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第27話 幹部襲撃編⑥

 幹部襲撃の翌日。魔王は、部下カルマに通信を繋いでいた。


「カルマよ。連絡が遅れてすまんな。魔王様もいろいろ忙しくて」


「それで、勇者の幹部との戦いはどんな感じだったのか、魔王様に報告してください」


『………………』


 投影されているカルマは何故か無反応だ。魔王は通信がカルマと繋がっているのか確認している。どうやらちゃんと繋がっているようであった。


「あ、あの。カルマさん? 聞こえていますでしょうか……?」


 カルマの様子を見ると、カルマは魔王のことを静かに睨んでいた。


(な、なんだ……? こんなカルマ今まで見たことないぞ……)


『…………泣いてた』


「…………え?」


『ナイナさん泣いてたッ!!』


「…………ッ!!」


 カルマは怒りを噴出させながら、魔王に向かって怒鳴り散らしている。


『怖がってたッ!! 震えてたッ!! 可哀想だったッ!! うぅッ!!』


 カルマはひと通り言い終えると、怒りの表情のまま涙を流していた。魔王は、可愛がっている部下のカルマに怒られて、衝撃を受けていた。


「…………そうか」


「すまない。カルマ……」


『………………』


 カルマは魔王の謝罪を受け流して、魔王を睨み続けている。


「これは言い訳にしかならないんだが……」


「魔王様はこの世界を良くしようと、日々、侵略行為に勤しんでいるのだ」


「悪事を働く影響力を持つ人間の元へ魔族を向かわせ、その人間をなんとか蹴落として、なるべく平和的に解決しようと奮闘しているのだ」


「そんな時、我々のことを邪魔するのが勇者なのだ……。勇者は魔王だ魔族だと、その肩書きだけで我々を断罪する」


「私は勇者が怖い。勇者は魔族やモンスターを倒すことに躊躇いがないのだ……」


「お前の友達のナイナもそうだ」


『えっ……』


 カルマは大人しく魔王の話を聞いていたが、ナイナの名前が出ると動揺しているようだった。


「ナイナは貧乏生活から逃れようと、大量のスライムを毎日無差別に殺している……」


「怖いと思わないか……?」


『そ、それは……そ、その……』


 カルマは今まで気付いていない様子だった。勇者がモンスターを倒す。そんな当たり前の光景に、感覚が麻痺していても不思議ではなかった。


「ナイナの事情も分かる。私も、彼女の境遇は気の毒に思う。スライムを殺してはいけないという法律もルールもない」


「世の中には狩猟という趣味もある。スライムは単細胞生物で感情もない。発生率も異常で、絶滅の心配もない。ナイナが間違っているとは言わない」


「だが、もしナイナが、魔王城に乗り込んで来るようなことがあれば、私は怖くてたまらないのだ……」


「だから私は、彼女がどんな人物で、どんな力を持っているのか。それをしっかりと見極めたかったのだ」


『ま、魔王様……』


 カルマは魔王の本意を知ると、複雑そうな表情を浮かべていた。勇者と魔王。2人の事情に挟まれ、何が正しくて何が間違っているのか、結論が出せないのかもしれない。


「カルマよ。しばらくゆっくり休みなさい。一旦監視生活のことは忘れて、カルマの好きなように生活しなさい」


「勇者と仲良く遊んでいても良い。これは私からのせめてものお詫びだ……」


 通信を切った魔王は頭を抱えていた。


「くそ……ゴーレオンの奴め……やはり手加減していなかったか……」


「あいつは幹部の中でも、比較的、私への忠誠心があると思っていたのだがな……」


「……カルマに嫌われちゃったかなぁ。はぁ……ショックだなぁ……」


 自分の実の娘のように可愛がっているカルマに怒鳴られ、魔王はかなりショックを受けていたのだった……。


   ◇


「魔王様……怒鳴ってちゃってごめんなさい……」


 カルマは魔王を怒鳴りつけていたが、結局、魔王のことを嫌いにはなれなかった。


「はぁ……」


 カルマは小さなテーブルに倒れるように突っ伏すと、溜め息をついた。


「もうどうしたら良いのか、分からなくなっちゃった……」


 精神的にかなり疲れていたカルマは、魔王に言われた通り、しばらくゆっくり休むことにした。

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