悪役令嬢の父親になりました
私の名前はアルバート・グロリアス。
今現在は公爵家当主をしているが、そんなことはどうでもいい。
問題は娘のメリッサのことだ。
メリッサは私と社交界の紅薔薇と謳われた妻のバーバラの間に二番に生まれた娘だ。
メリッサはバーバラによく似た深紅の髪に紅の瞳。バーバラと同じく社交界の紅薔薇と呼ばれ出しているが、それはどうでもいい。
問題はそのメリッサがやらかす度に何故か我が家まで没落してしまい、私は処刑されるか、よくて国外追放か奴隷堕ち。そして、病死か毒殺で結局は早死にしてしまう。
それが一度や二度ならば対策も取れただろうが、何度やり直しても同じような最後を迎えてしまう。
そう。何度もだ。
私は何度もこの人生を繰り返している。
メリッサの馬鹿が何度もやらかすせいでだ。
最初にこういった状況になった時は、婚約者である王太子への暗殺未遂をしたという知らせを受け取った。
私はその場でメリッサに勘当を言い渡した。
それだけで済むとは思わなかったが、それでもしなければ気が済まなかった。
最悪私は引退と謹慎程度だと思っていた。だが、我が家に下された沙汰は違った。
メリッサの独断ではなく、私が主体となって画策していたことだとでっち上げられ、私たち家族は処刑されてしまった。
あの時の家臣への恨みは絶対に忘れはしないと胸に誓って処刑されたはずだった。
だが、気が付けば、私は処刑される三年前に巻き戻っていた。
何故三年前だったのか。
もしかしたら、メリッサが学園に入学したのが転機だったのかもしれないと思った私は、メリッサの入学を一年ずらし、その間に私たち家族を嵌めた奴らに報復をするために水面下で動き続け、裏切った家臣たちにはしっかりと報復と対策をした。
これでばっちりだろうと思っていたのに、我が娘は愚かだと言うことをすっかり忘れていた私は、迂闊にも同じ轍を踏んでしまった。
だが、今度は娘が王太子を暗殺しようとした理由が分かった。
王太子は、娘という婚約者がいるのにも関わらず、平民の小娘にうつつをぬかしたせいで、娘を蔑ろにし、娘が邪魔だからと邪険に扱っていたということが分かったからだ。
それが分かったのは、王太子の側近が処刑待ち中の獄中にいる私の近くで、ぽろっと溢したからだ。
その時の処刑も再び時が巻き戻る度に、私たち家族をこんな目に合わせる奴らに復讐した。
時にはメリッサのことも監禁したり、国内にいたのではどこにいたって処刑される運命なのならば、家族共々他の国に旅行を装って、亡命をしようとした。
だが、その度に邪魔が入ったり、問答無用で断頭台に連れて行かれる。
これが、私の運命なんだと言われているみたいで、嫌だった。
私はその運命とやらを認めたくなくて、何度も行動を変えてみたが、その運命とやらはとても残酷で、私なんかに到底太刀打ち出来るものではなく、何度も同じようなことを繰り返し続けている。
そのことに何度も絶望し、自ら命を絶とうとしたことがあった。
だが、それでも時間は巻き戻り、私の命なんてどうでもいいとばかりの運命に何もかも諦め、家督を息子に譲って引きこもった。
引きこもっているにも関わらず、処刑されてキレた。
家督はもう息子に譲ってるのに何でだよ!
どうせ処刑される運命なのに、自殺も駄目。家督を譲るのも駄目。娘を修道院に放り込むのも駄目。
だったら何をするのが正解なんだと、周囲を頼ることにした。
今までは、どうせこんな話をしたって誰も信じてくれる訳がないと思っていたから、相談なんてしたこともなかった。
だが、何度繰り返しても同じような運命を辿ってしまう。これ以上私一人で考えたところで、いいアイデアはこれ以上出てこないだろう。
最初、家臣に相談しようとしたが、あいつらには何度も煮え湯を飲まされたことを思い出してすぐに却下する。
そして、息子と妻を呼び出して、二人に今までのことや、これから起きることの大筋を話した。
だが、二人は中々信じてくれなかった。
当たり前だ。
私も二人の立場ならば、頭のおかしくなってしまった奴だと敬遠するか、どこかに幽閉して、関わらないようにしていただろうから。
それに、息子には何度も繰り返す人生の中で、何度か裏切られたこともあった。
だが、贔屓抜きにしても息子は頭がよく、何度も出し抜かれた。
息子が敵になってしまった時は絶望したが、味方にすることが出来たならば、かなり強力な味方になってくれると信じている。
妻は今までのやり直しの中で私に何かしてくる訳でもなかったが、メリッサが何度道を踏みしても、メリッサの行動を正そうとしてくれた。
そのことだけでも信用するに値する。
妻は娘のためになるのならばと、私の話を信じてくれることにしたらしかった。
半信半疑とは言え、流石私が選んだ女だ。私の話を信じてくれたと惚れ直してしまいそうになった。
だが、問題は息子の方だった。
息子のトリスは私のことを耄碌した老人扱いし、領地に閉じ込めようとした。
だが、もう何度も繰り返される三年のお陰で、何かふっきれてしまった私は、息子の言い分も分かるので、それならばとメリッサがこれからすることを三つ当てたら、信じなくていいから私の言うことを聞いて欲しいと何とかトリスを説得し、言うことを聞かせることに成功した。
今までのループでメリッサは学園に入ってからのパターンは大体決まっていた。
そのため、トリスが私の言うことを聞くのは、分かり切っていたことだった。
メリッサの行動が一つ二つと当たっていく度に、トリスの顔からみるみると表情が抜け落ちていくのは、今までのリープ中の私を見ているみたいで、とても心苦しかった。
だが、お陰で家族という心強い味方も出来、これで何とかメリッサの馬鹿を抑えられるかもしれないと、期待した私が馬鹿だったのか、せっかくの家族という頼もしい仲間が出来たというのに、私はその仲間を呆気なく失ってしまった。
そう、メリッサの非常識っぷりが我々の予想を遥かに越えていたのだ。
もし、ループするのがメリッサが幼少期か、生まれる前だったのならば、王家との婚約を画策なんてしなかった。
王太子との婚約を破棄したところで、メリッサが変わることはなかったが、最初から他の国の王族は無理でも、貴族ならばメリッサが嫁いでもおかしくはない家を見つけるのは簡単だっただろう。
だが、高々三年ではいい家を見つけるのは、難しい。
最初からループするのを前提としなければならなかったから。
私はもうループするこの人生から逃げ出したい。
それなのに、あと何回しなければいけないループを前提に行動しなければならない。
出来ることならば、そんなことはしたくなかった。だけど、家族を巻き込んでからもかなりの回数やり直した。
何度目かのループで、トリスからなりふり構ってる場合なんてないのでは? と指摘され、私は腹を括った。
メリッサの嫁ぎ先を何度繰り返しても、何かに邪魔されるように頓挫したり、タイムオーバーしたり大変だった。
だが、今までのように怯えて暮らすだけの暮らしとは違って、危険なのは変わらないが、それでも、目標を定めたお陰か、今まで以上に充実した気持ちになった。
最近では、メリッサの馬鹿の行動を制御するのは諦め、メリッサがどういう風に行動するのが趣味みたいになっている。
毎回、私たちの予想の斜め上に行動する娘の奇行に、次は何をするのだろうかと、何か芝居を見ているようで、ハラハラしてしまう。
メリッサはいつも最後に処刑されるんだが、その時に毎回呪いの言葉を吐く。
それは世界を呪い、我々を呪い、そして、最も醜い呪いを王家へと掛けた。
そのせいか私は何度も同じことを繰り返している。
が、一つだけ言わせて欲しい。
私は何度もメリッサに行動を改めるように言っていたし、言葉だけじゃなく、行動でも止めようとしていたのに、それでも止まらなかったのはメリッサ本人ではないのか。
ただの逆恨みでこうなっているんだと思うとかなり腹が立つ。
だが、何度諌めても変わらないし、メリッサのことは半ば諦めて放置していたところがある。
メリッサの行動をここいらで変えて、少しでも破滅から遠ざかるべきなのでは? という思いが、久しぶりに沸いて来た。
それに、トリスから周りの環境を何とかするより、メリッサの行動を何とかした方がいいと説得されたからだ。
家族を味方に加えてからメリッサのことは、バーバラに任せっきりになっていた。
何も変わっていない現状を見ていると、バーバラだけでは無理だ。もちろん私一人でもだ。
それに、今ならトリスもいる。
三人掛かりでやれば、メリッサの馬鹿も何とかなるはずだと挑んだ。
最初は、私たちの態度がいきなり変わったとメリッサが反発してきたこともあった。
だが、メリッサにお前の道は破滅の道しかないんだ。
トリスに本人にも伝えて何とかすれば? と突き放すように言われた時もあった。
だがなトリス。お前は甘い。
メリッサに言ったところで変わるのなら、とっくの昔にやっている。
それで変わってくれるのならば、簡単だったよ。
メリッサの行動が斜め上過ぎるのに加えて、外部から我が家に掛かる圧力が強すぎる。
数十回のループを繰り返し、没落させようとしてくる家臣たちをその度に叩き潰し、メリッサの奇行を家族総出で潰してきていたが、もうこれは王家を滅ぼした方がいいんじゃないか?
我が家の処刑された罪状の中には全く身に覚えのないものもあった。
それらの罪の告発者は大概王太子の手の者だった。
多分、平民に現を抜かした王太子がメリッサを邪魔に思って、我が家ごと潰したのだろう。
メリッサという婚約者がいながら、たかだか平民なんかのために、建国当初から代々王家を支えて来た家門を簡単に裏切り、自分の欲を優先させるような愚か者がいるような一族が国を治める必要なんてないじゃないか。
早速トリスとバーバラに相談してみたところ、二人共賛同してくれた。
なので、こちらが処刑されるよりも早く行動しなくてはならない。たが、こちらには反乱分子が多すぎる上に、一番の目の上のたんこぶのメリッサを抑えながら、目的を達成するのはそう容易いものではない。
私たちが最初にしたことは、王太子と恋に落ちる予定の平民に新しい身分を用意して、メリッサたちが通う王立学園に現れないようにすることだった。
彼女が現れなければ、王太子の暴走はかなり抑えられるはずだ。
だというのに、肝心の平民は何故かこちらの行動を予測しているかのように、するするとこちらの手をすり抜けて学園に入学してしまう。
というか、たかだか平民の小娘ごときが、何度も公爵家の捜査の目を掻い潜って、王立学園に入学出来るのか。
もしかしなくともただの平民ではなく、どこかの国のスパイの可能性もあるのでは?
その線も含め、メリッサを挑発する理由を調べさせれば、かなりヤバい話が出るわ出るわ。
これは駄目だろうと国に報告し、平民を退場させた。
これならば、少しはマシになるかと思ったが、甘かった。
既にあの平民に毒されていたらしい王太子によって再び処刑されてしまったが、今までの中で一番いいところまで行ったんじゃないのかって我ながら自画自賛したくなる。
トリスには、でもやっぱり処刑されてしまったじゃないかと言われそうだが、今までの中で一番いい結果だったのだから喜ぶべきだ。
それに、今回のことを足掛けに、次に活かせばいい。
あの平民を最初からどうにかしてしまえば、王太子など赤子の手をひねるようなものだ。
これで私はこのループから抜け出せるはずだ。
高笑いをしながらループ当初に戻ったせいで、使用人に医者を呼ばれてしまったが、そんなことは問題ない。
私はこの終わりなきループを、ようやく攻略出来ると分かったら誰だって高笑いするに決まっているさ。
この喜びをトリスとバーバラと分かち合おうとしたら、二人はループしないのを忘れていたせいで、この回はうっかり幽閉されてしまい、時間を一回無駄にしてしまった。
だが、攻略方法は分かった。
これからは今までのことを踏まえて、王太子へのつもり積もった積年の恨みと、何度も我が家を裏切り続けた家臣たちへの報復の始まりだ。
待ってろよクソ野郎ども!




