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第一章 1 『誕生』

目が覚めた。


ひどい倦怠感と、新鮮な肌感覚。目覚めとしてはいまいちだ。

それにしても俺は何をやっていたんだっけ。

見慣れない天井に匂い。


どこだここは。


「***!!」


すると甲高い叫び声と共に、視界に女性の顔が入り込む。

えらい美人で、俺を見るや否や、わなわなと肩を震わせ、抱きしめてきた。

耳元で、何度も何度もささやいているが何処の言語か分からない。


「*****!?」


そして、ドアが乱暴に開けられる音と共に、入ってきたのは筋肉質なナイスガイ。


ありえない者を見たかのような目で、一度立ち止まり、

我に返ったのか美人な女性を急いで抱きしめた。


それにしても、美人の女性には見たこともない特徴があった。


単に女性経験の薄い俺がこんな美人見たことない、とか思ってるわけでわない。


それは身体的な特異性だ。


彼女の耳は、とがっていたのだ。


長くしなやかに伸び、鼻をすするたびにひくひく動いている。


実に美しい。

こんな人と前世で出会ってたなら一目惚れで、即告ってたな。


漫画やアニメで出てくる、俗にいうエルフにそっくりだ。

胸もちっさいしな。


男の耳は普通だ。

こっちは人間だろうか。


「*****」


二人は俺を宝物のように抱き抱えた。


男のゴツゴツした手の感触を頬に感じ、

女の柔らかな声音が聞こえる。


彼女らが俺に向けている感情は、

今まで俺が持ち合わせていなかったものだろう。


母から向けられ続けていることには気づいていたが、

無駄な意地が邪魔をしていたんだ。


この光景を見てそして、俺は気づいた。


ここはどこだ?なんてもう聞かない。


二人の嬉しそうな泣き顔と、見たこともない種族。



ああそうだ。

思い出した。



俺は死んだんだ。



夢の可能性もある。

が、感覚が鮮明すぎる。


そんで、この状況から察するに、


生まれ変わったのか。


俺は生まれ変われたのか。



—————————



それから一か月が過ぎた。


大体の状況は把握できた。

まず、俺は耳の長い美人な母親と、マッチョなナイスガイの間に生まれた子供だ。



そんで、どうやら。

というより、やはりここは異世界だ。


家を見渡すと、電気が通っている様子はない。


そして、めちゃめちゃびびったが、

俺の母が暖炉に火をともす際、指パッチンで火をつけていた。


いや、指パッチンで指先にともった火に、息を吹きかけて巻きに飛ばしていたのだ。


魔法だ。魔法があるんだ。


試しに俺も、指パッチンしてみたが、

案の定何も出なかった。

加えて、頭の中で厨二臭いセリフ吐きながら、

ファイアーボールとか、言ってみたけどなんも起きなかった。

まあまだガキだししょうがないか。


ここは異世界だ。

確実に俺は生まれ変わったのだ。


それが理解できたら、次の疑問が浮かぶ。



なんで俺は転生できたのか。



俺だけが特別なんてことはないだろう。


俺は別に、前世でもいい人間とは言えなかった。

だから俺だけが人生をやり直す機会を得るのはおかしい。


もしかしたら、この世界では転生が珍しい事ではないのかもしれない。


だが今考えてもわかることはなかった。

口もままならない状態だし、言語だってさっぱりわからん。


今できること言えば、美人のママにおんぶに抱っこされ、あーんしてもらうくらいだ。

ハイハイだってままならなし、しょんべんだって垂らしっぱなしだ。



「あうー」



断じて俺の声ではない。

前世ではちょうど十八だった。そんな男がどうして、

いかにも赤ちゃんが発しそうな腑抜けた声を出せようか。

いやクズみたいな俺にはお似合いだが、まあ違う。


今は舌が回らないし、話そうとするとこういう声が出てしまうが、俺ではない。


「うーうー」


俺の隣にもう一人の赤ん坊がいる。

耳は母ほどではないがそれなりに長く、まだ頭の毛が生えそろってない。


前世では子供は好きな方だった。


別にエロい感じの意味ではなく、愛嬌があり可愛いと言うことだ。

だんじてロリコンではない。


思えば、赤ちゃんと言うのは泣くもので、実際に隣に寝てるこいつは

起きたら泣き、腹が減ったら泣き、俺の顔を見ても泣き、イライラしても泣き、してなくても泣いた。


「うーうー」

「うぁ、うーっ!」


そいつはこちらを見たかと思うとおぼつかない手で顔をべたべた触ってきた。


やめろマジで。さっきその手口に入れてただろ!

ベトベトしてるし最悪。


たまにこうやってじゃれてくるが、うっとうしい。


自分の妹だからだろう。

可愛いと思うが、発情はしない。

てかこんな赤ん坊に発情しちゃやべえだろ。


そう、俺はどうやら双子だったらしい。

そんで俺は多分お兄ちゃんだ。


双子の妹を持つお兄ちゃんだ。


将来は尊敬されるような、お兄ちゃんを目指そう。



———————————————



あっという間に一年が過ぎた。


ハイハイは卒業し、走ることはできないがある程度歩けるようになった。


「おーい、アークにクリスどこいったー?」


そうそう、俺の名前はアークハルト。なかなかかっちょいい名前で、

どうやら父の種族と親和性の高い名前らしい。

日本で言う太郎君やアメリカで言うオリビアちゃんみたいなもんだ。


俺はおぼつかない脚で、階段を上っていく。


この家は二階建てで、リビングが一階。

寝室や物置が二階にある。

主に木製で建築されており、虫が多いのがたまにきずだが、

それ以外は年季の入った良い家だと思う。



「にーちゃ、まって」



そんで毎日毎日俺の後ろをついて回るのが、妹のクラリス。通称クリス。

白髪に近い金髪に綺麗な青色の瞳。

顔立ちは母に似たのか、きっと将来は美人になる。


俺の真似っ子ピーナッツで、何でもかんでも俺の真似。

まあ可愛いからいいだろう。


しかし、そんなことはどうでもいい。

俺はクリスの言葉を聞き、少しだけ足を緩めて階段を上る。


目指すは屋根裏部屋。


物置部屋から上ることができる。


俺のお気に入りの場所だ。

埃臭いし、薄暗い。

しかし、そんなことはどうでもいい。


俺はクリストともに、屋根裏部屋に入り、

そして、窓を開ける。


「すっげぇ…………これが、いせかい!!」

「にいちゃ、よくわかんない」


窓の外に広がるのは、目を疑うような絶景。


この家は丘の上にあり、この場所からだと、

街の全体像が見える。


東京タワーなんて比較にならないほど巨大な大樹が一本聳え立ち、

それを中心として、石造りの建造物やらが密集している。

街の中心には言ったことがないが、今度頼んでみよう。

もしかしたら、活気あふれる市場や、冒険者ギルドなんてものがあるかもしれない。

いや、別になくたっていい。

一度あそこから、あの大樹を見上げてみたい。


本当にここは異世界なんだ。

そう納得できる光景だ。


「クリスは、すきなこと、ないの?」

「みーとぱい」

「ほかには?」

「にーちゃ」


そうかそうか、俺が好きか。

こんな素直な妹、俺も大好きだぜ。

まあ中身はクズの大人なんだけどな。


————————————————


「今から、三百年前。この世界には一人の魔王がいました。その魔王は———」


母が本を広げ、その両脇に俺とクリス。

暇なときはこうして、母が本を読んでくれる。


そうだ、ここで家族の紹介をしよう。

今本を読んでくれてるのが、母親のララ。金髪に金眼。長耳。エルフ族の母ちゃんです。

そして、今家にはいないが、父親のジーク。

筋肉マッチョと碧眼が特徴のダンディ。

そして、妹のクラリスに俺、アークハルト。


計四人家族だ。


今ララが読んでいる本は、多分昔話か伝記かもしれない。


こうして本を読み聞かせてくれることは多いが、この話は初めてだ。


「———世界の危機。そこで現れたのが四人の英雄でした。

一人は誰にも扱えない大剣を振りかざし、

一人は世界を覆す大魔術を使い、

一人は天使ですら畏怖する神の祈りを使いました。」


ああ、こういう話は大好きだ。

憧れる。


「今日はここまでに、しよっか」

「母さん、つづきは?」

「わたしも!」


こんな中途半端な終わり方だったら、寝たくても寝れない。

ララは少し微笑み俺たちの頭を優しく撫でた。


前世ではこういうことがあっただろうか。

母さんの愛情に自覚できていただろうか。


いや自覚はしていた。

でもきっとそれがうっとおしくて。

子ども扱いなんてしてほしくないなんて、クソみたいな意地があったんだ。


もう俺は、大切な人を、俺を愛してくれる人を無下になんてしない。


だから、頭を撫でられるその感触が、とても温かかった。


「しょうがないわね、アークは男の子だから好きなんだね、

こういうお話」

「うん、ぼうけん、とか勇者、とかだいすき」

「わたしも、すき!」

「クリスはお兄ちゃんの真似がすきだね。

そっか、アークは冒険者になるのかもね」

「ぼう、けんしゃ?」


やはり、と思った。

この世界には冒険者なんて言う、男だったら一度は妄想するワードが存在するのだ。


「そう、冒険者。パパはここに来る前までは冒険者だったのよ。

それがまたかっこよくてね、母さんも惚れちゃったってわけ」

「パパ、カッコいい!」


いつかを思い出すように、頬に手を当てにやにやしているララ。


「ああ、冒険者はね、ダンジョンに潜って魔獣を倒したり、お宝を探したり。

ダンジョンに潜らなくたっていいわ。

ここよりもっと北のドットバル大陸にはね。

こことは比べ物にならないくらい強くて、たくさんの魔獣がいるの。

そこで世界のどこかにあるとされる神の宝を探したっていい。

力試しに龍と戦ったっていい。


そんな、人たちのことよ」



胸が高鳴るのを感じる。


こんなに興奮したのはいつぶりだろうか。


思えば、大きくなるにつれて、生きることへの新鮮味がなくなって言った気がする。




ララはやれやれと閉じた本を開き、続けた。


「四人の英雄の最後の一人。

大英雄アルデア。天界の女神と下界に生きる長耳族との子供。


曰く、彼は長耳族でありながら剣士であった。

曰く、彼はこの世に四本しかない神剣の一つを腰に携えていた。

曰く、剣技で彼に勝るものは未来永劫、一人として存在しないだろうとまで言われた。

曰く、師匠は剣王サルハダットであった。


曰く、魔王を穿った最後の一撃は、彼の剣戟であった。」


「ぁ…………」


ああ、これだ。


これが聴きたかった。


こんな話を待ち望んでたんだ。


この世界にはやはり存在する。

魔法と言う概念があるなら当然だ。


魔法があり、冒険者があいて、そして戦いがある。




ここは剣と魔法の異世界なんだ。



ここでなら、剣士になれるかもしれない。


ここでなら、憧れたヒーローになれるかもしれない。


大事な人を守り、そして悪を穿つ。


あのラノベ主人公のようなチートなんてなくていい。


楽していきたいだなんて思わない。


試練だらけの人生だっていい。


理不尽だらけの人生だっていい。


後悔もするだろう。


苦労もすると思う。


死ぬ思いだって山ほどするかもしれない。




だけど、それでも前を向いて突き進む。



そんな、ヒーローになりたい。



だから、俺は本気で生きよう。

努力して、挫折して、また努力する。


そうやって、死んだときに後悔しないように生きよう。




俺は決めた。


俺は、一本の折れぬ剣のように、


強くなる。



そんで、生きてく。


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