第25話 幹部襲撃編④
「カ、カルマさん……! 大丈夫ですか……!?」
カルマは魔族の幹部に殴られ、気を失ってしまっていたが、シルクの回復魔法のおかげでなんとか全回復することが出来たようだ。
「シ、シルクさん……。す、すみません……。ありがとうございます……」
ナイナは目に涙を浮かべながらカルマに抱きついた。カルマはそのまま静かにナイナに体を預けていた。
「良かった……!! カルマさん……傷跡も残ってない……!!」
あんな目に遭ったのに、ナイナはカルマのことを優先で心配していた。そんなナイナを見て、今までのこと全てが申し訳なくなってしまったカルマは、涙が止まらなかった。
「ごめんなさい……!! ナイナさん……!! ほんとに……ごめんなさい……ッ!!」
「良いんですよ……! 私のことは……!! カルマさんが無事で、本当に良かった……!!」
ナイナは、カルマが何について謝っているのか、その本当の部分は知る由もなかった。カルマは大好きなナイナに正体を明かし、嫌われるのが怖くてたまらなかった。そして、別れるのも耐えられない。結局、自分が魔族であることは言えなかった。
◇
一方。ここは魔王の城。
「帰ったか。ゴーレオンよ」
魔王の元へゴーレオンが帰還していた。プライドの高い彼は、岩の鎧を修復し、大きなダメージを受けていることを魔王に隠していた。
「で、どうだった?」
「………………」
勇者に自分の攻撃が通じず、凄まじい一撃を喰らい撤退しました。そんな情けないことを報告出来る訳もなく、ゴーレオンは黙っていた。その様子に魔王は少し苛立っていた。
「ゴーレオンよ……。お前ちゃんと手加減したんだろうな……?」
魔王はカルマがナイナと仲が良いことを知っていた。そんな彼女のことを想い、勇者の存在に怯えながらも、本当に少し実力を調査させるだけで済ませるつもりだったのだ。
「カルマに観察させていたのでしょう……。ならば、彼女から聞けば済む話です」
(何故こんな甘い男が我輩の、魔族たちの長なのか……)
ゴーレオンは魔王の意に背く行為の数々を犯していた。魔王の甘い考えに納得のいかなかった彼は、魔王が真実を知ろうがもはやどうでも良かったのだ。
踵を返し、ゴーレオンは魔王の部屋を後にした。
「よぉ。ゴーレオンさんよ」
魔王の部屋から離れた城の廊下で、骸骨の姿をしたアンデッド族の幹部がゴーレオンに声を掛けた。
「アンデックス……」
「見てたぜ……あんたがコソコソと岩の鎧を修復するところをよ……」
「あんたが戦った奴って、あのアパートに籠もって、スライムばっかり食ってるって噂のヘタレ勇者だろ? ハハハハッ! そんな奴にやられて逃げてきたのか」
「あんたも歳だからな。老いぼれてんじゃねぇか?」
「アンデックス……貴様……!!」
アンデックスに挑発され苛立つゴーレオン。その様子を見てアンデックスは満足そうに笑っていた。
「面白ぇから俺がそいつ潰してやるよ。あんたは一生負け犬のままだがな」
「それまでにしろ……それ以上減らず口を叩くなら、我輩が貴様を潰すぞ……!!」
「ぐッ……!?」
アンデックスの拳が、即席で修復された強度の薄い岩の鎧を貫通し、ナイナの剣でダメージを受けていた腹部を貫いていた。
「そんな手負いで俺に勝てると思ってたのかァ……?」
「貴様……魔王様の城内で……こんなことをしてタダで済むと思っているのか……!?」
「あんたと同じさ……。俺もあのヘタレ魔王が気に入らねぇ。そのうち寝首を掻いてやる」
致命傷を負ったゴーレオンは膝を付き、そのまま消滅してしまった……。
「ケケケケ……」
「おい。アンデックス」
「……ッ!?」
同胞を手に掛けた直後、急に名前を呼ばれ動揺するアンデックス。名前を呼んだ人物はこの城の主であった。
「ま、魔王様……? どうされました?」
「お前また誰かと喧嘩してないだろうな? いつも仲良くしろと言ってるだろうが」
「い、嫌だなぁ……してませんよ……」
「なら良いんだが……気を付けろよ。悪いことするんじゃないぞ」
魔王はアンデックスに注意すると、自分の部屋へと帰っていった。
「ふぅ……焦ったぜ……」
アンデックスは寝首を掻こうとしているが、魔王の実力には普通にビビっていたのだ。
「さっそく貧乏勇者の元へ行きてぇところだが、まずは“あっち”の様子を見てからにするか……」
魔王をやり過ごしたアンデックスは、勇者ナイナの元へは向かわず、どこかへと姿を消した。
アンデックスが向かった場所はとある小さな国であった。そこは魔族が制圧し、人間たちを魔族の好きなように管理していたのだ。
「げっ。アンデックスが帰ってきやがった」
この口の悪い少女は、カニの魔物の幹部キャンシー。人間の少女がカニの武装をしたような姿をしている。
「うるせぇ。キャンシー。サキュリー。どうだ? 様子は」
アンデックスは、国に留まり人間たちの管理をしているサキュバスの幹部、サキュリーに訪ねた。
「特に問題ないわ。大人しく言うこと聞いて可愛いものよ」
「それより、魔王様にここのことバレてないでしょうね?」
「あぁ。あいつ鈍いからな。そう簡単には気付きゃしねぇよ」
この国を制圧した幹部たちは、魔王に隠れて侵略行為を行っていた。魔王は、人間を力尽くで支配するような真似はしなかったのだ。
「悪事を働く人間と、勇者一行に限定して魔族の力を行使する」
「地位の高い人間がルールを破り、甘い蜜を吸い続ける。そんな腐った世の中を変えたい。それが魔王様の 世界征服の信念だからね」
「ケッ。くだらねぇ。なんで俺たち魔族がそんな馬鹿馬鹿しいことしなきゃならねぇんだ」
「侵略してぇ国や街を好きなように支配してこそ、魔族ってもんだろうが」
「それはアタシも同感!」
魔王の実力に関しては魔族たちから恐れられ認められているが、世界征服の信念に共感している魔族の数はかなり少なかった。魔王は裏で部下たちが好き勝手やっていることに気付いていなかったのだ。
「まぁ、魔王なんかどうでもいいぜ。とりあえず、しばらくこの国で遊ばせてもらうからな。よろしく」
「はいはい」
「アンデックスがいると死臭がスゲェから、さっさと魔王の城に帰ればいいのに」
「テメェはカニ臭ぇだろうが」
「ああん!? やんのか骨野郎が!!」
「うるさいわよ。二人とも」
アンデックスは自分たちが支配しているこの国に、しばらく滞在するのであった。




