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第一章 『プロローグ』

あらすじにあるような展開まで少しかかります。どうか、長い目でご覧下さい。


ああ、死にたくねえ。

まだ死にたくない。


せめて一年だけ待ってほしい。


そう一年だけだ。

そんくらい許してくれ。


まだ人生を楽しんでない。

まだやりたいことだって見つけてないし、

夢だってない。

だがこのままでは不完全燃焼だ。

こんな人生は嫌だ。

本気で生きてない。

そう、まだ俺は本気を出していないんだ。


だめだ。死にきれない。



そうだ。一年あったら俺は満足して死ねる。

大学行って、一人暮らしして、サークルで馬鹿したり、友達作って、

彼女作ってやることやって。


そんで……ああそうだ。


母さんに恩を返さんとな。


親不孝で生意気で、クソみたいな俺を育ててくれた母さんに親孝行できる。

今日だって、家を出るとき行ってきますを言ってない。

この頃、何か言われるたびにイライラして、無視しちまってたが。


今ならわかる。

悪いことをした。


帰って、ただいまを言った後、謝るんだ。


それだけでもいい。

だから時間を巻き戻してほしい。


そうしたら、母さんに素直に感謝を言える。

ごめんって言える。


俺が小学校の時親父が死んで、女手一つで俺を育ててくれた。

知ってる。わかってる。

仕事終わりに、わざわざ夕飯を作ってくれて、

朝早く起きて弁当を作ってくれた。


そんなご飯を俺は、

嫌いだからと、まずいからと、冷めてるから、冷凍食品だからと、

残して、捨てて、悪態をついていた。


とんだくそ人間だ。


頼む、一言だけでいい。

謝らせて欲しい。


ちくしょうぉ……。



戻りてえ…………。


三分前に。


受験を終えた解放感と、少しの不安に酔っていたらよそ見をした。

気付いた時には俺の下半身は変な方に曲がって、倒れこんでいた。

およそ、車にでもはねられたのだろう。


「かひゅ、かひゅっ」


息ができない。

喉がつぶれているのか。


こんな人生は嫌だ。

こんな中途半端な人生があってたまるか。


元はと言えば誰かを守れるヒーローになりたかった。

大学行って会社勤めするより、もっとやりたいことが山ほどあった。

でもこの世界にヒーローは必要なかった。


だから、小さい俺は諦め、およそ正解と思える道を選んできた。

波乱万丈とは対となるような、平々凡々な道を。


もっと挑戦したかった。

もっと無茶したかった。

人の目なんて気にせずに、やりたいことやっとけばよかった。


物語のヒーローのように。

守りたい人を大切にして、悪を穿つ。

苦労もする。後悔もする。

けど諦めない。曲がらない。折れない。

そんなまっすぐな人間になりたかった。


それに比べて俺はどうだ。

人の目を気にして、空気を読み。

挑戦もせず、しかし後悔と言い訳だけはいっちょ前。

そのくせ、守りたいものを無下にしてきた。

大切な人を傷つけてきた。


死ねない。

ああ死にたくない。


「ぅ……かふっ」


口から命がごぼっと漏れた。

赤黒い血の塊が飛び出した。

冷たいアスファルトに当たる頬がやけに熱い。

ああ、おれ泣いてんのか。

頬を伝う涙と一緒に、後悔もたらたらな不枯れていく。

情けねえ。


やがて死ぬ。


死んだらどうなるんだ?

転生とかするんだろうか。

ラノベみたく超絶最強な力と言う特典付きの転生とかするんだろうか。

そんでゼロからやり直して、何もかもが初めから。

自分だけアドバンテージを持って、無双。


いや、それはあり得ない。

それだけはありえない。

あってはならない。

それは今まで頑張ってきた人達への冒涜だ。

あんなの醜い妄想に過ぎない。


だってそうだろ。

そんなのずるいじゃないか。

なんでそいつだけ、やり直す機会を貰えるんだ。

そいつが何してきたって言うんだ。


何もしてこなかったんだろ!?

平々凡々な俺だけど、死んでチート貰ってやり直せました?

そんなのやり直せたとは言わないんだよ。

そいつの性根なんて何も変わっちゃいない。


ただ身に余る力を振りかざして、努力して苦労してきたやつらをねじ伏せて。

その表面しか見てない奴らが取り巻き見たく寄って来るだけのお笑い劇だ。

滑稽すぎて目も当てられねえ。



じゃあ、何を引き換えにしたら転生できるだろうか。



何を代償にしたら、ゼロからやり直せるだろうか。



腕や足か?

いや全然足りない。

じゃあ今までの努力か?

それでも全然足りない。

では大切な人の命と記憶とか?

それでもまだ足りないだろう。


結局、やり直すためにはそれと釣り合うくらいの後悔が必要なのだ。困難が必要なのだ。

やり直さなきゃよかった。そう感じるほどのハードな人生で生きなきゃならない。


俺にできるだろうか。


分からない。


だがあの憧憬はニセモノなんかじゃない。


剣を持って、悪を倒すような英雄になりたかった。

何度倒れても立ち上がる泥臭いヒーローに憧れた。


だから、神様。

いや性格のくそほど悪い世界をつくったやつ。


お願いします。


俺は指がひしゃげた手を天に突き出した。


俺にやり直す機会をください。

俺が本気で生きていけるように。

努力して、苦労して、後悔して、

それでも前を向いていけるような。

立派な人間になれるように。

次があったら、きっと俺はあんたの予想をはるかに飛び越えられるように努力するから。

見ていてきっと飽きない。

あんたは娯楽感覚でもいい。


俺は死ぬ気で生きるから。


試練が多い人生だっていい。

困難が付きまとう人生だっていい。

理不尽にさいなまれたら、

俺はもう死にたいと思うかもしれない。

だけど、きっと頑張るから。

もう、大切な人を無下にしたまま放っておくようなことはしない。

大事にして、離さずに、決して離さずに、

守り抜いていくから。

だから……


「ぁ…………」



俺は死んだ。



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