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第一章 章末 『クラリスの意思』


できの悪い妹なのだろう。

アークハルトという恐ろしくできのいい双子の兄を持ったからか、その自覚は早いうちに芽生えていた。


兄は頭がよかった。

八歳くらいになると学校という同年代の少年少女を集め、文字や算術、そして歴史や剣術、魔術などを学ぶ施設に通うことになるのだが、兄はすでに文字が読め算術も得意であった。


それもそのはず。

兄は小さなころからあらゆるものに興味を持ち、よく本を一緒に読んだものだ。

兄は黙々と本を読み、クラリスはそれを真似ていた。

書いてあることなどさっぱりわからなかったが、クラリスはその時間が好きだった。


兄と同じことをしているだけで、何かが満たされる気持ちだった。



兄は剣術が得意であった。

ジークから剣術を学び、その齢にしてはかなりの腕らしい。

ジークはしばしば兄をほめていた。あいつには、才能がある。あいつは強くなる。

そうララに自慢げに語っていた。


クラリスも剣を握ってみたが、あれを振り続けることに面白さを見いだせなかった。

マメがつぶれるのは痛いし、木の棒で殴られるのはもっと痛い。


確かに、カッコいいとは思った。

だが、それを差し置いても苦痛の方が大きい気がする。


しかし、兄は剣を振り続けた。

毎日剣を振っていた。

手はマメがつぶれてはできるの繰り返しで黒く、硬く変色し、いつも包帯を巻いていた。


クラリスには理解できなかった。

兄のその執念が。

異常であるとも思った。


しかし、兄は楽しそうだった。


だから、クラリスはその姿がカッコいいと思った。

ずっと彼の姿を見ていたいと思った。



兄は優しかった。

いつもクラリスが後を追い、そして事あるごとに真似しても嫌な顔せずに、頭をなでてくれた。

その頭から伝わる手の硬さと温かさが、この上なく好きだった。


わがまま言っても、駄々こねて泣いても、理不尽に強く当たっても。


兄は困ったように眉を下げ、そしていつもあちらから謝るのだ。


好きだったのだ。いや今も大好きなのだ。


好きで、いとおしくて、尊敬していて、憧れていて。


———私は本当に、兄ちゃんの妹なんだろうか


その不安が込み上げてきたのは、いつからだっただろう。


何一つ兄に及ばない自分。

自分には兄が必要で、兄には自分が必要ではないのではないか。


だから、不安だった。



しかし、その不安は、薄れた。



ミアとの出会いである。


ミアは年上で、兄より強かった。


兄といつも言い争いをしては、兄が激昂するのがいつもの流れだった。

いや激昂と言っても表面上だけだった。

二人はそのやり取りを楽しんでいるように見えるからだ。


ミアと出会い、兄の知らない顔を知った。

剣が好きで、優しくて、優秀で、要領がいい兄から、

ただただ夢に向かう一人の少年へと認識が変わった。


兄を負かすミアをお姉ちゃんと慕い、兄が負けると言う事実にどこか安心する自分がいた。



加えて、救いはもう一つあった。


クラリスには魔法が使えた。

()()使()()()()、魔法が、使えた。

嬉しかった。

この、胸から湧き上がるような熱は、うれしい以外の何物でもなかった。


だから、私は魔法を頑張った。

兄が剣を振っているときに、魔法を勉強した。


精霊とも仲良くなって、ララからは才能があると太鼓判を押された。


精霊はことあるごとに余計なことを言ってくるが、無視するようにした。


神に望まれてないだの、試練がやって来るだの。


だが、そんなこと兄がいれば大丈夫だと思えた。


「私、魔法使いになるね!」


「ああ、クリスにぴったりだ」


「えへへ」


このままだったら大丈夫だ。

自分には魔法があり、そして、兄は完璧じゃない。


自分にだって、ついて行ける。




だがその淡い希望は、少しずつほころび始める。




不運なことに、ミアと兄の目指す先が同じであるように見えたのだ。


とても、自分が追いつけないような高い場所。

そんな彼方を目指しているように思えたのだ。


兄は、自分では気づいていないかもしれない。

自分自身が何を求め、目指しているか。


だがクラリスにはわかった。


————兄ちゃんは、冒険したいの?


————ああ、したい


もしかしてもしかしてもしかして。


未来を見る兄の目には、自分はいないのではないか。


兄が憧れる未来で、兄の隣に立つのは自分ではなく、白髪の少女なのではないか。


不安で不安で、でも好きで。


怖くて怖くて、でも楽しくて。


走って走って、でも届かなくて。


考えて考えて、でも分からなくて。


願っても願っても、不安は消えなくて。



でも好きで好きで、どこまでも大好きだ。



———じゃあ、兄ちゃんと姉ちゃんと私でダンジョン行くの決定ね!!



あの夜、愚かなことをした。


身勝手なことをした。


だが兄たちは了承してくれた。だから安心した。


将来、兄の隣に立つのは自分でなくていい。

兄の後ろにいられればそれでいい。


そう思えた。


なぜだろうか。


決まってる。



今が、()()()()()()()()()()()()()()()



このなんでもない夜に、隣に兄がいる。今日はミアだっている。


両側から感じる温もりには、もうすべてどうでもよくなるような安心感があった。


兄は自分とは比べ物にならないほどに努力している。

だから追いつけなくて当然だ。


ミアはすごい人だ。

剣術だけじゃなく、魔術だってできる。


だから兄の隣にいて当然だ。


だけど、その二人は自分を間においてくれた。


自分を守ってくれる。


だから大丈夫。

これからも大丈夫。何があっても二人が居れば大丈夫。


———()()()()()()()()()()()()()()()




『禁忌破りの娘よ。選ぶがいい』




その夜、ふとダレカノ声で目が覚めた。


両隣のミアと兄はすうすうと寝息を立てている。


『繰り返す未来か、一度だけの人生か。兄か、己か。神は望んでおられる。選ぶがいい』


「何言って……」


いつもの精霊の戯言だと思ったがそうではない。

辺りには精霊がいなかったから、この声はいつもの声ではない。


『禁忌破りの娘よ。このままでは試練に耐えきれず汝ら兄弟は後悔する。

であるなら、悪いことは言わん。汝を差し出せ。兄ではなく汝である。

神は望んでいる。試練に抗う姿を。

だが、我は見とうない。汝らが絶叫の果て、血の涙を流す姿など』


「な、なにそれ……」


『分からぬなら良い。()()()()()()


すると突如として視界が真っ暗になった。

いや、からだから意識が飛び出し、そしてあたりが夢魔ぐるしく姿を変える。


これは夢のようで夢ではなく。


幻のようで、現実であった。


『過去と現在と未来。それらの大きさは等しくない。

どこまでも膨れ上がる未来を見るがいい』


その言葉と共に、意識は彼方へと飛ばされた。



——————




一人の男がいた。


煌めきを放つ鎧にまとわれ、あらゆるところにどす黒い血がこびりついている。


あたりは死体の山。


静寂に包まれた戦場は、もはや墓場に等しかった。


男はゆっくりと、自分がしでかした末路を心に刻み、甲冑を外した。


どこか見覚えのある顔であった。

髪は白髪、青色の瞳を持っていた。世界で最も慕うあの人に似ていた。


だが、齢はすでに紛れもない大人であった。

顎に生える髭と、窪んで染み付いたくまは、彼の苦労を表していた。


男は剣を手放し、ひざまずく。

目の前には女性が倒れていた。


胸から下がなくなり、内臓が無惨にもはみ出している。

血に染った髪と、垣間見える紅の瞳。

青紫に変色した唇が、微かに揺れた。


「俺は何度、お前を殺せばいいんだ……」


男はその女を抱えて、唇を震わせた。

かたかたと肩を震わし、固く瞑った瞳から流れた涙は頬を伝った。


「……も、う……やめ、て……いいん……だ、よぉ」


女の口から零れた言葉は掠れていたが、紛れもない愛情に満ちていた。

男は再び女を抱いた。


「どうして、なにも変わらないんだ?」


冷めていく体温を離さまいと男は強く抱きしめる。


「これが運命の強制力というのか?

俺が振るサイコロは、全て同じ目なのか?」


頭をよぎるのは、あの時の記憶。

平和で、穏やかで、希望に満ちていた。

あの田舎での、あの暮らし。


男は強く唇をかんだ。


「な、何度、なんどっ……こんなことになるなら……

俺は、あの時ッ!! あの時、クリスを止めなければッ!!」


男は唇を噛みちぎり、怒りに瞳を染めていた。


すると、再び、意識は遥か彼方へと飛ばされる。



——————




「———ッ!! なに、これっ……」


過呼吸のように息をきらすクラリス。


記憶にあるは、悪夢に等しかった。


しかし、分かるのだ。

これが悪夢では無いことを。

もっとおぞましいなにかであることを。


クラリスは、隣で眠る兄を見た。


「にぃ、ちゃんっ……」


恐怖で体が凍てつくのを感じる。


もうあんなものは見たくない。


『枝分かれる未来を見るがいい』


「ぇ……っ!」


そして再び意識は飛ばされる。



——————




女がいた。


白髪の女であった。

その瞳は、片方が赤色、もう片方を眼帯で覆っていた。


一瞬別人かと思えたその人は、紛れもないあの少女の未来の姿であった。


しかし、その目はひどく歪んでいた。


「あんたが、とっとと死んでればこうはならなかった。

それが今まで私たちが探し求めた問いに対する、答えだったんだ」


「その通りだぜ。お嬢」


女の背後には黒装束の不気味な男と、そして赤色の髪を持つ男が一人。


城と思われるその場所で、石畳の床に男は跪いていた。

空には無慈悲にも、流星が煌めいていた。


女は目の前に佇む瀕死の男に目を向ける。


甲冑からは血があふれ出し、喉が切れているのか、かひゅかひゅと音がしている。


そして女は男の首に剣を当てる。


「さがして、助け合って、目指して、くじけて、また立ち上がって。

でも、私たちの今までに意味はなくて、あんたの夢は偽物だったと言うのね」


女は男を見下ろした。

その瞳は、すでに感情を失っていた。


「こんな終わり方だなんてね。

あの言葉すらも、嘘だと言うの———アーク」


否、その瞳は、己の感情を推し殺そうとしていたのだ。

揺れる紅に、次第に涙が溢れる。


しかし、女の表情はひとつも変わらず無感情であった。


その面は異常であった。


「私の夢も、あなたに向けた感情も。全ては一方通行だったのね」


そして剣で男の首をはねた。


——————



『ただ、理解、するがいい』



——————




男と女がいた。


倒れる男を女が抱えている。


二人はすごく似通っていた。

その表情だったり、顔立ちが似ていたのである。

およそ兄弟か双子であるのは間違いない。


「もう、終わろうよ。ね? 兄さん」


女は瀕死の男に微笑む。


「私たちはね、間違えちゃったんだよ。あの時がすべてだったんだよ。

あの選択がすべてだったんだよ。

だからさ、次があるならさ、間違いないように祈ろうよ。こうやって私たちが選んだ選択が間違いだって、分かっただけでさ。いいでしょぉ……?」


男は泣きそうな女の頬に手を伸ばし優しく撫でた。


「約束、守れなくてごめんな」


「そんなことっ……そんなっ、こと、言わないでよぉ……」


女は男の手に頬を擦り寄せた。

ずっとこのまま離れたくない。


このままずっと。


男はそれを見あげて、乾いた笑みを浮かべた。


「みんなごめんな。

サルハダットもルードウェイもカルレラも、俺に期待したのが間違いだったんだよ」


男の声は震えていた。

堪えきれずに、押しつぶされそうに震えていた。


顔は笑っているが、声には壮絶な感情が現れていた。


すると、女は男の唇を奪った。


彼一人に背負わせるには重すぎた。

彼を理解できるのは私しかいない、と。


男は驚いていた。

女の行動が示す感情に驚いていた。

しかし、諦めたように目をつぶった。


長い静寂であった。

先がないと、迫る余命をただ紛らわすような行為であった。


そして、女はしばしの後唇を離した。


「後悔、してるの……?」


この惨状が、全ての答えを語っていた。


「あぁ……」


諦めたような、それでいて、どこか星を想うようなそんな返事だった。


「なにかしてなきゃ頭にチラつくんだ。

あの幻想国での暮らしとか、ラルートリアルのダンジョン攻略とか。

楽しかったんだ。心地よかったんだ。守りたいって心から思ったんだ。あそこが俺の居場所だったんだ。

どうして当たり前だなんて思ってたんだろうか。

この世界には無限の可能性があって、だから俺も前を向けたんだ」


女は溢れる涙を拭って、男に笑顔を見せた。


「兄さん、もういいよ。兄さんは、誰よりも頑張ったんだから」


「俺は、頑張れたのか?」


男の成した事を、誰が否定できるだろうか。


「うん。この世の全ての人が兄さんを恨んで憎んでも、私は。私だけは愛してるから」


男は涙した。

それは自然に伝うものだった。


今までこらえ続けてものを、吐き出した。


そう言って、二人は抱きしめ合った。


その途端世界は、光に包まれた。



——————



『馳せるがいい』



——————




灰色の世界であった。

その光景は世界の終末と呼ぶに容易く、街はすべて灰と化した。


大気は灰で埋め尽くされ、あたり一面灰色であった。


「もうあなた様の教えを乞うことは、

できないのですね———剣王様」


男は片手で大剣を握り、そして空を見上げた。


「これが間違いと言わずしてなんというのでしょうか……」


男は悔しそうに眼をつぶった。

そのかしこまった口調を向ける者はもう居ない。


すると上空から一匹の龍が舞い降りた。


白く輝く神秘的な肌と、青い瞳。


それは紛うことなき龍であった。


「ここで、いやこれで終わりにしましょう。もう、この世界は終わりに等しいですがね」


龍に向かい男は剣を向けた。


その剣にはただならぬ力が込められていた。


目の前の龍を一撃で屠らんとする力である。


「時代遅れの英雄よ。お前は力ばかりの能無しであったようだ」


「耳が痛い話です」


男は苦笑いした。


そして、息を吐き、相手を見据える。


「終わらせてみよ。終わった世界の終わりを」


そして男は剣を振りかざした。


——————



『思い知るがいい』



——————




それは絶景であった。


辺り一面を水が埋めつくし、人間が築き上げた都市も、文明も、全ては水の中に沈んでしまった。


見渡せども見渡せども、広がるのは水平線。


一人の少女は、辛うじて水面に顔を出している塔の先端に腰をかけた。


傍らに、愛した者の剣を置いて。


「これが、アークが成した世界、なの?」


もはやその問いに答える者はいなかった。


「これが、君たちが笑顔で望んだ未来、なの?」


少女は背から生える翼をしゅんと下げた。


よく見ると頬から首にかけて、鱗が浮き出ている。もはや、それは人間とは呼べない姿であった。


「この日の出をみんなで見ようって、約束したのに……」


あの笑顔も、そしてその笑顔を向けられていたもの達も、もうここには居ないのだ。


「だったらさ……だっ、たら……意味が、ない」


少女は日の出に手を伸ばし、目を細めた。


「ルードウェイ。君は、間違えた。

この重荷を、神のお遊びを、彼らに背負わせるべきじゃなかった」


少女は伸ばした手を力なく下ろした。


そして、傍らの剣を大事そうに抱きしめた。


「今なら言える。アーク。私はさ———」


そこから紡がれる愛の言葉は独り言に過ぎなかった。


言葉を向ける相手がいないのであれば、それは独り言に違いなかった。


少女は一人、孤独の世界で、涙を流した。



————————




———後悔、しているんだよ。未来なんてどっちでも良かった。私はただ、こんな私でもなにか役に立てるならって、そう思っただけなんだ。


(……)


———今まで、ずっと正解を歩んできたと思ってた。だけど、振り返ってみれば、それはただの、紛うことなき人殺しだったんだ。


(そんな顔みたくないっ……)


———当然なの。報いなの。アークハルトは英雄なんかじゃないの。アルデラではないの。だから、手放すことしか出来なかったの。


(こんなっ……)


———何千と繰り返すことはできるのに……どうしてあの時には戻れないんだぁ……。


(……っ)


———凡人が力を手にしちまった。それが、この狂った世界、間違った世界で、唯一誤ることのない間違いなんだ。


———姐さん!! あんたを殺せば世界は変わるって言うんですか? ちげえですよおお!!

———ぁ…………ぃしてるぅ。

(い………やあ)

———なんで、なんでなんでんあんでなんdねんdんえんnああああああ!!!!!

(やめてぇ………)

———これでお前たちの都合通りか?! 答えろよ、魔女があ!!(もうっ………)

———俺が全部、引き受けるから。試練も罰も、怨念も全部。だからもう、いいだろ? マルティネ(許して……)

———あたいの商売もこれで終わりではりますかぁ。こんなもんですかぁ。人生ってもんわぁ(いやああ……)

———この痛みが愛だっていうのなら、僕はこの痛みで打った剣を、丸飲みにしてみせる(やぁあ……)

———あの空に羽ばたく大陸で、あなたが話した夢を、共に叶えたかっただけなんだ…(やああああ)

———死にたく、ねぇな……会いてえよ、くりすぅ……(いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!



————————————


『もう、分かるであろう?』


————————————



「はぁっ、ぐすっ、ぁっ、ぁっっ」


突如現実に戻された意識。

止まらぬ涙と、溢れる後悔。


『汝しかいないのだ』


そうだ。これしかないのだ。

もう理解した。


己を差し出すほか、ない。


『さあ、選べ。繰り返す未来か、一本の道か』


兄か自分か。

苦しむのか、苦しまないのか。

後悔するのか、しないのか。


兄にすべてを押し付けるのか、押し付けないのか。


自分が抱えるのか、二人で抱えるのか。


夢を諦めさせるのか、させないのか。


この絶望的未来に向けて、できる手段はひとつしか無かった。


今度は()()()()()()()だと。

今まで助けられたぶんは、この時のためだったと。

必ず救って見せよう。


クラリスは迷わず選んだ。


「にいちゃん、私を————」


ふと傍らで眠る兄を見る。


その無邪気な顔に安堵し、そして頬にキスをした。


そして、クラリスは家を出た。


———




精霊王の住処。


暖かな空間。


目の前には兄がいた。


泣き出しそうな顔だった。

行かないでくれと、戻ってきてくれと、そう顔に書いてあった。


兄のこんな弱々しい顔は見たことがなかった。

いや、実際に見たことはなかっただけである。


精霊王から見せられた数多な有り得る未来、いやあったはずの未来の姿では、嫌になるほど見ていた。


「私を———助けてね」


それはせめてもの願いだった。


その位は許して欲しい。

これくらい願わせて欲しい。



これから何年経っても、兄がクラリスを忘れないように。


兄は光の粒となって消えていった。


「これで、いいんだよね」


「あぁ、これが最善であるはずだ」


クラリスは前を向く。

その瞳に映るのは、目指すべき場所である。


「これで最後にしようぞ。

十五年後の、その未来を、我も見たい」


クラリスは歩み出す。



———神にサイコロは振らせない。




———私が奪って振ってやる。



これで第一章は終わりとなります。

ここまで読んでくれた方々本当にありがとうございました。

☆とグッド評価してくれると嬉しいです!!

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