第7話 爆発魔女っ子
カルマの隣のスミヤス荘103号室。そこに住むアイリスは、出掛けるために魔法使いのローブに着替えていた。
「今日も良い天気ねぇ〜」
「あ……あれは101号室のナイナさん……だっけ」
ナイナの手には、大量のスライムの破片が入ったビニール袋が握られていた。アイリスはそれがいつも気になっていたのだ。
「ナイナさーん」
「あ、え、えっと……!」
「あっ、アイリスです」
アイリスは、部屋に閉じこもっていることが多い。ナイナとあまり会話をしたことがなく、名前を覚えられていないのも無理はないと思った。
「す、すみませんアイリスさん……」
「あたしも人の名前覚えるの苦手なので、気にしないでくださいっ」
「それであの、ずっと気になっていたんですけど、それなんなんですか?」
「あ、これ? 私のご飯だけど 」
「え……?」
アイリスは、ナイナが手に持っているビニール袋をじっと見る。水色の破片は中で微妙に蠢いていた……。
「そ、それ食べるんですか……?」
「え? お、美味しいよ……? まぁ……私はずっとこればっかり食べてるから飽きてるけど……」
「アイリスさんも食べる……?」
アイリスの前にその蠢いている物体が差し出された。アイリスは冷や汗を流している……。
よく見ると、ナイナはあげるのを躊躇っているような素振りを見せていた。
「あ、いえ……! ナイナさんの分が無くなっちゃいますし……。申し訳ないので遠慮しときます……!」
「あ、そ、そう……?」
ナイナはスライムを全部自分で食べられることが分かると、安心したようで笑顔になっていた。
「じゃナイナさんっ! あたしはこれで」
「あ、うん、じゃあねアイリスさん……!」
(ナ、ナイナさんって変わってるわね……)
ナイナと別れたアイリスは、自分の用事のためにアパートを後にした。
アイリスは木々が生い茂る森へとやってきた。そこで木の実やらキノコやら、植物をひたすら集めていく。
「ふむふむ、まぁこんなもんかな」
さっくりとアイテム収集を終え、アイリスは自分の部屋へと戻った。
「さあて、今日もやっちゃいますか!」
アイリスは台所に大きな鍋を用意し、そこへ今日拾ってきたアイテムを次々放り投げる。それをグツグツと煮込んでいく。
「うっひっひ……混ぜれば混ぜるほど色が変わっていくわ……」
鍋の中は紫色の液体で満たされていた。ボコボコと泡が浮かんでは消えている。
「くんくん……に、臭いとか大丈夫かしら……? あたしもう麻痺しててよく分かんなくなってて……」
「アパートのみなさんの迷惑になったら大変だわ……」
心配しつつも、アイリスはその怪しい液体と、モンスターの体の一部を混ぜ始めた。
鍋の中はさらに化学反応を起こし、カラフルで凄まじい色になっていた……。
「きたきたー! この反応は今回こそ成功だわーっ! 」
アイリスがそう叫んだ瞬間、鍋が光り輝いた。
「へ? う、うわあああああっ!!」
そして、鍋は爆発していた……。
「ゲホッゲホッ……あ~あ……また失敗だわこりゃ……」
アイリスの髪はボサボサになり、全身黒焦げになっていた。口からは煙を吐いた。
「こんなんじゃ一人前の魔女になれるのはまだまだ先ね〜……」
アイリスは魔女見習いの少女だった。魔女の新薬を開発して、魔女界にニューウェーブを巻き起こそうと躍起になっていたのだった。
グゥ〜。とアイリスのお腹が鳴った。
「お腹空いた〜……そういえば、今日はまだ薬の開発だけでご飯食べてなかったわね……」
「今日は何を食べようかしら……」
アイリスの脳裏には、先程のナイナが手に持っていたスライムが浮かんでいた。
「あ、あれ本当に美味しいのかしら……。今度ちょっとあたしも真似してみようかな……」
そんなことを考えつつ、今日はそんな勇気もなく、あり合わせの物でさっさと済ませるアイリスであった。