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第一章 5 『分岐点』


あれ以来、俺たち兄弟はミアと一緒にいることが多くなった。


大体は午後から川のほとりの木陰に集合する。俺の顎がクラッシュされた場所だ。

集合した後は剣を合せるなり、あたりをぶらぶらするなり。

その日の気分次第だ。


ちなみに俺とミアが剣を練習してるとき、クリスは魔法の練習をしたりしている。

ミアの治癒魔術をみて感動したのか、あれ以来ララやミアの魔法を教わっている。




魔法は一般魔術と特殊魔術に分類されるらしい。


・一般魔術

自然現象を発現させたり、それを変化させたりできる魔術。

冒険者が攻撃に使うのがこの魔術である。


種類は火・水・土・風の四種類。

と言っても、氷であれば水の温度を調整すれば作れるし、

雷であれば水と風の応用で作れるらしい。


つまりは自由なのだ。


魔術師の発想次第で、様々な物理現象を越えた力を可能にする。


そして、一般魔術は魔力量と技術、適性に依存するそうだ。

魔力量も体力と同じで鍛えれば上がるし、技術だってそうだ。

適性は使ってみないと分からないらしい。


・特殊魔術

これは一般魔術に当てはまらない魔術をひとくくりにしたものだ。

治癒魔術に召喚魔術、挙げればきりがないらしいが、

一般魔術として説明がつかないものだと思ってくれていい。


だが、研究を進めれば進めるほど、それらが一般魔術だったと判明することが多いらしい。

だからすべての魔術は一般魔術の応用でしかない、と考える人もいるそうだ。


以上。



「よそ見するな。また顎割られたい?」

「それはごめんだね」


とそんな回想に入っているとミアからおしかりを受けた。


今日も今日とて剣術だ。


クリスは隅に座って、難しい顔で掌で風やら水やらを生み出している。

やっぱ才能あるんだよな。


俺も一応はクリスに便乗して魔術を習っている。

が、まったくもって使えない。


ララが言うには魔力量が少ないかららしい。

だがこうして訓練すれば、魔力量は増えるかもしれないらしい。


まあまずは剣術だ。


分かっていたことだが、ミアは強い。

ジークが言うには、歳を考えれば相当強いらしい。


まずの目標はあの不愛想な面を涙でゆがめてやることだ。



——————————————



「ねえちゃん、こう?」

「んー、いや魔力を指先に溜めすぎてる。

それじゃあ、小さい土片しかできない。

もっと大きくしたいなら、なんて言うんだろ。掌を包み込む感じ」

「わかった……」


ちょいちょい、クリスさん。

君にはお兄ちゃんしかいないはずだぜ。

その女をお姉ちゃんと呼ぶのはやめてもらおうか。


それにしてもミアはクリスが気に入ったようだ。

不愛想だが何かあればクリスの頭をなでるし、

こうして丁寧に魔法を教えてあげている。


今は土魔術を教えているところらしい。


「ほらこんな感じで、密度を高くするなら、こうやって押し固めるんだ」

「わあ、すごいお姉ちゃん」


ミアが手をかざすと、何もない空中に土のがめきめきと形成されていく。


それに目を輝かせているクリス。

まんざらでもなさそうに頬を掻くミア。

なんかあっちの方が姉妹っぽいな。



俺は掌を見る。

魔力を集めるって感覚がそもそも分からない。

そんな自在に操れるものなのだろうか。


異世界に来たんだから、魔法ぐらいは使ってみたい。

だが魔力量が少ないんじゃあなぁ。

そもそも鍛えれば増えるって言ってたけど、

魔力を使ってる感覚すら分からないから、鍛えようがない。


まあいい。

ララが言ってた『神の問い』とやらが来るまで、気長に頑張るとしよう。


それにこんな美形な子と友達になれたんだ。

いつかは——————


「それで、飛ばしたければ—————こう」

「うおわああッ!!」

「ね、ねえちゃん!?」


俺に作った土片を向け、えぐいスピードで飛ばしてきやがった。

なんだよ俺、顔に出てたか?


「ちっ」

「おいふっざけんなよ!?

あんなん顔にめり込むとこだったぞ!?」


「あんた、反応速度だけはいい」

「このガキ! 一回わからせてやる!!

ぜって涙目にさせてやるからな!!」

「ふん」


このがきがああ!

舐め腐ってやがる。


彼女はたまにこうやって、前触れもなく俺に攻撃を仕掛けてくる。

相変わらず不愛想で、何考えてんだか分かんない。


だが、多分距離感が分からないのだ。

心の距離感が。


俺とクリスを見ればわかる。

きっとクリスみたいなのが年相応なのだろう。

年相応の性格なのだ。


だから彼女の目からは、俺は不気味に映るだろう。

自分よりも小さくて、年下の男の、見た目と中身が噛み合っていない。


そりゃどう接すればいいか分からない。当然だ。


だがこれも時間の問題だろう。

時間があれば解決する。

大体のことはそうだったから。

まだあって数か月しか経ってないんだ。


「兄ちゃんたち。なんだか兄弟、みたい」

「ん?」


クリスがそうつぶやいた。

どこが?

こんなことあればミアは俺に攻撃してくるし、

俺だって反撃することもしばしば。

これが兄弟?


「だって二人とも髪真っ白だし。

兄ちゃん、ねえちゃんといるときちょっと話し方違うし。

なんだかいつも喧嘩してるけど、たのしそう」


「お、俺の兄弟はクリスだけだよ」


そりゃ、口調だって変わるだろう。

妹への話し方。親への話し方。目鵜への人への話し方。

同年代の友達への話し方。

全部違うんだ。


だが、ミアが兄弟ってのも笑えない。


「お姉ちゃんだって、魔力がゆらゆらしてるもん」

「えっ?」


クリスの発言に、驚きの声を漏らしたのはミアだった。

しかし魔力が揺れるってのはどういうことなんだろう。

感情に合わせて揺れたりするものなのだろうか。


「クラリス、そんなところまで見えてたの?」

「ん? うん」

「そ、そっか……。すごいな、目がいいのか」


そういうとぶつぶつ何かを呟き始めるミア。


だがミアが兄弟は嫌だが嫁ならウェルカムだ。


将来嫁にもらえるってんなら最高だ。ぐへへへ。


「……」


おっといけない。

ミアはそういうのに敏感だ。

またゴミムシでも見るかのような目を向けられる。

てか向けられてる。ごめんなさい。


「てか、ミアはなんでそんなに魔術に詳しいんだよ」


彼女は俺と二歳くらいしか変わらない。

多分八歳くらいだろう。

なのに彼女は治癒魔術だけでなく、一般魔術にも詳しい。


魔法が得意ならわかるが、彼女は詳しいのだ。

それは教育を受けてないと身につかない。


「昔、いろいろ教えられた」

「だれに?」

「いろんな人に」

「へえ……」


昔っつっても数年前だろう。

ミアはずっとここに住んでいるのだろうか。

そもそもミアの師匠は誰なのだろうか。

ミアが持ってる剣は業物だ。

子どもがやすやすと手に入れられるものじゃない。


それにいろんな人に教わるってのはどういう状況だ?


まあ今はいい。


今はクリスがこいつにとられたらやだなぁ。



————————————————



七歳になった。

ミアと出会って一年くらい経っただろうか。


あれから俺たち家族とミアの交流は増えたように思える。

ミアはおばあちゃんと二人暮らしをしていて、

そのせいか遊んだり、街でお出かけなどの経験がなかった。


だから、いつもミアは昼ご飯を俺たちの家で食べてそれから遊ぶ、と言うのがいつもの流れとなった。

三人でララに魔法を教わったり、庭で剣を合せたり。

そして、ジークがいるときはアルペディア家と一緒に街に出かけたりした。


ミアは不愛想で考えてることがわかりずらいが、俺たちの誘いは断らないし、

俺たち家族と一緒にいても何も気を使わないほどの神経の太さを持ち合わせているから、

なんだかんだ俺たちとの相性は良かったのだろう。



そして話は変わるが、七歳になったときプレゼントをもらった。

ミアからではなく、ジークとララに、だ。


ジークやララの話によると、

毎年誕生日を祝うと言う概念がエルフ族にも魔人族にもないらしい。


なんてったって、エルフも魔人族も長寿だからだ。


魔人族は大体寿命が三百年。

エルフ族は五百年と言われている。


毎年祝ってたらキリがないからな。


だが子供を卒業する証、つまり神様から生き方を質問される『神の問い』に答えたときには、

大きな祝いをするのだと言う。

つまりは十五歳。


ちと子供卒業と言うのは早い気がするがまあいいだろう。


だが、七歳なった、と言うより。

背が伸び筋肉が増えたと言うことで、ジークからは真剣を貰った。

ミアが持ってるほどの業物ではない。

剣一つがどれだけの値段するかなんて分からないが、

きっと高いはずだ。


これからの練習もまだ木刀でやるらしいが、

少しずつ真剣での素振りも増やしていこうとのこと。


ちなみにクリスはララから魔法の杖を貰っていた。

杖と言っても買ったものではなく、

ララの手作りだと言う。

THE魔法使い、って感じの長ーい杖ではなくスティックって感じの

手持ちサイズだ。



そう、時間が過ぎるのは早い。

うかうかしてたらすぐに大人になっちまう。


それに平和が崩れるときっていうのはいつも突然だ。


前世で親父が死んだときもそうだった。

今までが日常だってその時初めて分かるんだ。

そんで日常は、がらっと変わる。


だがもし、そんな時が来て。

俺に力がなければ、前世の二の舞だ。


剣が使えれば職だってもらえる。

強ければ家族を守れる。

頭が良ければ家族を支えることだってできる。


全ては力だ。

力がなくちゃならない。



————————————————



「騎士団に行くか」


そういったのはジークだ。

騎士団は初めて街を出たとき行った以来だ。

剣術を習った今行けば、気づくことも多いかもしれない。

もしかしたらそういう思惑があるのかもしれない。


まあ差し迫ってやることもないし、俺は賛同した。


クリスとララは庭で魔術の練習をしているから、

行くとしたら俺とミアと言うことだろう。


だがミアが誘いを断ったことはない。

なんだかんだ、頷いでついてくる。


今回もそうだろうと思った。


のだが……。


「どう、しよう……」


なぜか渋っている。

なんでだ。あのミアだぞ。

街での食事の時も、奢りで食ってることなんて気にもせず、

次々に注文してたミアだぞ。


なにか事情があるのだろうか。


「どうかした?」

「いや、ちょっと……」


何か考え込んでいるミア。

何が不安だって言うんだ。


「騎士団の人たちの剣術が見れるかもしれないよ?」

「うーん」


剣術と聞いたら食いつくと思ったが、そうでもないらしい。

だが行きたそうにもしている。


「行こうよ、俺はいつもミアとか父さんの剣しか見てないから、

違う人のをみて何か気づくこともあるかもしれない。

ね? 父さん」


俺はジークにウィンクをした。

説得してくれ、って感じだ。


俺も正直ミアと行きたい。剣を今まで一緒に練習してきたんだから、

そういうのは共有したい。


「え? あ、ああ、その通りだアーク。

剣を極めるなら、まずは敵を知ることが重要だ。

つまりは経験だな。

見たことない流派の相手だから負けました、は通用しねえ。

ミアちゃんは強いから、ちょっと他から刺激を受けるだけで伸びるぞ」


たまには使えるなジーク。

いつもは締りが悪くて親父らしくないし、

家に帰って来る時は酒臭いことが多いし、

そのたびにララから怒られているジークだが、

口はまあまあ回る奴だ。


「う、ん、分かった。いく」




————————————————




騎士団ではどうやら隊の中での総当たり戦をしていたようだ。

ジークもそれに参加するみたいで、だから今日俺たちを呼んだのだろう。


騎士団の仕事は町周辺の見回りに、魔獣の被害報告が出れば討伐。

そして、時間があるときはこうして訓練をしているらしい。



騎士団に来たら、予想通り団員のおもちゃにされた。

ミアも見た目だけは可愛いから俺と一緒になっておもちゃになっていた。


その後は訓練場で試合の観戦だ。


得られるものは多かった。

知らない流派、武器、人種。


やはり大人の戦いと言うのは迫力がある。

技は研ぎ澄まされ、力は莫大。


速くて、強くて、うまい。


隣のミアも試合に食いつくように、じっと見ていた。


そして、なんといっても隊長がすごかった。

前来た時に少し話した鬼族の女性だ。


彼女の斬撃はすさまじかった。

洗礼されすぎて、無駄なんて見つけられない。

身のこなしはどっしりと固く、

一振り一振りがすさまじく重い。


いつの間にか目を奪われていた。


いいものを見た。


世界は広い。きっと隊長さんより強い人も世界には山ほどいるのだろう。


そう思うだけでわくわくした。




「こんなところで、アーガイルのガキを見つけられるとは」


ふと耳に入った男のつぶやき。

多分ほかの人には聞こえてない。

俺がエルフで耳がいいからかろうじて聞き取れたのだろう。


俺は声がした方を振り返るが、人が多いから特定ができない。


ガキと言っても、ここに子供は俺とミアしかいない。

アーガイル? 聞いたことがないな。


なんか嫌な予感がする。



——————————



「あなた、すごかった」


一通り模擬戦が終わった後、ミアは鬼族の綺麗な隊長さんに向かってそう言った。

俺も同じ気持ちだ。


だが、マジで神経が太い。

ため口だし、あなた呼び出し。


「そうか」


隊長はそう簡潔に返した。

俺はそっと胸をなで下ろした。

ミアの性格だといつか絶対に問題を起こしかねない。

てか、こいつが一人で生きていけるとも思えない。

将来が心配だ。


「お前、その剣、どこで手に入れた?」


すると、隊長はミアの腰に携えられていた剣を指さして言った。


「もらった」

「誰にだ」

「師匠」


ミアの師匠については聞いたことがない。

そりゃ独学なわけがない。彼女も王真流を基礎としているからだ。

だから師匠がいるのは当然だ。


「リーケインか」

「……何で知ってる」

「腐れ縁だ」


何やら俺の知らない話をしているらしい。

どうやら状況を察するに、ミアの師匠と騎士団の隊長さんは面識があるらしい。


「そっちは、ジークの息子か。また、でかくなったな」

「はい」

「剣術に取り組んでいるそうだな。

ジークが自慢げに言ってたぞ」

「まだまだ未熟です」

「やはりジークには似てないな」


そりゃ似てないだろう。

血はつながってるが、中身は違うからな。


それにしてもこの人めっちゃ胸が出けえ。

褐色の肌にこのボディ。

今は性欲のないガキの俺でも目を奪われてしまうほどだ。


「いや、似てる」

「え?」

「その目、そっくりだ」


おっといけない。

てかジーク大丈夫かよ。



——————————



騎士団を出るときには夕日が沈む寸前だった。

田舎道には当然街灯なんて存在せず、家に着いた時には、

辺りは真っ暗。


田舎の夜は危ない。

魔獣は大体が夜行性だ。

ここら一帯に結界が張ってあるそうだが、危ないもんには変わりがない。


「ミアちゃん、今日は泊まっていったらどうなの?

外もうこんなに真っ暗よ」

「家の人には伝手を送っておくから、安心しなさい」


と言うことでミアが家に泊まることになった。


うきうきどきどきのお泊り会おスタートである。

やったね!



————————————————



「あまり夜更かしするんじゃないぞ」

「はーい」

「じゃあお休みなさい。三人とも」


夕飯をたべ、水を浴び、それで今に至る。

時間はお休みの時間。

大人にとってはこれからが愛とロマンの運動の時間かもしれないが、

俺たちガキにとってはおねんねの時間だ。


普段、俺とクリスは大きめのベッドを二人で使っている。

今は俺、クリス、ミア、の順で川の字になって寝ている。


「ねえねえお姉ちゃん、あの話の続きしてよ。

ほら三大ダンジョンの話」


クリスはやけにウキウキしている。

ミアが居てくれてうれしいのだろう。

確かに気持ちは分かる。


「三大ダンジョン?」

「あんた、そんなことも知らないの?」

「無知でごめんなさいね」


この世界の常識なのだろうか。

てかいつも思うけど俺に対するあたり強い。


それに毎回「あんた」とか「ねえ」とか、

名前で呼ばれた覚えがない。

もっと優しくしてよぉ。


「三大ダンジョンっていうのはね、とっても昔からあるダンジョンなんだよ!」

「そう、未だ攻略されていない大規模ダンジョン。

オース大陸に一つ、ドットバル大陸に二つある」

「ほお」


なんだかワクワクする。

これぞ冒険者が求めるロマンだ。


ダンジョンってアレだろ。

絆で結ばれた仲間と共に潜り。

各階層にモンスターがいて、

目指すはお宝眠る最深層。

立ちはだかるボスに、犠牲を出しながらもなんとか討伐。

そして、宝箱には古代から眠る伝説の武器が……。

みたいなやつだろ。


「三大ダンジョンと言われるのには理由があるの」

「ウキウキっ」


サルみたいにウッキーウッキーしてるクリスだが、確かに興味がある。

将来、ダンジョンにも挑んでみたいし。


「できたのが千年前だと言われているにもかかわらず、攻略したものは一人としていない。

それを聞きつけた、魔王を倒したかの英雄の一人が、世界各国の猛者たちを束ねた。

魔法使いが八人、剣士が五人、僧侶が三人、そして英雄が一人。

満を持して三大ダンジョンの一つ、オース大陸のダンジョンに挑戦した」



「それで……」




「全滅した」




思ってた百倍くらい難易度が高そうだ。

英雄が挑んで全滅したくらいだ。


「あとの二つのダンジョンも似たようなもの。

有名な英雄だったり、王様が挑んで、ダメだった。

それが三大ダンジョン」


聞く限り攻略は不可能に感じてしまう。

だが、話しているミアは、どこか楽しそうに見えた。


「私は、三大ダンジョンを攻略したい」


ミアは、天井に手を伸ばしていった。


「英雄たちが諦めた壁を、乗り越えて見せたい」


これが彼女の夢なんだ。

冒険の先にある、確固たる目標なんだ。


その横顔はカッコいいと思った。

暗闇でも星明りに照らされ、きらきら輝く赤い目はまるでルビーのようであった。


「ねえちゃん、わたしもねえちゃんとダンジョン行きたい」

「強くなったら、いいよ」

「じゃあ強くなる!」


クリスはミアの腕に抱きつく。


「あんたは、どうなの?」

「おれ?」

「そう、他に誰がいるのよ」

「おれか……」


正直、めっちゃわくわくした。


そして、ミアについて行きたいと思った。

彼女なら、成しえるんじゃないか、と思ってしまった。

まだ、多分世界の中では弱い。

俺も弱いし、彼女も弱い。


だけどこれから成長すればいい。


「じゃあ、俺はクリスを守らなくちゃいけないからな。

一緒に行くよ」

「そっか」


ミアは少し嬉しそうだった。

これでも一年、彼女と一緒にいるんだ。

不愛想だが、少しは分かる。


「じゃあ、兄ちゃんと姉ちゃんと私でダンジョンいくの決定ね!

私もこれから魔法頑張るからさ、ふたりも剣頑張ってね」

「わかったよ」


そういって俺はクリスの頭を撫でた。


「ああ、楽しそうだなぁ。冒険したいなぁ。

ほらダンジョンだけじゃなくてさ、いろんなとこも行きたいね!

三人で助け合ってさ」


クリスはきらきら目を輝かせている。


ああ、本当に楽しそうだ。


きっと楽しい事だけじゃない。

喧嘩もするし、悲しいことだってあるかもしれない。


だけど、きっと楽しい。

このいつまでも変わらずに。

そんな楽観的な考えも悪くない。


俺はミアを見た。

彼女の横に立てるような男になりたい。

ヒーローになりたい。


気付けば、クリスがすやすやと寝息を立てていた。


それを見てミアは、本当のお姉ちゃんのように優しく撫でた。


「この子、大事にしなさいよ」


ああ、そんなことはとっくにわかってる。


「命に代えても、守るよ」


俺は誓ったんだ。

大事なものを守るって。


「あんたらしい。

あんたの、剣と同じで、まっすぐだ。

私好きよ。あんたの剣。」


「そりゃどうも」


気恥ずかしいセリフを、さらっという奴だ。

オレじゃなきゃ、今すぐ告ってたね。


ここが暗くてよかった。

俺、そういうの耐性ないんだよな。


「いつか、もう少し私たちが大人になって。

この中立国エアランドなんて抜け出してさ。

危険で、広くて、楽しい()()に行こう」



大陸に行く、という言い方が引っかかった。

だが彼女の顔を見ればどうでも良くなった。




俺は今、再認識した。


俺は大事なものを守りたいんだ。

冒険をしたいんだ。


その果てにまだ、目標はない。


だけど、俺はまっすぐ生きていく。

折れぬ剣みたいに。












———————————



翌朝。




クリスがいなくなった。




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