第31話 王国奪還編②
スミヤス荘に引っ越してきた王女プリズムが、魔族の幹部にさらわれた。ナイナとカルマはどうやってプリズムを助けようかと悩んでいた。だが、謎の忍者ウスメ。彼女の登場で状況は一変した。
ウスメに言われた通り、ナイナとカルマはシルクも呼んで、カルマの部屋で、4人は作戦会議を始めようとしていた。
「それでえっと……ウスメさん? 考えとはなんでしょうか?」
「ナイナ殿、みなさん。まずはこれを見てください」
ウスメは懐から巻物を一本取り出すと、それをくるくるとテーブルの上に広げ出した。そこに書かれていたのは地図だった。
「これは、アンシエルの地図です。アンシエルは、外壁に囲まれた城下町で構成されている本当に小さな小さな国です」
「魔族共はこの外壁を悪用して、国が支配されているのを周りに悟られないようにしています」
「ちょ、ちょっと待って!」
「なんでしょう? ナイナ殿?」
「私たちがアンシエルのことを知ったのはついさっきなのに、な、なんでもう地図やら国の事情やらいろいろ知ってるの!?」
ナイナは、前持って準備していたかのようなウスメのスムーズな進行に、驚きが隠せなかった……。
「それなら簡単です。まず、プリズム殿が入居した瞬間、拙者は彼女の部屋に侵にゅ……遊びに行きましたっ!!」
「そして、彼女の独りご……ゴホン! 彼女とお喋りして、アンシエルが魔族に乗っ取られていることを知りました……!!」
「そして単身、アンシエルに乗り込み、隅々まで調査して、地図を作り、後はナイナ殿たちがいつでも敵地に乗り込めるように準備していたのです!」
ウスメはさらっと、今までの自分の舞台裏での活躍を語っていた。ナイナは震えていた。
「す、凄い……」
「凄いよウスメさん!! めっちゃカッコいいよ!! さ、さすが忍者だね!!」
ナイナは、ウスメの両手を握り締め、感動していた。そして、ウスメはそれ以上に感動している様子だった……。
「お、おおおおおっ!! あのナイナ殿に、こ、こんなに感謝される日が来るとは……!! 拙者もう!! 感動の涙で前が……前が、見えませんんんん!!」
「えっと……ウスメさん……? 前が見えなくなっているところ申し訳ないのですけど……。具体的にどうすれば国の状況を打開出来るのでしょうか……?」
「うぅ……す、すみませんシルク殿! もう拙者、シルク殿に名前を呼ばれただけで気を失いそうなほど興奮してしまいます……!」
「え、えぇ……?」
何気ないことで興奮しまくるウスメに、シルクは若干引き気味だった……。ウスメはなんとか正気を保ちながら話を続けようとする。
「えっとそれで……話の続きですが……」
「国に侵入している魔族の数ですが、実はそれほど多くありません」
「えっ……!?」
「反魔王の意思を持つ魔族が集まっているようですが、彼らは仲間意識がとても薄いです」
「気が向いた時に国を適当に行ったり来たりする者ばかりで、統率も何もあったもんじゃありません。かなりガバガバです」
「戦力のほとんどは、アンシエル乗っ取りの首謀者、アンデックスの分身です」
「アンデックス……」
アンデックスと直接戦い、分身能力をその目で見ていたナイナは、国に溢れ返るアンデックスの集団を想像して青い顔をしていた。
「アンシエルの支配に関与している幹部は3人」
「アンデックスとキャンシー、そしてサキュリー。この3人の幹部さえ倒してしまえば、アンシエルを奪還することは可能だと拙者は思っています」
「サ、サキュリー!?」
突然、シルクが魔族の名前を叫んで固まっている。ナイナとカルマはどうしたのかと呆気にとられている。ウスメは、何やら慌てた様子で身を乗り出してシルクの言葉を補足し始めた。
「シ、シルク殿は僧侶として、サキュリーと戦ったことがあるんですよね……!?」
「は、はいっ!! そ、そうです!!」
「そ、そうだったんですか……。シルクさんが魔族の幹部と……」
「サキュリー……まさかここで彼女の名前を聞くことになるとは……」
シルクとサキュリーは、何やらただならぬ因縁があるようであった。
「次は、実際にアンシエルに潜入することを想定した時の、具体的な作戦をお話します」
「まず、ガバガバの魔族の監視をさらにガバガバにするために、拙者が分身の術で雑魚魔族たちを陽動、および撹乱します」
「陽動作戦を終えた後は、アンデックスの分身をある程度引き受けたいと思っています。ですが、相手は首謀者の幹部。全ては無理かと思われます」
「拙者の分身で、現場が混乱している隙に、みなさんは城壁の中へ潜入してください」
「キャンシーとサキュリーはずっとアンシエルに滞在しているので、おおよその位置は分かっています」
「アンデックスだけは神出鬼没ですが、自分の分身がやられていれば異変に気付き、必ず姿を見せると思います」
「幹部は、担当の方を事前に決め、各個撃破していただくのが理想です。拙者が分析した戦闘能力に見合った相手と対峙していただくのが、よろしいかと思っております……!」
幹部の話になると、空気が重くなった。魔族の実力者相手に自分たちが立ち回れるのか、それがナイナは一番心配だった。
「シルク殿はサキュリーとの戦闘経験がありますので、サキュリーはシルク殿が適任かと思われます」
「そ、そうですね……。私も戦うのならサキュリーを任せて欲しいと思っていました……」
「キャンシーはカルマ殿に……」
「カ、カルマさん、戦闘って大丈夫なんですか……!?」
ナイナはカルマが戦っているのを一度も見たことがない。シルクは戦闘経験があるらしいが、普段の大人しいカルマの様子をよく知っているナイナは、カルマが心配でしょうがなかった。
「カルマ殿……これはあくまで拙者の見立ての話です……! 無理はしないでください」
「陽動作戦を速やかに成功させ、拙者が幹部の相手をするプランも用意していますので」
「いいえ……大丈夫です……。ワタシにやらせてください……!」
カルマは今まで見せたことのない、闘志に燃えている表情をナイナに向けていた。
「これは実戦です。危険は伴います……。みなさん。絶対に無理はしないでください……」
「みなさんには、逃走用の煙玉とまきびしをいくつか渡しておきます……! もし逃げたくなったり、ピンチになったら遠慮なく使ってください……!」
「しかし、みなさんは十分幹部と渡り合える力を持っています……! 今まで拙者は、みなさんをずっと見守ってきました。それは間違いないと思います……!」
「そして……アンデックスは、ナイナ殿にお願いしたいです……!」
「わ、私が……?」
ナイナの心が一気に曇る。順番的には自分だと思っていたが、ナイナは今までも幹部とまともに戦えていない。勝てる自信など全くなかったのだ。
「ナイナ殿。正直に言いますが、拙者はこの中で一番強いのはナイナ殿だと思っています。それも、ぶっちぎりに……!」
「アンデックスを倒せるのは、むしろナイナ殿しかいません……! 勇気を出していただければ、間違いなく、必ず勝てます……!!」
「ほ、本当ですか……?」
ウスメは、ナイナを真っ直ぐ見つめて力強く頷く。噓でも、おだてている訳でもなさそうだった。
「もし勝てなかったら……拙者は切腹します……!!」
「え、えぇ……?」
ナイナは、ウスメのためにも負ける訳にはいかなくなってしまった……。
「最低でも、アンデックスだけでも倒すことが出来れば、分身の集団を一網打尽に出来ます……! そうすれば、アンシエル側の戦力で状況をひっくり返せるはずです!」
「ですが、他の幹部、キャンシーとサキュリーを野放しにすると、アンデックスの援護に駆け付けると予想出来ます。やはり各個撃破が望ましいと、拙者は考えています」
「これで拙者の考えた作戦は全てです……!」
「もし、戦いたくない方がいらしたら言ってください……! 無理はしては駄目です……! みなさん、くれぐれも安全第一に」
3人は顔を見合わせて頷く、ナイナはまだ、自分がアンデックスに勝てるとは思えていなかったが、仲間と一緒の作戦。ウスメが自分たちを気遣い、逃走手段を豊富に用意してくれている。その2つがとても心強かった。
4人は一致団結し、アンシエルを取り戻すため、戦う決意を決めたのだった。




