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私たちは、幼馴染の恋(※1)を応援したい(※2)  作者: うちうち


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21/27

「孝市君なら来ないよ」

 自宅に戻ると、小都からメッセージが来ていた。


『江麻ちゃんの部屋で告白したいんだけど、いいかな』


 私に立ち会ってほしいらしい。まあ、小都がいいなら、構わない。親友として、最後まで見届けようではないか。








『問題は、幼馴染って告白しても聞こえないんですよね』


《まあ、至近距離で大声で言うしかないな。聞こえないのが不自然な状態をまず作れ》

《あとは、第三者からの妨害が入らない状態を作ること。江麻ちゃんの部屋でやるんでしょ? 防音シートとか真剣に考えた方がいいかもね》

《聞こえるまで何度でも言うように小都ちゃんには伝えろ》

《ただ、そこまでやっても振られる可能性がある。そんな風に思ったことないとか。それでもとにかく粘れ。諦めたら負けだ》








 とりあえず、私の部屋の窓に、防音シートを貼りまくった。鍵もホームセンターで買ってきて、2重にロックできるようにした。本番では雨戸も閉めようと思う。


 さらに、小都に、「そんな風に思ったことない、とか言われても、諦めず頑張ろう」と何度も伝えた。そんな風に、準備をしながら過ごしていると、時間はあっという間に過ぎていった。







(3月13日 木曜日)



 いよいよ本番を明日に控えた日。私の部屋には、珍しく今日は小都が来ていない。代わりに、遠野さんとリアが揃って来ていた。というか私が呼んだ。今更ながら、ちょっと気になることがあったから。


「小都が最近、なんだか元気ない気がする。何か知ってる?」


 ホワイトデーが近いからなのかなと最初は思っていたけれど、明らかにそんな感じじゃない。緊張しているというよりは、近しい家族が余命宣告でもされたみたいにひたすら暗いのだ。小都に聞いても黙って首を振るだけなので、第三者の意見を聞いてみたかった。




 すると、2人は微妙な顔で、顔を見合わせた。あ、これ何か知ってそう。


「そういえば、あたし、下迫先輩に呼び出されましたよ」


「私も同じく」


「小都に? 何の話だったの?」



 すると、2人は気まずそうに目を合わせた後、まず、遠野さんが口を開いた。


「えーっと、江麻先輩が危ないことしてないかって。あたしの霊媒師のことも知ってました。あんまり深刻だったんで、教えましたよ。空き地の怨霊の話。すっごく怒ってました」


 そして、リアも続ける。


「教会で助けてくれた話と、いつも血を吸わせてくれる話をしたわ。血がおいしいって褒めたら、すっごく怒ってた。二度と吸うなって言われちゃったわ」


「なんで2人ともそんな素直に言っちゃうの」


 だってねえ、と2人はまた顔を見合わせた。


「怖くて。だってすごい気迫だったんですもん。あたし、殺されるかと思いましたよ」


「銃弾がめり込んだ防弾チョッキを出されて、「これはなに?」と言われて。日本語分からないふりしてもダメだった」





 私はそれを聞いて、自分のベッドの下を覗き込んだ。……ない。奥に押し込んでいたはずの、防弾チョッキが、ない。


「ほんとだ、なくなってる……」


 床に這いつくばっている私の上から、遠野さんが呆れたような口調で言った。


「とっとと捨てときましょうよそんなもの」


「何ゴミかわからなくて……あと高かったから……」


 ま、まあでも、結果的に無事だったんだし……そんなに怒らないでしょ。




 私が震え声で見解を述べると、遠野さんは納得がいかなそうな顔で首をかしげた。


「いや、そうですかねえ……? 怒る要素しかなくないですか?」


 そして、リアからも追加でこんな証言があった。


「あと、雨戸が閉まってるときは江麻の部屋に入ってくるなって言われた」


「どういう意味なの……?」


「窓から入ってくるのが選択肢に入ってるのがちょっと怖いですって」









(3月14日 金曜日)



 放課後、準備してくると言う小都と別れ、私は一足先に自分の部屋に戻った。そして、最後の振り返りを行う。








『と言っても、私にできることって見守るくらいしかできないんですけど』


《それより、弁明考えてた方がよくね?》


『確かにちょっと危ないこともしてましたけど、そこまで怒ることでしょうか……?』


《・親友が怨霊に襲われて死ぬかもしれなかった

・手首には今も呪いが残されてる

・親友が吸血鬼を狙う組織に襲われて死ぬかもしれなかった

・というか銃で胸を撃たれてる

・吸血鬼に定期的に血を吸われている

・触ると気が狂うという経典に関わっている可能性がある

・そもそもの発端は、どれも小都ちゃんと孝市が無事にデートしてほしかったから

・小都ちゃんは全てが終わってから事情を聞いた

ツーアウトってとこか……?》

《試合終了定期》


『えっ私、終了しちゃうんですか』







 ちょうどそのとき、私の携帯がプルプルと震える。小都からだ。






『小都、今から私の部屋に来るそうです』


《来たな》

《叱られてこい》


《ていうかさ、違う可能性に気付いちゃったんだけど》

《何で小都ちゃん関係の話だけここまで気付かないのかってな 鈍感にも程があるだろ》

《ゲームだから行動が制限されるって縛り、江麻ちゃん自身も対象なんじゃね?》

《じゃあ小都ちゃんも頑張らないとな。シナリオ以外のことも起こせるって江麻ちゃんが証明したんだから》


『えっとごめんなさい、さっきからよく文字が見えなくて』


《ほらやっぱり縛られてるじゃん。がんばれ小都ちゃん》


『???』









 とりあえず、雨戸をガラガラと閉めた。窓の2重ロックを指さして確認。雨戸よし、防音シートよし。外の音は全く聞こえず、非常に静かである。






 やがて、小都が緊張した面持ちで顔を出した。小都も、私の部屋のガッチガチの防犯体制を見て、ふむ、と頷く。どうやらお気に召したらしい。


 孝市がもうすぐ来るだろうから、と私が席を外そうと腰を上げると、小都がはっしと私の裾を掴んできた。そういえばそうだった。私も最後まで見届けるんだった。




 小都と座布団を並べて座り、なんとなく、顔を見合わせる。小都は胸を押さえて目をぎゅっと閉じたり、顔が赤くなったり青くなったりしている。まだ孝市いないのに。これで来てしまったらどうなるんだろう。


 いちおう私からも、孝市にメッセージを送っておいた。おやつがあるから早く来い、と。すると、ピロン、と返事が来る。「すぐ行くから待ってろ」、か。よし、問題ない。私は視線を小都に戻す。






 でも、去年の夏の終わりに、小都が打ち明け話を始めたときに比べると、色々な意味で前に進んだとは思う。無理だったら私が一緒に泣くし、成功したら一緒に喜びたい。


 しかし、もうすぐ結果が出ると考えると、自分のことでないのに、鼓動がどんどん激しくなってくる。……今日この後、どう、なるんだろう。






 小都が、ようやく少し落ち着いたらしく、私を振り返って口を開いた。


「ねえ、江麻ちゃん。覚えてる? 初めて会った日の翌日、一緒にさ。街外れの廃線とトンネルを見に行ったよね」


「ああうん、なんとなく、覚えてるよ。楽しかった」



 私と小都は、初めて会ったとき、「明日、街外れにある朽ち果てた線路の先を見に行こう」と約束をした。もうセピア色に褪せてしまった、遥か昔の夏の1ページ。


 正直、小都はきっと来ないと思っていた。だって、会ったばかりの人間と学校をさぼって遊びに行くような人間には見えなかったから。





 結局、廃線の先にあった小さなトンネルに入ったもののすぐに怖くなって出てきて。土手で小都と一緒に食べたあんころ餅の甘さは、特に覚えている。草の匂いのする風の吹き抜ける中、それでも、あのあんころ餅の甘さは鮮烈だったっけ。



 私の返事を聞いて、小都は顔を歪ませ、膝の間にそっと顔を埋めた。


「おいしかったよね、おはぎ。わたしはずっと覚えてたよ。なんとなくじゃなくて」


 そう言って、小都はちらりとこちらを見てくる。……いやいや。


「……あれ? おはぎだっけ? あんころ餅でしょ?」




 すると、小都は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、私の顔をきょとんと見返した。そして、我慢できないように、ふふっと笑う。


「え、なに。何がおかしいの」


「ううん、江麻ちゃんもちゃんと覚えててくれたんだなって」


「まあ、学校サボって誰かと遊びに行ったのってあの1回しかないからね」





 小都はその後もころころと嬉しそうに笑い、体を左右にしきりに傾けた。


「わたし、好きな人と最初に会った時、この人とは仲良くなれなさそう、って思ったの」


「孝市かわいそう……まあ、そういうこともあるよね」


「でも、その子から誘われて、一緒に街外れの線路の先を見に行って。あんころ餅を半分こして。わたし、あの頃、学校が嫌いだった。だから、あのとき、外に誘ってくれたのは、あのときの私が一番欲しかった言葉だったんだよ。たまたまだったと思うけどね」





 私は、小都の話を聞いて首をかしげた。今って私の話だったっけ? 孝市の話、だったよね? だって好きな人の話なんだから……。それにしても、孝市遅くない?


 小都は、そんな私の顔を見て、静かに笑った。


「孝市君なら来ないよ」




 そっと、小都が体を少しこちらに寄せてくる。触れているわけではないのに、小都の暖かな体温と息遣いを、私は確かに感じた。え? それより、孝市が来ない? なんで?


「だって。私の好きな人、孝市君じゃないもん」


「……えっ?」







《えっ?》

《知ってた》








 そして、小都が懐から、墨で呪文の書かれた茶色の札を取り出し、びりっと破った。すると、バチンと音がして、頭の中で響いていたコメントが、聞こえなくなった。


 その場にしん、と静寂が訪れる。この場にいるのは、小都と私の2人だけで、私たち2人の息遣い以外、何も聞こえない。……いや。








 ちりん、と、どこかから鈴の音がした。







≪第二章≫



【9月14日 月曜日】



「やっぱり、間違えちゃったと思うんだ」


 放課後の教室で。大島陽葵は、目の前で何度もこれ見よがしに溜息をつく友人を、白い目で眺めた。いかにも事情を聞いてほしそうである。


 しばらく無視していたものの、陽葵の友人――下迫小都は、溜息を止める気配がない。どうやら聞くまで続けるつもりらしい。渋々ながら、どうしたのか尋ねてみた。


「……で、何を間違えたって?」


「好きな人へのアプローチの仕方」


 あっさりと返事が返ってきた。小都は机に肘をついて窓の外を眺めているが、そのいつも白い頬は、少し赤くなっている。どうやらマジであるらしい。この顔がやたらといい女は、あろうことか、恋をしているとのたまった。





「そもそもさ、小都、好きな人いんの?」


「いる。あわよくば結婚したいと思ってるくらい」


「おっも。……それで、何を間違えたの?」


 陽葵が尋ねたところ、小都はしばらくもごもごと口の中で何か呟いた。正直全然聞こえない。何度か聞き直すと、ようやく小都ははっきりと答えを口にする。


「好きな人がいるんだ、って遠回しに言ってみたら、『応援する!』って言われちゃった」


「ばっさりじゃん」


 ご愁傷さま、と同情の視線を陽葵は友人に送る。もうそこから戦況を覆すことは無理だろう。あとは敗戦処理をどうするかのレベルの話のように思えた。




 ところが、小都は首を振って、「続きがあるの」と口を開いた。気のせいか、先ほどまでよりも口調が重々しくなっているような気がして、陽葵は首をかしげる。玉砕が確定したさっきの話以上に問題のある状況なんて、あり得なさそうなのだが……?


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― 新着の感想 ―
え、タイムリープ...?いや、違うか。小都も陽葵から何らか入れ知恵されてる...?
終わりが近そうに見えてここから謎が深まっていきそう 場合によっては曇らせも……
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