第40話 王国奪還編⑪
築30年のオンボロアパート『スミヤス荘』。その101号室に、一通の手紙が来ていた。
『ピンポーン』
「カルマさーん! ナイナですー!」
ナイナがカルマ、シルクの部屋を訪ねた。そしてもう1人……。
『ピンポーン』
「ウスメさーん!」
忍者のウスメの部屋、203号室の呼び鈴を鳴らすナイナ。誰もいないのに、独りでに部屋のドアが開いた……。
「ウ、ウスメさん……。そ、そこにいるんですか……?」
ナイナが手に持っている小さなホワイトボードとペンを差し出す。すると、ペンが宙に浮かび、ホワイトボードに文字が書かれる。
『います』
「そ、そうですか……。では、私の部屋に行きましょう……!」
あの戦いで大活躍のウスメだったが、その後、再び影が薄くなり、ナイナたちはウスメを目視出来なくなってしまった……。
「プリズムさんから手紙が来たんですか!? 何が書かれているのか楽しみですね!」
「そうですね……! シルクさん……!」
アンシエルは無事、魔族の魔の手から奪還することに成功した。その後、プリズムはアンシエルに王女として城に戻り、アパートから退去していたのだった。
「プリズムさんは、あれから元気に過ごしていますでしょうか……? ド、ドキドキします……」
「分かります……カルマさん……。なんだか緊張しますよね……。じゃ、じゃあ私が代表して読み上げますね……!」
『拝啓。師匠! シルクさん! カルマさん! あと、忍者の方! その節は、まことにありがとうございました……!!』
『みなさんがいなかったら、アンシエルは現在も魔族の国として乗っ取られたまま、国民の皆様も酷い目に遭い続けていたでしょう……! 想像しただけでも本当に恐ろしいです……! ガクブルです!』
『こんなわたくしに優しくしてくださった皆様のこと、わたくしは何があっても、絶対に忘れることはありません! あ、でも、忍者の方のお名前は忘れてしまって本当に申し訳ありません……!』
『何故なのでしょう! まるで何者かに頭をいじられたかのように記憶から抜け落ちています……! でも! 忍者さんは今回のMVPさんです! 忘れてしまった分もたくさんたくさん、感謝させていただきます……!』
『……あの後のことですが、キャンシーとサキュリーの2人はひっ捕らえて縛り上げ、城の地下に幽閉しています。キャンシーは口が悪くて怖いです。サキュリーはなんだかエッチなことになっていてもっと怖いです……。ガクブルです』
『支配者の魔族とはいえ、命を奪ってしまうのは大変忍びないので……近々、有名な召喚師様にお願いして、誰にも迷惑の掛からない世界へ彼女たちを送りたいと思っております』
『アンデックスは力尽きて事切れてしまいましたが……。師匠は大丈夫ですか……? 敵とはいえ、気にしていないか少し心配です』
「ありがとうプリズムさん……。大丈夫ですよ。勇者ですから!」
『皆様は、お礼なんか良いと言ってくださいましたが、アンシエルは、恩人の皆様にいつでも恩返ししようと目論んでいます……!』
『何か困ったことがあったら、どんなことでも、なんでも、遠慮なく言ってください!! 次は、わたくしたちが皆様を助ける番なんですからね……!』
『お礼のひとつとして、師匠には今度、わたくしが明るい顔の極意を教えてあげたいと思います!』
「あはは……なんですかそれ……」
『長くなってしまいましたが、改めて、皆様、本当にありがとうございました! ……プリズムより』
「……なんだか、手紙からも明るい声が聞こえてきそうな文章でしたね……!」
「うふふっ! そうですね!」
「プリズムさんが……お、お元気そうで
良かったです……!」
「あ……。ウスメさんも一言どうぞ……!」
ウスメに再びホワイトボードとペンを差し出すナイナ。ナイナが持っていないとホワイトボードを目視することが出来なくなるのだ……。
『拙者もうれしいです』
「そ、そうですね……! 本当にアンシエルを無事に取り戻せて良かったと思います!」
「はいっ! 良かったですっ!」
「…………え?」
いないはずの5人目の声が聞こえ、ナイナたちは思わず声の方を振り返る。
「師匠! 皆様! 遊びに来ちゃいましたっ!」
「えぇ〜っ!?」
突然、プリズムが来訪し驚愕するナイナ。しかし、プリズムの顔が見たかったので、内心とても喜んでいた。それは他のみんなも同じ様子であった。
「さあ! 師匠っ! さっそくやりますよ! ほらっ!」
「な、なんですかそれ……?」
「見ての通り、明るい顔の練習ですっ!」
もう暗い顔の練習をする必要がなくなったプリズム。彼女は満面の笑みで、ナイナに明るい顔をご教授してあげるのだった。
(カルマさん。シルクさん。そして、もちろんウスメさん)
(この中の誰が欠けても、プリズムさんの“真”の明るい顔は見られなかった)
(彼女たちがいたから、私も勇気を出せた……。無理かもしれないけど、でも、やってみようってそう思えた……)
(ありがとうございます……! 本当に感謝しています……!)
ナイナは仲間たちに心から感謝していた。みんなの笑顔に囲まれて幸せだった。ナイナはまるで、“勇者のパーティー”のようだと感じていたのだった。




