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私たちは、幼馴染の恋(※1)を応援したい(※2)  作者: うちうち


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隠された世界観を知ろう! ……え? 死ぬ?

 小都は、その瞬間、なぜかピタリと一時停止した。そして、私が困惑したまま見守っていると、小都は再度動き出した。私の目の前まで顔を近づけてきて、アーモンドのようなくりくりした瞳でじーっと見つめてくる。……なんか、すごく見てくる。



「つまり、わたしが告白するまで、江麻ちゃんが助言してくれるの? それで、隣でいっぱい応援してくれる、ってこと?」


「え、うん、もちろん。がんばる」


 ポン、ととりあえず胸を叩いてアピールしてみた。私が応援せずに誰がするというのか。


「どこに行ったらいいかとか、何をもらったら嬉しいとか、どんなふうに告白されたいかとか……わたし、いっぱい聞くと思う。きっと、迷惑かけちゃうよ?」


「いや、迷惑じゃないから言ってるんだけど。むしろ1人で悩まれる方がしんどいってば」


「………………」







 小都は、口元を隠しながら、何かを考え始めた。真剣な表情だった。私は少しドキドキする。よくわからないが、自分が手伝うことにこんなに悩まれると不安になる。


「小都が何もしてほしくないって言うならそれでもいいけど、せめて応援はさせて」


「……が……に……」


「え? なんて?」


 小都が私をじっと見つめ、小さな声で何か言った。聞こえなかったため、聞き返すと、小都は下を向いてなぜかプルプルと震え出す。


「ど、どうしたの? また気分悪くさせちゃった?」






 小都はしばらくうつむいたまま、何も答えなかった。そしてしばらくして、勢いよく顔を上げる。その両目にはなぜかうるうると涙が浮かんでいた。


「わたし、がんばるっ……! こんなことに負けない! 江麻ちゃん手伝って!」


「う、うん……! 2人で頑張ろうね!!」


 私は小都とぎゅっと手を取り合い、この世の不条理に立ち向かうことを改めて誓った。話の流れからして、「こんなこと」に私も入っているんじゃないかという気がしたけれど、怖くてどうしても聞けなかった。








「それで、どうするかなんだけど。小都はもう少し、異性として見られるように振舞ったらいいと思うんだ」


「確かに恋愛対象に見られてないみたいだもんね。どうしたらいいと思う?」


「うーん……。好きだって気持ちをもっと出していくとか?」


「それが、十分すぎるほど伝えてるはずなんだけど、ずっと無視されてるの」





 現場を見たことはないけれどそうらしい。聞けば聞くほど孝市がひどすぎる気がする。すると、ううん、と首を振って、小都は静かに笑った。


「ごめん、訂正する。たぶん、自分が誰かに好かれるって発想がないんだと思う」


「それは悲しすぎるね」


「うん、そう、そうだよ。ほんとにね。だから私がそんなことないよ、って教えたいの」


 そして、小都は宙を見上げて何かを考えたあと、付け加えた。


「それで、告白を待てって話なんだけど……あと半年くらいは先延ばしにしてもいいかな」


「おお、意外に待ってくれるね」


 あと半年というと、3月、ちょうどホワイトデーあたりである。確かに、区切りとしてはちょうどいいような気がした。


「でも、まずは色々準備したいと思うの。いきなりアプローチするよりも。だから、まずはもう少し仲良くしていく方向で行くよ」


「うん、じゃあその路線にしようか」


 孝市の「幼馴染は論外」という発言を聞いている私にとっても、渡りに船な話だった。










 小都と別れた後、私はしばらく考え込んだ。半年たったら告白。つまり、ホワイトデーまでに決着をつけないと、小都が告白してしまう。いや告白はしていいのだが、孝市が意識していない現状のまま突っ込むと、ハムスターがヒグマと戦う時の勝率に等しいだろう。


 いや、私は誓ったではないか。幼馴染をゴールさせてみせると。ハムスターだって、たまにはヒグマに勝つ日があっていい。方法次第では、なんとかなるはずだ。……たぶん。







 私は、お決まりとなったベッドの上で膝を抱える。期限が切られてしまった以上、もっと積極的に動く必要があるだろう。その上で、原作とやらがヒントになるなら、「住民」達の助力は得ておきたかった。そのためには、1つ、打ち明けるべきことがある。





 そして、私は、住民たちの言う「原作」が、私の今いる現状とまったく同じであることを説明した。だから、他のことも原作のことが何かヒントになるかもしれないから、色々と教えて欲しいと、率直に頼んだ。






《正直、信じ難いな》

《じゃ、君、江麻ちゃんってこと? ゲームの中から書き込んでるの?》

《できるわけないだろ。本当なら幼馴染の応援なんてしてる場合か。お前は作り物だって言われるようなもんだろ。発狂するわ》


『そんなのどうでもいいんです。そんなことより、皆様の力をお借りしたいんです!』


《リアルで「うるせ〜〜‼ 知らね〜〜〜〜‼」って言う奴初めて見たよ》

《まあ、わかったわかった。つまり、そういう設定でなりきりがしたいってことだな。なら乗ってやらんでもない》

《暇だしね、ここも過疎ってるし》







 ……よかった。あまり信じてはもらえなかったけど、相談には乗ってもらえるらしい。なんていい人たちなんだろう。私は、何度も宙に向かって頭を下げた。







『それで、この状態で私ができることってなんでしょう?』


《待って、てことは江麻ちゃんが金髪に染めて行ったってこと?関係ない第三者なのに?》

《困惑しか生まない状態で草》


『関係なくないです。孝市と小都の親友というポジションが私です』


《まあ、お前が江麻ちゃんなら、ちょっとアプローチを変えた方がいいかもな。まさか「前の私と今の私どっちが好き?」って聞いてないよな? 寝取りはいかんぞ》

《寝取りに草 寝てから言え》


『さすがに意味が分からないと思って言いませんでした』


《偉い》

《なおのことなんで染めたかわからなくなってて草》

《訂正、江麻ちゃんやっぱり馬鹿です》








 褒められた後にけなされた。でも、全体的になんだか優しくなっている気がする。「草」ばっかり言っている人はもう諦めた。反論の仕方が見つからなかったとも言う。









『ちなみに髪の色は戻しました』


《ああ。ただ、江麻ちゃんの方は、幼馴染を脱却する努力は続けてもいいかもしれん》


『なぜですか?』








 首をかしげながら、私は尋ねてみた。だって、私が何かしたとしても、小都と孝市の仲は進展しないのではないか。だからもう止めようかと思っていたのに。


 しかし、私の疑問が聞こえたかのように、コメントが流れていく。








《孝市の方の価値観を崩すのは有効かもしれん。幼馴染は地味で代り映えがしなくてつまらん存在だと言われたんだろ?》


『さすがにそこまでぼろくそには言われてません』


《倦怠期みたいな台詞だよねえ。引き続き、固定イメージは払拭した方がいいかもね》

《これなら江麻ちゃん1人で完結するしな》

《付き合ってすらいないのに倦怠期とか草》









 ……もう! あと別に私が孝市と付き合いたいわけじゃないんだってば! 私はギリギリと歯噛みしながら空中を睨みつけた。








《それに、もう1つ。努力した結果、お前が応援したい2人はこそこそ内緒話をするようになったわけだ。2人だけの秘密の共有は、恋人への第一歩と言っても過言ではない》

《完全同意できて草》

《それに、今ってまだ2年生の9月でしょ? もう少し、時間に余裕はあるはずだ。本格的に他のヒロインが出てくるのは2年生の晩秋からだから》


『まず最初に、他のヒロインとやらの話を聞いてもいいですか?』










 そして、話をざっと聞いてみたところ、どうやら、後輩霊媒師、吸血鬼、食堂のお姉さん、メインヒロインの4人がいるらしい。だが、転校生であるメインヒロインは来年3月終わりまで来ないとのことなので、関係なさそうだ。本格的にメインストーリーが進むのもそれからとのこと。しかし、今回は小都と孝市の恋愛が本題なので、無視していいだろう。それよりは現在ライバルとなり得る存在の方が遥かに重要である。





 まず、ヒロイン1人目。後輩霊媒師の遠野さん。霊を祓う術の威力が飛びぬけている代わりに、発動するまでに時間がかかり、しかも霊が見えないという特大の欠点を持っているらしい。現代日本で霊媒師という肩書は欠点ではないのかと私は一瞬思ったものの、職業で差別するなんていけないことだと首を振った。











『霊が見えないと意味なくないですか? でも、慣れてたら当てられるのかな……』


《それが全く当たらないんだ。遠野ちゃん、出力大きいけど霊感0だからね》

《だから孝市が協力して隙を作り、しかも相手の場所を特定する必要があるわけだ》


『孝市も霊は見えないはずですけど……』










 聞いてみると、塩を地面に撒くと怨霊が通ったときに変色するからそれで場所が分かるのだとか。孝市と遠野さんが最初に怨霊と戦った時は、家庭科室の食卓塩でなんとかやり遂げたそうだ。食卓塩って。塩の種類はなんでもいいらしい。













《でもさ、結局、遠野ちゃんって術が完成するまで十五分祈らないといけないんでしょ? 1人で戦おうとしてるけど破綻してるよね。負けたら呪われて死ぬんだし》


『……呪われて死ぬ?』


《あんまり頭は良くないよな》


『えっ、呪われて死ぬんですか? ここ、そんな世界観なんですか?』


《馬鹿な子ほどかわいいって言うだろ》


『あの聞いて』













 そして、本格的に後輩霊媒師の遠野さんルートに入るのは、十月末。孝市が小都と一緒に秋祭りに行く約束をしていた日のことらしい。放課後、孝市のクラスに突然駆け込んできた遠野さんが、息を切らせながら孝市の腕に縋り付き、自分と一緒に戦ってほしいと懇願する。孝市はしばらく困惑したものの、遠野さんの素性を既にある程度聞いていたことから、何があったか思い当たる。そして、即座に小都に向かって手を合わせるのだった。


「すまん、やっぱり秋祭りは江麻と一緒に行ってくれ。俺は大事な用事が入ったから」













『小都との約束は大事じゃないんですか?高2の秋祭りって一生に一回なんですよ?』


《全然悩んでなかったよな》

《小都ちゃんがあっさり引くのもかわいそうでいいよな。「別にどっちでもいいよ。わたしは構わないから、孝市くんも頑張ってね」って言って切ない笑顔で送り出してくれるんだ》

《健気で草》














 そこから孝市は、この地に昔から伝わるという、人を意のままに操り死に導くという物騒な怨霊と関わっていくことになるらしいのだが……今回は遠野さんルートには絶対に入らないので詳しく聞くのはやめておいた。しかし、ということは、秋祭りには何としても孝市と小都に行ってもらいたいところ……と、そこで私は首をかしげる。















『遠野さんルートだと、孝市が手伝うんですよね? 他のヒロインのルートだと遠野さんはどうなるんですか?』


《なんかその日以降、姿を消すね》


『死んでるじゃないですか……! やっぱり物騒な世界なんですねここ⁉』


《じゃあ遠野ちゃんルートにしとくか?》


『それは嫌です』


《即答で草》

《全然迷わなかったな》














 しかし、そこで私は、うーんと考え込んだ。小都と孝市が結ばれては欲しい。ただ、さすがに人死にが出るのは違うのではないか。ちょっと寝覚めが悪すぎる。しかし、孝市には秋祭りに絶対に小都と行ってほしい。これは譲れない。




 やがて、私は1つの結論に辿り着いた。これしかない。












『わかりました、孝市の代わりに私がなんとかします』


《江麻ちゃんが怨霊と戦うの⁉》

《発想がぶっ飛んでて草》


『十五分間逃げ続けて、地面に塩を撒けばいいんですよね。じゃあ何とかなりそうです。孝市も私も同じ一般人なので』


《自殺志願者かな?》

《どうしよう、すごく止めたい》

《ていうかこの江麻ちゃんほっとくとヤバいぞ。さすが1人で髪染めて登校しただけある》

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戦った後メッチャ塩害起こしそうやな……
なぜうちうち主人公は命が軽いのか。
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