第3話 僧侶の怪しい秘密
貧乏勇者ナイナ。その真上の階に清楚な僧侶シルクは住んでいた。
「…………」
彼女は自室で神に祈りを捧げていた。庶民的な内装のアパートとあまりにも不釣り合いな光景であった。
下の階のドアが開く音が聞こえる。貧乏勇者のナイナが、またモンスターを狩りに出掛けようとしているようであった。
「今日も勇者さんはお勤めに励んでいるのですね……。
私と違ってなんて立派な方なのかしら……」
シルクは、魔王を倒すため冒険をする勇者に強い憧れを抱いていた。ナイナのことを素敵な勇者様だと思っていた。
そんな勇者様を見送ろうとシルクはドアを開け2階から顔を出した。
「ナイナさん! 今日もモンスターを倒しに行くのですか……!?」
2階から声を掛けられたナイナ。剣と盾を構え、明らかにこれから戦いに行く様子であった。
「シ、シルクさん……。は、はい。そうです……」
「気を付けてくださいねっ!」
「はい……ありがとうございます……!」
勇者ナイナは何やら神妙な面持ちをしている。戦いに身を投じる勇者様は、きっと毎日が命懸けなのだろう。シルクは、ますますナイナへの憧れの気持ちが強くなった。
勇者を見送ると、シルクは再び自分の部屋へと戻り、神への祈りを続けていた。
「……あ、もうこんな時間」
シルクが祈祷を続けているうちに、いつの間にか日が暮れ、部屋の中は暗くなっていた。
「はぁ……はぁ……」
突然、シルクの呼吸は荒くなり、落ち着かない様子で立ち上がった。
「そ、そろそろ行かないと……」
シルクはそっとアパートを出ると、どこかへフラフラと出掛けた。
アパートから少し離れた人通りの多い街中。その路地裏の影にシルクは息を殺して潜んでいる。街行く人々をじっくりと観察しているようであった。
「あ、あの人……い、良い感じかも……」
シルクは真面目そうな男性を見つけると、その男性に向かって駆け出した。
「あ、あの……」
「は、はい……?」
突然、シルクに声を掛けられ、キョトンとする男性。しかし、相手は僧侶なので、特に警戒している様子はなかった。
「あ、あの、少し案内したい場所があるのですが、ご都合よろしいでしょうか……?」
「は、はぁ……」
シルクにそう言われ、男性は言われるがまま付いて行った。
「お客様1名様入りまーす!」
「イエーイっ!!」
「え、えぇっ!?」
男性は困惑していた。シルクに付いていくと、ピンク色の照明で、従業員が全員いかがわしい布面積の少ない制服を着た、怪しいお店に案内されてしまっていた。
「あ、あのっ!? こ、これは一体? ここどこなんですか……!?」
「す、すみませんお兄さん……! わ、私、お客様呼び込むの苦手で……!」
シルクが申し訳なさそうに俯いたかと思うと、突然、今まで着ていた聖女の服を脱ぎ捨てた。
「ちょっ……えぇっ!?」
シルクは、布面積の少ない黒いビキニのような服を着ていた。背中にはコウモリのような翼、お尻には先端が矢印のようになっている尻尾が生えていた。
そして、下腹部には何やら怪しげな紋章が刻まれていた……。
「こ、ここ……。サキュバス喫茶なんです……」
「な、なん、だと……?」
騙されて連れて来られた男性は、拳を震わせながらシルクに迫っていた。
「僧侶さん……」
「は、はひっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい!
ちゃんと説明しなくて本当にごめんなさいっ!」
「……良いね!」
男性は満足そうな顔で親指を立てていた。清楚な僧侶が実はサキュバスだったというそのギャップにノックアウトされているようだった……。
(わ、私は元々普通の人間の僧侶だったのに……。ある日サキュバスに襲われたら、わ、私までこんな姿になってしまって……)
(もうこんな穢れた身体じゃ僧侶のお勤め出来ないっ! 恥ずかしい〜っ!!)
サキュバス化してしまったシルクは、仕方なく夜の仕事をしていたのだった。