第30話 王国奪還編①
魔王から休息を与えられたカルマ。彼女はしばらくの間、一人部屋の中でゆっくり過ごし、だいぶ心身ともに回復していた。
「ナイナさんは大丈夫かな……」
ナイナを自分たちのせいであんな目に遭わせてしまい、カルマは、彼女と顔を合わせるのが気まずかった。しばらく顔を合わせていなかったが、ずっと気になってしょうがなかったのだ。
カルマは、そろそろスライム狩りから帰ってくる頃だと思い、アパートの外でナイナの帰りを待っていた。
「あ、ナイナさん、帰ってき……」
カルマの目に映ったナイナは、虚ろな目で、足を鉛のように引きずりながら歩いている姿だった。ナイナは普段から落ち込んでいるが、あそこまで沈んだ姿を見るのは初めてだった。
とても話し掛けられる雰囲気ではない。カルマはナイナの姿を見ながら立ち尽くしていた。
「…………カルマさん」
カルマが悩んでいるうちに、ナイナの方から話し掛けてきた。
「どうしよう……プリズムさんがさらわれちゃった……」
「えっ……」
「魔族の幹部に……私はどうすることも出来なかった……」
「ワ、ワタシの部屋でよければ……詳しい話を聞きます……」
「ありがとうございます……」
カルマは、魂が抜けたようなナイナを部屋に招き入れた。
「…………なるほど。そ、そんなことが……」
ナイナは簡単に要点を抑えて、機械のように淡々とカルマに説明した。
ナイナはずっと俯いている。カルマには、この状況をどうするべきか分からなかった。だから、あえて“ナイナに聞いた”。
「ナイナさんはどうしたいですか……?」
「……え?」
「出来るか出来ないかは良いです……。どうしたいか。それを正直に教えてください……」
「わ、私は……」
どうしたいかはハッキリ分かっている。だが、どうすれば良いのか分からない。ナイナは、カルマに促されるまま、ゆっくりと口を開いた。
「プリズムさんを助けたい……」
それを聞いたカルマは、ナイナに提案した。
「じゃあ、助けましょう……!」
「え……?」
「む、無理だよ……!? プリズムさんは魔族の集団って言ってたし! 幹部はいたし! ぜ、絶対に無理だよ……!!」
「どう無理なんですか?」
「ど、どうって……!?」
「以前のナイナさんなら、助けようって言ったと思います」
「…………っ!」
「アイリスさんの幽霊が現れた。私は、それだってどうすることも出来ないと思っていました……」
「でも、ナイナさんは、みんなのためにいろいろ考えて、なんとかしてくれました……」
「ナイナさん……前みたいに、一回みんなで考えてみましょう……! みんなでたくさん考えて悩んで、それでも無理だったら、それはもうしょうがないです……!」
「カ、カルマさん……」
『バァンッ!!』
「な、なにっ!?」
突然。部屋の中で何かの破裂音がした。
ナイナもカルマも、何が起きたのかと部屋を見回している。
「ナイナ殿! カルマ殿! 拙者はここにいます~!!」
「えっ!? 誰っ!?」
いつの間にか、カルマの部屋の中に忍者がいた。今まで気が付かなかったが、部屋の中には大量の割れた風船が散らばっていた。
「おおおおおおっ!? つ、ついに、お二人とも拙者の存在に気付いてくださったんですね!?」
初めて見た忍者が、訳の分からないことを叫びながら興奮している。カルマとナイナは恐怖におののいていた……。
「あ、初めまして! いや、本当は初めましてではないのですが……!!」
「拙者、203号室にずっと住んでおりました! 忍者のウスメと申しますっ!!」
「に、忍者……!? 203号室……!? えっ!? どういうこと……!?」
ナイナはパニックを起こしているようだ。ウスメは、自分の話をするのはややこしいと感じたのか、一旦それは保留にした。
「拙者のことは良いのです!! それよりも、話は聞いてました!! プリズム殿を助けるんですよね!?」
「な、なんでプリズムさんのことを!?」
「拙者は忍者です!! 事情は全て把握しています!!」
「何故なら!! 忍者だから!!」
「そ、そうか。忍者か……」
「忍者だったらしょうがないですね……」
カルマとナイナは忍者だからという理由で納得した。ウスメは話を続ける。
「拙者に考えがあります……!! まずは、シルク殿もこの部屋に呼びましょう!!」
カルマとナイナに作戦などなかった。とりあえずカルマとナイナは、謎の忍者の言う通りにしてみようと決めた。




