乗っているのは若い男女のカップル。


「慈音尼、カップルよ、止めないと!」


 車に向かい走り出す彩、両手を大きく振り止めようとする。


「おい、コラ、バカ!」


 スピードを落とさず、更に近づくスポーツカー。


「やめろ、危険じゃ戻れ!」

「だって、止めないと!」


 道路中央に立ち両手を広げる彩の顔に、ヘッドライトが当たり「うっ!」一瞬目を細める彩。運転していた男も彩に気づき慌ててブレーキを踏むが、ブレーキペダルに何かが挟まり踏み込めない「わーっ」声を上げハンドルを切る男、「キャー」と悲鳴を上げ顔をおさえる助手席の女、「娘!」と叫ぶ慈音尼。その瞬間、時が止まる<死後のタイムゾーン>車は彩の直前で止まる。「誰!?」彩が近くに気配を感じて問いかける。


『私の邪魔をしないで!』

「えっ!? あなた美知加さん?」

『なぜ私の名前を!?』

「私はあなたに会いに来たの」

『私に会いに……どうして?』

「このトンネルの事故はあなたの仕業なの?」

『そうよ、私は男たちに復讐するの!』

「復讐って、関係ない男の人たちをなぜ殺すの!」

『男は全て敵よ!』

「そんな、それに関係ない女性も犠牲になっているのよ!」

『復讐のためよ、多少の犠牲はしょうがないわ』

「多少って人の命を軽く見ないで、一人一人にそれぞれの人生があったのよ、あなたはそれを断ち切ったの!」

『それぞれの人生……断ち切る…』

「あなたにもう人は殺させない!」

『そこまでして、なぜ人を守る!?』

「守りたいのは、あなたよ!」

『えっ!? 私!』


 時が動き出す―彩の前で急ハンドルを切った車は大きくスピンし、横に一回転しながらトンネルを抜け崖側のガードレールへ突っ込んで行く。

「やめて!」彩が叫ぶ、ブレーキに挟まっていたコーヒーの空き缶が外れ急ブレーキがかかる。凄まじいブレーキ音とタイヤの滑る音、白煙が舞い上がる。何とかガードレールスレスレで止まる車。「止まった!」胸をなでおろす彩。<静寂>恐る恐る顔を上げる運転席の男と助手席の女。


「今、女の子いたよな?」

「ええ、私も見たわ」

「やっぱり、ここでるんだ!」


 と顔を上げルームミラーを見ると、


「大丈夫かい?」

 

 と慈音尼が車の後ろから顔を出す。

 二人、ルームミラーに写る慈音尼を見て驚き「うわー、出たー!!」と慌てて車を走らせる。

 慈音尼をポッンと残し猛スピードで走り去って行く車。


「何が出たーじゃ、心配してやっとるのに、おっと娘!?」

 

 と慌ててトンネルに戻る慈音尼。

 トンネル中央にいる彩と美知加の二人は、車が走り去った静けさの中で、


「美知加さん、私を助けてくれたの?」

『まあ、あなたに怨みは無いから……』

「ありがとう」

『ありがとう……か、久しぶりに言われたわ、良い言葉よね』

「美知加さんって、本当は優しいのね」

『えっ……でも、あの男だけは許せない!』

「待って、私はあなたをここから解き放しに来たの!」

『解き放す!?』

「ええ、解放師(ときはなし)なの私、新米だけど」


 その時「おーい娘、大丈夫か」杖を振りながら近づいて来る慈音尼。

「あっ、私の先生、紹介するね。慈音尼早く、早く!」と手招きする彩。


 月明かりに照らされたトンネル下の岩場に腰かけて話している三人、

静かな波が打ち寄せる。


「やはり奴に対する恨みがお前をここに留めておるのじゃの」

『ええ、あたり前でしょう、絶対に私は許さない、お願いあいつをここに連れて来て、この手で海に沈めてやるわ! そしたら私は成仏してあげるわ』

「いや、それは出来んが、他に何か良い方法は無いか?」

「慎一さんに本当のところを確認してみれば」

『無駄よ、それに文字通り今の私は地縛霊、ここからは離れられないの』

「じゃあ、私の体に憑依して、そして会いに行きましょう!」

『出来るの、そんなこと!』

「娘、それは危険じゃ、安易に憑依させてはならん!」

「大丈夫よ、私なら」


 彩を近くに呼び寄せ、慈音尼小声で話す。


「お前の体が乗っ取られる危険性があるじゃろ、彼女が離れなかったらどうする」

「その時は慈音尼が呪文で追い出してよ」

「……そりゃ出来るが、お前の体にも負担はかかるぞ!」


 彩、美知加に駆け寄り「おねえさん、やりましょう!」

慈音尼、慌てて「おいコラ勝手に!」ペロッと舌を出す彩。



 深夜、慎一のマンションの前で、帰張り込みの刑事のように帰りを待つ、美知加に憑依された彩と慈音尼。慎一が着飾った奇麗な女性を連れて歩いて来くる、慌てて建物の陰に隠れる二人。


「おっ、綺麗な女連れて帰って来よったぞ!」


 慈音尼が言うと、憎しみの表情で慎一を睨む美知加に憑依されている彩。

 マンション入口で、急に女性が立ち止まる。


「どうしたの?」

「慎一さん、私たち別れましょう」

「えっ、何を急に、今日のデート楽しかったじゃないか、オレ何かいやな思いさせた?」

「そんなことじゃないの、私があなたの心の中に入って行けないからよ、あなたの心の中には、まだ死んだあの()がいるの!」

「……いや、そんなことは……もう……」


 その図星の言葉に驚き、歯切れの悪い慎一。


「あなたは、あの娘を忘れるために私と付き合っているのよ、さようなら、慎一さん!」

 

 通りに駆け出し、タクシーを止め乗り込む女性。


「理恵さん、理恵さん! ちょっと待ってくれ!」

  

 追いかけるが扉が閉まり、走り去るタクシー、一人取り残される慎一。

 二人の会話を聞いていた美知加が憑依した彩が、思わず影から飛び出す。

 慌てる慈音尼、


「おいコラ、作戦が!」

「慎一さん!」

「えっ、理恵さんもどって……」

 

 振り返る、そこには見知らぬ女子高生が立っていた。


「えっ、はい、どなた?」

「私よ!」

 

 と微笑む彩の姿が、徐々に美知加の姿に変わって行き驚く慎一。


「美知加! ……美知加、良かった、生きていて……いや夢か、オレは夢を見ているのか?」

 

 両手で頬を叩くが、まだ目の前に立っている美知加を見て驚きながら、


「夢じゃないのか!?」

「慎一さん、ありがとう、私はあなたを疑っていたの、ごめんなさいね」

「良かった、夢じゃない、今すぐ結婚しよう!」

 

 美知加の手を握り。


「ありがとう、でも、でも……私は死んでいるの」

 

 彩の体から抜けだし霊体になる美知加、驚く慎一。


「すまない、オレが、オレがキミを……」

『もう良いの、あなたの本当の気持ちが分かったから』

「美知加すまない、オレ、本当は怖かったんだ、暗い海の中が、自分が逃げ出すのに必死で、君を助けることが出来なかったんだ、こんな俺を許してくれ!」

 

 泣き崩れる。


『愼一さん、ごめんなさい、私こそあなたの愛を疑っていたの』

 慎一、美知加を抱きしめようとするが、霊体で体がすり抜ける。「あっ」すると美知加の体が宙に舞い上がり、一瞬光り輝きウエディングドレス姿の美知加に変わる。

 その光で目を覚ます彩、驚く「えっ、美知加さん!? ……奇麗!」


『ありがとう彩さん、慈音尼さん、さようなら慎一さん!』


 美知加の体がキラキラと氷の粒のように輝きはじめ天に昇っていく。


「美知加さん……」

 

 慎一の目からは涙があふれて止まらない。


「さようなら、美知加さん!」

 

 彩の目にも光るものが、そして静かに見守る慈音尼。


 ×  ×  ×  ×

 

 翌朝、心霊現象研究部。

 壁に貼られた除霊マップに赤バツを付けている彩と慈音尼。


「良かった」

「さて、次はと……」

 

 日本地図を指さしながら慈音尼が考え始める。


「えっ、もう次、少しお休みしましょうよ」

「バカを言うな、まだ、こんなに残っておるではないか?」

「おっと、授業が始まる!」

 

 慌ててカバンを持って部屋を出る彩。


「おいコラ、逃げるな!」


 バタンと閉まる扉。


 

 一年二組、彩のクラス。

 授業が始まり担任の倉科美代子が入ってくる。


「はーい、みんな静かに、新しいお友達を紹介するわね、入りなさい」

 廊下で待たされていた転校生が入ってくる。ショートカットで男の子の様な雰囲気に教室の生徒は大騒ぎ。

「キャーかっこいい!」

「素敵!」

「彼氏になって!」


 そのアイドル並みのルックス、深々とお辞儀をして、


東野夕姫(ひがしのゆうき)です、よろしくお願いします!」


 と顔を上げると、一番うしろの席でボーッとしていた彩と目が合う。


「あーっ!」

「えーっ、あなた女の子!」

 

 お互いに驚く、その顔は彩がいつも夢の中で見ていた、霊の見える男の子であった。




 つづく




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