第一章 3 『志』
あれからジークが剣を教えてくれるようになった。
いうてもまだ俺は三歳だから、そこまでガチってわけじゃないと思っていた。
そもそもジークが家に帰って来るのは二日に一回くらいだし、
騎士団ってのは突然招集がかかることも多いから、丸一日休みってのも少ないらしい。
それに体も全然出来上がっていない。
だから遊び程度に剣を振ってくれたらうれしい、くらいに考えているのかもしれない、と思っていた。
だが、
「俺は今からお前の師匠だ。剣術の稽古の時は敬語を使え」
「はい」
彼も本気で教えてくれる気だ。
目は真剣だった。
確かに区切りは必要だ。
俺はこの人の弟子なのだから。
「剣ていうのは人を傷つける道具だ。それをちゃんと自覚するんだ」
「はい」
「お前くらいのガキの剣だって、人に当てちまえば怪我をする。
目に当たれば失明するし、人だって殺すことができる。
くれぐれも、人には向けるな。わかったな」
「はい」
ジークはまず剣士の心構えを教えてくれた。
「剣には流派ってもんがある。種族は違うし、剣の種類だって違うかもしれない。
大剣に片手剣、とか種類は色々ある。
だが、型の基本は共通している。
ボルト神聖国の神聖流。北のドントブルムにある剣の都の狂剣型。
流派を上げればきりがないが、
すべては一つの型の派生でしかない」
これは本で読んだことがある。
剣の流派の生みの型。
ここ三百年は変わっていない共通認識。
「剣王サルハダットが生み出した、王真流だ」
そう、魔王を倒した四人の勇者の一人。
エルフの大英雄アルデアの師匠が剣王サルハダットだ。
「小さい頃はこの流派を身に着けるのが基本だ。
いわば、剣術の基礎みたいなもんだ。
これなしにはほかの流派は語れねえ。
そんぐらい大事だ。」
俺はいまだにジークの出生いついて深く聞いたことがない。
どこで生まれ、どこで剣を習い、今まででどう生きてきたか。
もちろん冒険の話は聞いた。
だがその前の話は聞いたことがない。
だが彼はそれなりに強いだろう。
師匠として不足はない。
「俺はお前に型を教える。
お前は毎日、それを反復しろ。
体ができていないから、別に強く振ろうとかうまく振らうとか思わなくていい。
まずは剣に触れて、慣れろ。わかったな?」
「はい」
「それで、俺がいる時に稽古つけてやる」
稽古と言うのは剣の打ち合いと言うことだろう。
実戦と素振りじゃ、たぶん全然違うからな。
「そんで、お前に一つ言わなきゃならないことがある。」
「何ですか?」
多分これから言われることが、一番重要なのだろう。
ジークの顔を見たらわかった。
「エルフ族ってのは、普通剣を使わねえ」
確か、エルフ族の大英雄は剣を使っていたはずだが。
「大英雄アルデアさんは剣士ですよね?」
「ああ」
「でもエルフ族の人は剣を使わないんですか?」
「ああ」
なぜだろう。
確かに漫画とかではエルフは魔法使いのイメージが強い。
現にララもエルフと精霊に魔力を貰っていたと言うし、魔法が得意なのだろう。
「エルフ族ってのは、多種族より力がないし体が頑丈じゃないんだ。
近接戦闘では致命的だ。
だが魔力量くて、魔法が使えたからそんな必要なかった。
その代わり、動きは速いがな」
「なるほど」
「だからまあエルフが剣を使う利点なんて少ないんだよ。
大英雄くらいの天才はさておきな」
と考えると、大英雄アルデアがどれほどすごいかがわかる。
力も防御力も他より劣るのに、魔王にとどめを刺したんだ。
そりゃ、化け物みたいな天才だ。
「だが、お前は剣士になると決めた」
「はい」
「まあお前は俺の血が半分入ってるから、どうなるか分からねえが」
だが、なにがともあれ頑張っていこう。
不向きだから、は諦める理由にはならない。
「これからよろしくお願いします」
「おう」
そうして、俺は剣士への第一歩を踏み出した。
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あれから一年が過ぎた。
やはりと言うべきだ。
ジークは強い。
そりゃ、俺の体はもう四歳になったがそれでもガキだ。
勝てるわけがない。
だが、ジークと剣の稽古をするときは、ジークは力を使っていない。
技だけで俺の剣を受け流している。
実際ジークも子供用の、短い木刀で相手をしてくれる。
だが俺がジークに剣を当てることなんてできない。
「ほらほら、そんなんだと魔獣の一匹も倒せねえぞー」
へらへらと煽って来るのがむかつく。
だがむやみに剣を振ったところで、受け流されておしまいだ。
だから、俺は基本に忠実に。
今は勝てなくたっていい。
だからいつか、あのイラつく親父の顔に、
木刀を叩きつけてやりたい。
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別にいっつも剣を振ってるわけじゃない。
今は、ララとクラリスと、庭の草むしりをしていた。
ララは植物が好きらしく、よく庭を手入れしたり、
新しい花を育てたりしている。
「アーク、クリス。
花にはね。精霊が宿るのよ」
「せいれい?」
この世界でたびたび耳にする言葉だ。
ジークも精霊族がどうとか言ってたし、なんなんだろう。
「そう精霊よ。エルフはね、昔は精霊と過ごしてきたの。
精霊に魔力を貰い、精霊を守ってきたのよ」
「俺たちもエルフなんだよね」
「半分はね」
「じゃあ私も、せいれい、仲良くなれる?」
クリスは興味津々だ。
クリスは無邪気でかわいらしい。中身は大人の俺なんかより、ずっとかわいらしい。
「うーん、どうかな。
精霊は好き嫌いがあるから、何とも言えないわね」
「なかよくなりたい!」
クリスは目を輝かせている。
「ね、にいちゃも、なかよくなりたいでしょ」
こんな妹の言うことを聞けない兄がどこにいるかってんだ。
もうちょっと大きくなって、お兄ちゃんと結婚する! とか言っても、
俺はウェルカムだぜ。
いやさすがにやばいか。まあいい。
「もちろんさ」
「ほら、かあさん、せいれいと仲良くなりたい!」
クリスは腕を腕を広げ、目を輝かせている。
これが年相応と言うやつか。
「じゃあ一回会ってみようか」
「え、会えるの?」
「ちょっと待っててね」
精霊と言うと、どこか神的存在だと思っていた。
そう簡単には会えなくて、特殊な鉱石を触媒にして、とかが異世界の常識だと思っていた。
まあ全部ラノベの知識だけど。
すると、ララは地面に魔法陣らしきものを書き始めた。
そんなに簡単に会えるものなんだろうか。
まあいい。会えるものなら会ってみたい。
もしかしたら、精霊に好かれる体質で、あなたは勇者に選ばれた、なんてことがあるかもしれない。
まあないだろうが。
男なら夢も見る。
「この世界の創造主よ。今ここに高貴なる地の精霊を呼びたまえ」
すると、魔法陣がだんだんと色付き始める。
きらきらときれいな光を放っている。
これはなんか来るな、と思った。
魔力がどうとか、そんなのは分からない。
だが、きっと特殊な力が働いている。
「うわぁ……」
クリスは光る魔法陣を目を見開きながら凝視している。
これが魔法か。
すごいな。
「さあ、おいで」
その言葉と同時に、黄緑色やら赤色やらの光の粒子があふれ出す。
「え、なに、なにこれすご」
「きらきらきれい!!」
「あはは、大勢来てくれたわね」
するとその光たちは、俺たちのあたりを浮遊する。
なにか見定めるように、ふよふよ漂っている。
すると、だんだんと俺からは離れ、クリスの方へと集まて行く。
クリスのことの方が好きなんだろうか。
俺は興味なしですかそうですか。
まあ期待なんてしてなかった。
うん、してなかったよ。
「クリスは精霊に好かれてるわね」
「えへへ、そうなの?」
「ええそうよ、精霊たちが興味津々だもの」
まあいい。別に精霊に好かれなくたっていい。
別に羨ましくなんてないんだからね!
「やっぱりクリスは魔法使いの才能があるのかもね」
「ほんと!?」
「精霊に好かれるってことは魔法の親和性が高いってことよ。
あなたは魔法の才能があるかもしれないわ」
「だって、にいちゃ!」
「よかったな」
はしゃぐクリスもかわいい。
クリスが魔法使いか。
きっと魔法使いと言うより小悪魔になりそうだ。
もしこいつと冒険に出るとしたら、俺が剣士で、クリスが魔法使いか。
双子で冒険者っていうのはなんだか憧れる。
命に代えても守りたいな。
「かあさんさん、おれは?
まほう、つかえない?」
「うーん、そうねえ。
今は魔力が少ないけど、『神の問い』を受けるまでまだ何とも言えないわね」
「神の問い?」
聞きなれない単語だ。
宗教的ななにかだろうか。
「ああ、神の問いて言うのはね。アークやクリスが、今よりももっと大きくなって、
十一年後かしら。
生まれたときからちょうど十五年後に神様から質問されるの。
汝、どう生きるか? てね」
「おぉ」
なんだが妙に胡散臭いが、ガチらしい。
そもそも神ってなんだ。前世では無宗教だったし、神様なんて信じてなかった。
だが、この世界では魔法だってあるんだ。
神様くらいいるのかもしれない。
「それに答えたらどうなるの?」
「その答え次第でね、神様からなにかプレゼントされるのよ」
「ぷれぜんと!!」
「そうプレゼントよ。でもね、神様だっていつも優しいわけじゃないわ。
答えが良くなかったら、よくないプレゼントだってされちゃうわ。
それにいい子にしてないと、神様もそっぽ向いてこないかもよ?」
「えー、わたしいいこにする」
ガチャ見たいなもんか。
それで力がもらえることもあれば、不幸に見舞われることもある、て感じか。
それ次第で、人生がガラッと変わるかもしれない。
今は魔力が少ないが、それ次第で魔法も使えるようになるかもしれない。
一世一代の面接みたいなもんか。
でも俺面接苦手なんだよなぁ。
「アークもやっぱり男の子ね。
頭がいいから勘違いしてたわ。
そんなワクワクしちゃって。かわいいわ」
そういうとララは俺たち二人を抱きしめた。
ララはよく俺たちを抱きしめる。
俺はこの温もりが好きだ。においが好きだ。感触が好きだ。
決してエロい意味ではない。
親に発情する奴なんていない。
いやいるかもしれないが俺にそんな趣味はない。
なんというか安心するんだ。
ああ、俺たちは親子なんだな、て分かるから。
「さあ、パパが帰って来るわ。そろそろ家に戻りましょ」
まあ神の問いなんて、十二年後のことを今考えても仕方がない。
今は、今のことを考えるべきだ。
俺は強くならなくちゃ。
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また一年がすぎた。
俺は六歳になった。
あれからだいぶ足腰に肉がついてきたし、背も伸びた。
あそこはまだまだ、ベリーショートだが気にすることはない。
まだガキなんだから。
俺はいつも通り、外で素振りをしていた。
剣が好きだ。
振れば振るほどに研ぎ澄まされていくから。
まだ真剣を触れるような筋肉はない。今振ってるのも短い木刀だ。
だが、分かる。
俺は成長している。
それと分かったこともある。
この世界の生物は、前の世界よりも身体能力が高い。
ジークは余裕で十メートルジャンプできるし、
何の変哲もない剣で岩だって切れる。
本気で走れば、風よりも速く走れる。
これも魔力なのだろうか。
はたまたそういう風に世界ができてるのかもしれない。
俺は今日も庭で剣を振っていた。
型を繰り返しやるのではなく、
ジークと戦うのを想定して、剣を振っている、
型の素振りは午前中に終わらせたからな。
「あちぃ……」
そういえばこっちに来てから、雪と言うものを見た記憶がない。
ここらの地域は振らないのだろうか。
雨は降る。
多分四季もあるが雪をあまり見ない。
てかそんなに寒くならない。
そもそも世界地図ってのを見たことがない。
今俺が住んでいるこの国は中立国エアランドだと言うらしい。
ジークは戦争から最も縁遠い国だとも言った。
この世界はもちろん戦争だって存在する。
今度、世界地図が無いか聞いてみるか。
俺はこの世界について知らなすぎる。
「じぃー……」
そんな姿をクリスはじっと見てることが多い。
クリスの周りには光の粒子がふよふよ舞っている。
本当にクリスは精霊に好かれる体質らしい。
精霊を呼び出して以来、どこから来たかも分からない精霊が、
クリスと接触することがおおくなった。
クリスも慣れたようで、精霊には見向きもしない。
たまに、精霊と何かをしゃべっているが、今はじっとこちらを見ている。
「風邪ひくから、家の中にいていいぞ」
「いい、見てるだけだもん」
クリスは不思議な子だ。
好奇心旺盛で、陽気。
転んだらすぐ泣くし、俺が無視してもすぐ泣く。
俺の後をついて回るし、俺の真似ばっかだ。
まあそれが妹ってもんかもしれない。
だがたまに今みたいに無表情になることがある。
まあいつだって可愛いからいいか。
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かれこれ一時間ほどの素振りを終え、俺はクリスの横に腰を掛けた。
辺りは夕日色に染まった穂がきれいに輝いてる。
「兄ちゃんは剣士になるの?」
「なりたいな」
前までは「にいちゃ」と読んでくれていたが、
いつの間に「兄ちゃん」に変わってしまったようだ。
このままの勢いだと、十歳くらいには「兄さん」になって、
反抗期が来て「バカ」にクラスアップしてしまうかもしれない。
クリスが反抗期とか想像が出来ないが、嫌われたくは無いな。
だが、クリスも五歳になったこともあって、
たまにこうやって、落ち着いた雰囲気を感じさせるようになった。
「冒険したいの?」
「したいな」
クリスが何を考えてるかなんて、もう五年も一緒にいれば分かるもんだと思っていた。
だが、分からないことのほうが多い。
俺の中では、ただのかわいい妹だ。
「私もね、冒険したい。
父さんみたいにダンジョンに行ったり、世界を旅したい」
クリスは好奇心旺盛だからな。
俺よりも冒険したい欲は強いのかもしれない。
「兄ちゃんみたいに剣を振りたいとかは思わないけど、
私は魔法使いになりたい」
俺の真似ばっかだったクリスが、自分のしたいことを言った。
これは珍しいことだ。
まあクリスは魔法使いになれるだろう。
精霊にもあんなに好かれてるし、才能があるのだろう。
「でもね、外が怖いの。
なんかね、怖いものがいっぱいいそうで怖いの」
そういえばクリスはあまり外に出ない。
外と言うのは家の敷地の外のことだ。
家族で街に行くことはたびたびある。
だが、クリスはいつも乗り気じゃない。
ずっとジークにおんぶされたままだった。
「なんでそう思うんだ?」
「わかんない」
そうか、わかんないか。
まあ仕方ないだろう。
俺と違って、彼女は身も心も五歳だ。知らないものを怖がって当たり前だ。
俺はそんなクリスの頭をなでる。
さらさらのきれいな金髪だ。
俺の髪はなぜか真っ白だが、この子の髪はララににて綺麗だ。
「にいちゃん?」
「クリスは大丈夫。
父さんはほんとに強いし、母さんだってああ見えて、
多分結構強い。
母さんが言うにはここら辺には魔獣がいないっていうし。
それに、いつも兄ちゃんがいるだろ」
クリスのきれいな青い瞳には涙がたまっていた。
クリスはよく泣く。
年相応にぴーすか泣く。
痛かったら泣くし、腹が立っても泣く。
だが今は、なにかに怯えるように泣いている。
いや堪えている。
「わたしね、精霊さんから聞いちゃったの。
私たちは、神様から嫌われてるって。
お母さんとお父さんが神様との約束を破ったって」
そんな話聞いたことがない。
少なくともジークはしていなかった。
いや、いつか言ってたな。「俺のこどもだから、苦労するかもしれない」って。
事情はあまり分からない。
それがほんとかどうかも定かではない。
いつか時が来たら、ジークとララの口からきけることだろう。
ジークとララが犯罪を犯すようには見えない。
いや決してない。
俺は二人が信じている。
「母さんに、あんまり精霊とは話するなって言われてなかったか?」
そう、クリスが精霊と接触するようになってから、
ララがそう諭していたのを思い出した。
「うん、でもね。
話し声とか聞こえちゃうの。聞きたくなくても聞こえちゃうの」
そりゃ、しょうがない。
俺には精霊の話し声なんか聞こえないが、
才能があったら聞こえるのかもしれない。
だが、こんな怖がる妹を安心させられなくて、何が兄だ。
「大丈夫だよ。
もしそれが本当で、俺たち二人がみんなから嫌われたとしても、
お前には兄ちゃんがいる。
俺はクリスを嫌ったりしないよ」
「ぜったい?」
「ああ、約束する」
ああ、かわいいな。
この子は絶対に守ろう。
するとクリスはゴシゴシ涙を拭い、
いつもの元気な表情に戻った。
「じゃあさ、大きくなったらにいちゃんと冒険していい?」
「もちろん」
冒険、したいな。
別に冒険の先に目標があるわけではない。
だがきっと楽しいだろう。
そんな楽観的な感情だ。
クリスとなら、きっと楽しいだろう。
俺とクリスには同年代の友達がいない。
いや友達がいない。
ここらにはそれなりに人も住んでるし、子どもだっている。
だがクリスが外に出たがらないこともあり、
他の子どもと遊んだことがない。
だから、クリスは妹であり、
友達なのだ。
だからきっと楽しいだろう。
「足でまといになったり、
また泣いちゃうかもだけどいい?」
「もちろん、俺の袖でも貸してやる」
「にいちゃんに好きな人ができてもわたし、いていい?」
「もちろん……ってなんだ、そんなこと心配してんのか?」
「えへへ」
クリスは笑った。
彼女が何を思っているか分からない。
精神年齢なんてかけ離れている。
俺にとっちゃガキも同然だ。
だが、体と心ってのは不思議なもんで、
心が体に寄って来る。
そう、このごろ強く実感している。
つまりは俺もガキってことだ。
「じゃあさ、いつかさドットバル大陸に行きたい。
そこで、冒険者になって、兄ちゃんとダンジョンに潜ってね、
五大神剣を探して、兄ちゃんにプレゼントしてあげるね。」
「それはまた、お返しに困りそうなプレゼントだな」
彼女は目を輝かせながら話していた。
ああ、この子を守ろう。
絶対に守ろう。
相手が人だろうと魔獣だろうと、
神だろうと。
そんで、強くなろう。
「じゃあ、明日は家の外に行ってみるか?」
「え?」
「街じゃなくてさ、ほらあっちにも家がちらほらあるだろ?
俺も行ったことないんだよね。」
「で、でも…………」
予想はしていたが乗り気ではないか。
前にこそっと耳に入ったが、ララは俺たちが同年代の友達と遊ばないことを心配していた。
何度か家の外で遊んでみてはと提案されることがあった。
敷地の外も森に入らなければ安全だと言っていたし、
俺もここら辺に興味がある。
「ほら、森に入んなければ安全だって母さん言ってただろ?
それに、将来冒険するってんなら、第一歩としてここら辺を探検しよう」
「う、うーん……」
クリスは悩んでいた。
きっと怖いのだろう。
だが、興味だってあるみたいだ。
あと一押しか。
「もし怖い子とかいたら俺が守ってやるからさ。
ほらこの頃、ここの塀だってジャンプできるようになったんだよ」
そう言ってぴょんぴょんして見せた。
実際、本気でジャンプすれば自分の背の二倍くらいならジャンプできる。
それに本気で木刀を振れば岩はムリでも、生き物くらいだったら切れるだろう。
「うん……わかった!
兄ちゃんがいるなら、わたしいく!」
「了解。じゃあ明日いこう」
そうして、とうとうクリスを敷地の外に連れ出してやることができそうだ。
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