第6話 “G”
「キャアアアアアアッ!!」
とある昼下り。スミヤス荘に悲鳴が木霊した。
「な、なんだ……!?」
ナイナは、今日はスライム狩りもサボってだらだらと昼寝をしていた。しかし、突然の悲鳴で目が覚めたのだった。
「今の声って……シルクさんかな……」
上の階から聞こえてきたので、まずシルクで間違いなさそうだった。ナイナはあんまり余計なお節介をするのも気が引けるタイプだった。様子を見に行くべきか迷っていた。すると。
『ピンポーン』
「ナイナさーん! ごめんなさーい! 助けてくださーい! 」
「あ、シ、シルクさん……」
迷っている内に、シルクの方からナイナの元へ助けを求めに来たのだった。迷わず玄関のドアを開けた。
「シルクさん、ど、どうしたんですか?」
「で、出たんです……」
「な、何が……?」
「“G”が……!!」
「そ、そんな……!?」
“G”という言葉を聞き戦慄するナイナ。このアパートに“G”はよく出没していたのだ。
「こ、こんなことお願いするのは本当に失礼だと思うのですが、勇者様であるナイナさんに“G”をやっつけて欲しいなって思って……」
「私、勇者さんしか頼れる方がいないんですっ……!」
(ゆ、勇者……!)
(そうか……そういえば私は勇者なんだっけ……)
シルクが勇者として自分を頼っている。なんてことない日常のシチュエーションとはいえ、勇者として人から助けを求められていたら、それに答えない訳にはいかなかった。
「わ、分かりました。私に任せてください……!」
「さ、さすが勇者さん……! で、ではよろしくお願いします……!」
ナイナが剣と盾を装備する。“G”を倒すためには必要不可欠な装備だった。
シルクに連れられ上の階に上がる勇者ナイナ。何やら邪悪な気配が漂っている。そんな雰囲気だった。
「だ、台所の方にいたんです……」
「わ、分かりました……! シルクさんは外で待っていてください……」
「私ひとりで決着をつけます……!」
「キュン! ……ゆ、勇者さん……」
シルクは惚けた表情でナイナのことを見つめている。そんなシルクの様子をナイナは気にしつつ、シルクは外で待っているように促した。
一人シルクの部屋に突入するナイナ。気配を探ろうとすると、あちこちにいるような気持ちになってしまい、寒気で背中がザワザワしていた。
「だ、台所って言ってたけど、いなくなってるっぽいな……。ど、どこに行ったんだろう……」
「かくいう私も……に、苦手だから……正直……こ、怖い……」
剣と盾を構えながら慎重に“G”の気配を探る……。探りたくないけど探る……。
ガサ。と微かに物音が聞こえた気がした……。恐る恐る後ろを振り返る。
「うひゃあっ!? い、いた……!!」
そこにいたのは“グレートビートル”だった。小型だが、戦闘力の高い恐ろしい虫型のモンスターだ。見た目はカブトムシをさらに強くしたような外見をしている。
「よ、よし! 行くぞ……!!」
盾で攻撃を牽制しながら、隙を見て剣を振る。
「は、速い……!?」
避けられてしまった。グレートビートルの凄まじい速度に翻弄されてしまう。次の瞬間、グレートビートルは羽を広げて突進してきた……!
「うわっ!?」
かろうじて盾で防ぐ。盾を持っている手に振動が伝わり、手が痺れている。攻撃力の高さを伺わせた。
「あ、諦める訳にはいかない……! シルクさんの笑顔を守るためにも……!」
孤軍奮闘。ナイナは勇者として、困っている人を救うために全力で戦った……!
◇
10分後。
ナイナはなかなか出て来ない。外で待っていたシルクは、不安な気持ちに襲われていた。
ガチャ。とドアが開く音が聞こえた。そして、ナイナがゆっくりと姿を現した。
「し、シルクさん……わ、私やったよ……“G”をやっつけた……よ……ガクッ」
そう言った直後。ナイナは倒れ気を失った。
「ナ、ナイナさぁーんっ!!」
グレートビートルの戦闘力に押され、何度も何度も攻撃を受けながらも、ナイナはシルクのために、最後まで果敢に立ち向かったようだった……。
その後、ナイナはシルクの回復魔法で全回復し、事なきを得た。