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御家庭内で‼ ご不要になりました‼ テレビ‼ エアコン‼ 洗濯機などの回収を‼ 無料で‼

 その後、突然の乱入者に驚いた隙を逃さず、リアがあっという間に追手を制圧した。発射された銀の弾丸は、確かにリアの心臓の高さで、私が着こんでいた防弾チョッキに防がれ、止まっていた。開発してくれた企業の人たちありがとう。


 しかし……ズキリと胸が痛む。どうやら衝撃までは殺せなかったらしい。




 私が胸を抑えてうずくまっていると、慌てたように2人が駆け寄ってくる気配がした。


「む、胸、痛くない⁉ 大丈夫⁉」

「バカなんですか⁉ あんな風に割り込んだら、撃たれるに決まってるじゃないですか!」


 2人に左右からぐらぐらと揺らされ、私は激痛に眩暈がした。ごめん、撃たれるより痛い、痛いって。たぶん肋骨にひび入ってるからやめて……!






 その後、とりあえず3人で、私の家まで退却し、祝勝会をした。機関の追手はリアが記憶処理をしてくれて、全部忘れさせたので安心らしい。日本に来ている追手はあれで最後だったのだとか。確かに原作でも、次の追手が来るのは4月になってからだったはず。


「ねえ、本当に大丈夫?」


「うん、防弾チョッキ着てたから」


 ほらほら見て、と私が服をぺらりとめくって防弾チョッキを見せると、遠野さんは気まずそうに目をそらした。かと思うと、はあっと重いため息をつく。


「そういやこういう人だった……心配して損した……」


 呆れたように遠野さんが呟いた。いちおう心配してくれたらしい。一方、リアは何度も「大丈夫?痛くない?」と言って防弾チョッキの上からさすさすと撃たれた場所をさすってきた。そのたびに鈍痛が走り、私は明日病院に行こうと決意した。




「ねえ、またこっそり来ていいかしら? あなたにお礼がしたいの。血も沢山もらったし。もし何か困ってたら、この街の中なら、私の名前を呼んでくれたら聞こえるから」


「こっそりってことは、窓から? いいけど」


「ちょっと待ってください、窓から入ってくるんですかこの人⁉ あと血をもらったって何ですか⁉ まさか吸わせてるの⁉」


「まあ、私も孝市の家に入るときは窓からだし……吸血鬼って血を吸うものだし……」


「後者はちょっと本気で説教するとして。え? 孝市先輩と付き合ってるんですか?」


「私、死ぬまで孝市は恋愛対象に見ないと思う」


「死ぬまで……!」







 さらに、教会のイルミネーションから帰ってきた孝市に、私は呼び出しを受けた。今日なんだか忙しいな……。そして孝市の部屋で、私は何度も念を押される。


「お前さ、変なことに関わってないよな? いや、この前の遠野の話じゃないんだけどさ」


「変なこと?」


「だって、タイミング良すぎるだろ。なんで小都と出掛けろってお前から言われた日に、リアが機関から襲撃されるんだよ」


「孝市に何かありそうな時くらいわかるよ。小都もわかると思う。孝市はさ、わからない?」


 だって、ずっと昔から一緒にいたんだから。


 私が確信を持って見上げると、孝市は、何も言わず、苦い顔をして顔を逸らせた。








《「変なことに関わってない?」って、原作で江麻ちゃんが孝市に言う台詞でしょ》

《完全に役割逆転してて草》

《てか遠野ちゃんとリア同時に救えるんだな》


『私が生きてるのはゲームじゃないので』








(12月25日 水曜日)



 小都から、昨日の教会でのイルミネーションはどうだったのか聞いてみたが、いまいち進展があったようには思えない。小都は困ったように眉を寄せ、横目でこちらを見つめる。


「孝市くん、江麻ちゃんのことばっかり気にしてたよ。なんでかな?」


「ごめん、それは真剣に分からない」


「江麻ちゃん、本当に孝市くんのこと、好きじゃないんだよね? ていうかクリスマスイブ、誰とどこにいたの? ちょっと教えてくれる?」


「少なくとも孝市とは一緒にいなかったよ? ちょっ、小都、痛い痛い!」




 肩を掴まれてぐらぐらと揺さぶられたことにより痛みが再発し、私は病院に直行した。結果、やはり肋骨にひびが入っていたことが発覚し、体育をしばらく休むことになった。銃で撃たれたことを考えると、これでもまだマシな方だったかもしれない。







 そして、病院から戻ってきた私は、屋上で河原崎さんと作戦会議を行った。彼にもイブの2人の様子を確認したけれど、やっぱり恋愛的なあれそれは1つも起こらなかったらしい。……ここまで来たら知ってた。もう、今日で2学期も終わりなのに……!


 一方、額に手を当てて考え込んでいた河原崎さんは、突然、はっと何かに気が付いたような表情を浮かべた。聞いてみると、何やら確認したいことがあるらしい。


「江麻ちゃん、提案がある。このままだと、君とあの2人の間に亀裂が入りそうだよね」


「…………否定できません」


 というか、もう既に入りまくっている気がした。


「で、それは、君が孝市のことを好きじゃないと証明出来たら解決する」


「ですね。何度も言ってるんですが、私、最近信用ないみたいで」


 で、提案とは? 私が視線で促すと、河原崎さんは爽やかな笑顔を浮かべた。


「じゃあ、俺と付き合おうよ」


「…………は?」


 私がこぶしをぎゅっと握り締めると、河原崎さんは目を丸くした。


「どしたの」


「宇宙からの怪電波があなたの右頬を張り飛ばせと指令を飛ばしてきてます」


「急になんなのそのキャラ」


 苦笑して、河原崎さんは首を振りながら手を広げた。相変わらず胡散臭い動きだった。


「違う違う。別にふりでいいんだよ」


「……ふり?」


「つまり、俺と江麻ちゃんが付き合ってるってなったらさ。孝市のことを好きな江麻ちゃん、は否定されるだろ?」


「それはそうですけど」


「ちなみにほんとに付き合っても「それはお断りします」


「断るの早っ」


 全然考えてくれないじゃん、と苦笑する河原崎さん。……まあ確かに、私がいくら言っても孝市と何もないってことを信じてもらえないなら、それもアリなの……?







 しばらく考え、私は、頷くことにした。代わりに、小都と孝市にしか言わないということを条件にした。河原崎さんは満面の笑顔で了解してくれたので、私はほっと息をつく。


 そう、この時の私は忘れていた。河原崎さんが、面白そうなら何でもするということを。








 その日の昼休み、河原崎さんが教室に私を呼びに来た。怪訝そうな表情を浮かべる小都と、頭の上に「?」が飛び交う私。私達が顔を見合わせていると、河原崎さんはとんでもないことを大声で言い出した。


「ごめんごめん、やっぱ彼女が病院に行ったって聞いたら心配でさ」


「ちょっ……! な、なんでそんな大声で……!」


「……は? え? え? 江麻ちゃん? ど、どういうこと?」


「そうだ、下迫さんにも報告しておかないと。俺と江麻ちゃん、付き合い始めたんだ。ってことで、俺の大事な彼女、借りていくね」




 そして、私は河原崎さんに肩を抱かれ、ずるずると引っ張られながら、茫然と教室を後にした。しーん、という静寂の後、教室がわっと騒がしくなる。


 結局、小都は追ってこなかった。








 昼休み、屋上に呼び出された。小都と孝市にである。ちなみに河原崎さんも呼び出されてたのにあっさりバックレた。あのやろう。私は今、2人の前で、ひたすらに縮こまっている。


 小都が、任務に失敗した部下を見る悪の組織の首領みたいな目で、私をじろりと睨んだ。


「それで? 江麻ちゃん、さっきの何? 説明してくれる?」


「あの、ごめんね、言うのが遅くなったんだけど」




 私は下を向きながら、実は河原崎さんと付き合うことになった、と報告した。小都の目が、ひたすら怖かったから。そりゃ応援すると言っていた友人が先に恋路を成就させたと聞いたら、怒るよね。私が話す一言一言の間に「は?」という低い声で合いの手(?)を入れてきた小都は、話が終わると、鉛筆で塗りつぶしたみたいな真っ黒な目で呟く。


「……結局、約束、破ったんだ。……せめて直接教えてくれてたら……」


 付き合う設定がさっき急に生えてきたんだよ、とは言えなかった。いや、このままだと何のためにこんな険悪になったのかわからない! せめて、これだけは言っておこう!


「あのね、孝市とは何もないって信じてほしくて」


「そんなこと、どうでもいいんだよ。江麻ちゃんなんて嫌い」


「そこまで⁉ え、ちょ、ちょっと……!」


「ほんとに……最悪だよ……っ! 帰るっ‼」






 小都はそう吐き捨て、冷たい目をして走り去っていった。その場に立ちすくむ孝市を置いて、私も反射的に追いかける。


 小都は、教室に戻らず、そのまま下駄箱に直行し、グラウンドを思いっきり突っ切って校門まで駆けていく。私もすぐさま追いすがり、校門に行く前に追いつくけれど、小都が振り向かずに激走しているので、そのまま並走した。視線の端で、教室から複数の生徒がこちらを興味深そうに眺めているのが見えたが、関係ない。






 結局、小都の住んでるマンションまで追いかけた。小都は、エレベーターを無視して、ダダダダ、と階段を2段飛ばしで登っていく。


「待って小都!」


「……!」


 小都は、一瞬私の方をちらりと見て、歯を食いしばり、さらにスピードを上げた。




 そして、私が手を伸ばした目の前で、ドアが無情にもバタン! と閉められる。ガチャリ、と鍵の回る音がして、私はドアにごつんと額をぶつけた。はぁはぁという音がずっと響いているので何かと思ったら、今になって、自分の息が上がっていることに気付いた。



 その後、何度チャイムを鳴らしても、ドアを叩いても、小都は出てきてくれなかった。







《ひたすら最悪の選択肢選んでて草》

《応援するより自分の恋路を優先したって思われてるよねこれ》

《いつの間にか自分が親友の一番じゃなくなってたってひたすら思い知らされてる》






 あれからずっと、小都は出てこない。私は制服のまま、学校に戻らず、ひたすらドアの前で座って待っていた。このまま、小都と来年まで顔を合わせないのは嫌だった。しかし、出てこない。このまま、永遠にドアが開かれないんじゃないかとさえ思った。


 小都の部屋の表札を見上げたとき、どこからか、小都の声が聞こえた気がした。


『わたしの部屋には屋根から入ってこないのに』


 私は外に視線を移す。いつの間にか、空が青からオレンジに変わろうとしていた。……もう夕方だ。なら、ひょっとして。




 私は、いったん下に降り、駄目元で、小声でリアを呼んでみた。すると、しばらくして、物陰からパタパタと小型犬くらいの大きさのコウモリが羽ばたいてやってくる。コウモリは、私の前に着地すると、じっとつぶらな目でこちらを見上げた。その目は、リアにそっくりだった。


 小都の部屋に行きたいと頼むと、コウモリは私を背に乗せ、パタパタと空に舞い上がった。思わずぎゅっと胴体を両手で抱きしめる。ふわふわの手触りが返ってきて、もぞりとくすぐったげに身を揺らした後、コウモリは小都の部屋のベランダに着地した。




 窓をコンコン、とノックすると、しばらく間があり、おそるおそるといった感じでカーテンがシャッと開いた。顔を出した小都は、目を真ん丸にする。そして少しの間迷っていたが、やがて、おずおずと鍵を開けてくれた。


「江麻ちゃん、どうやってベランダに……? ここ5階なんだけど……」


「ごめん、でも、小都とどうしても話したくて」


 すると、小都は、まるで死刑を宣告しに来た看守を見る死刑囚みたいな顔をした。見たことはないけど、そんな感じの顔だった。そしてその場にうずくまり、両手で耳をふさぐ。


「聞きたくない」


「あのね、小都」


「やめて」


「まず、私は小都に幸せになってほしいと思ってる。だから応援してるのは変わらない」


「そんなこと言う江麻ちゃんなんて嫌い。いっつもそう。全然わかってくれない……!」


「孝市を好きだとか、勘違いとかしてほしくないから! 河原崎さんとは、付き合ってるふりしただけなの!」


「だから!…………えっ?」


 小都は、茫然とした顔で私を見上げた。口がポカンと開いている。


「今、なんて?」


「えっと、だから、河原崎さんとは付き合ってないって」


 すると、小都はいきなり立ち上がった後、そのままゆっくりと、ベッドに向かってあおむけに倒れ込んだ。まるで正面から狙撃されたみたいだった。私もこの前撃たれたばかりだからわかる。そして、小都はそのまま枕を両手で抱きしめ、両足をバタバタと動かした。


「あーーもうっ! 何なのその嘘⁉ もうほんっと、馬鹿じゃないの⁉ 江麻ちゃんじゃなかったら絶交してるからね!」


 発案者は河原崎さんだと伝えたらやばいことになりそうだった。ただ、その点については口をつぐむ。乗ったのは私なのだ。




「小都、ごめん。ねえ、聞いて、お願い」


 寝転がったままの小都の袖を引っ張っていると、強い力でそっと抱き寄せられる。そして、小都が私の耳元で、小さな声で、何か言うのが聞こえた。


 ……ただ、内容は、ちょうどタイミング悪く、廃品回収のトラックが音を立てて外を走っていったため、よく聞こえなかった。


 「廃品回収車です‼ 御家庭内で‼ ご不要になりました‼ テレビ‼ エアコン‼ 洗濯機などの回収を‼ 無料で‼ 行っています‼」という、やたら大きなアナウンスが遠ざかるのを待って、私は口を開く。




「ごめん、なんて? うるさくて聞こえなかった」


 小都はむくりと起き上がると、頬をぷくりと膨らませたままで私を睨みつけた。そして、クッションをぎゅっと胸元に握り締め、ふるふると身を震わせる。


「江麻ちゃんを許すには1つ条件があります。はい、って言って」


「わかった」


 私はすっとその場に正座する。どんな条件でも、受け入れるつもりだった。


「2度とこんな嘘をつかないこと」


「はい」


「わたしが『解禁』って言うまで、恋人を作ったりしないこと」


「えっ……1つって言ったのに……」


 つい口に出すと、小都はぎろりと私を睨む。私は大人しく両手を挙げた。


 まあ、当てもないし。どんな条件でも受け入れるつもりだったし、問題ない。


「じゃあ、はい。わかった」


「それと……」


 まだあるんだ、と思ったけれど今度は言わなかった。私は学習できる人間なのだ。しかし、いくら待っても、小都から条件は提示されなかった。







「なんでもするよ?」


「そういうこと誰にでも言う江麻ちゃんは嫌い」


「小都だから言うんだけど」


「じゃあ許した」


 結局、それ以上は言われなかった。何が「じゃあ」なのかはよく分からなかった。


「あーもう、疲れちゃった……」


 小都はクッションを脇に置くと、胸を押さえて何度も大きなため息をついた。


「疲れたよね。もう何も考えたくない」


 すると、小都は呆れたように私を見つめてきた。なんだか言いたいことがたくさんありそうである。けれど、よかった。小都と二度とちゃんと話せないかもしれない、と考えると、私も胸が締め付けられるように苦しかったから。





 私もさっきの小都を見習い、思い切って床に寝そべってみる。すると、ひんやりとした感触が頬に返ってきた。同時に、急に眠くなってくる。いけない、このままだと寝てしまう気がする。そこで私は、半分目を閉じながら、小都に話しかけた。


「小都、何か話さない? 適当な話でいいから。私、今、楽しいことしかしたくない気分」


「……えーっと、それはつまり」


「私は小都とどうでもいいこと話す時間好き」


 決してダジャレではない。すると、小都はしゃっくりみたいな変な声を上げた。


「ふへひっ」


「え、何今の声」


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― 新着の感想 ―
無自覚重量級レズは何だか開けちゃいけない扉な気がする・・・。
かわいい。そのまま添い寝してくれ。
早くくっついてくれぇぇぇぇぇ!
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