第22話 幹部襲撃編①
スミヤス荘102号室で、魔王の命令により、勇者の観察を続ける魔族のカルマ。今日も今日とて、魔王はカルマと通信の真っ最中であった。
「カルマよ。最近どうだ。元気か? ちゃんとご飯は食べているか? 魔王様からの仕送りは足りているか?」
『は、はい。魔王様。お陰様で。アパートの人達ともどんどん仲良くなれて嬉しいです。えへへ……』
「そうかそうか。うんうん偉いぞ。ちゃんとご近所さんと仲良く出来て。さすが我が精鋭部隊の一員だ」
アパートで真面目に一人暮らしをするカルマ。そんなカルマを実の娘のように褒める魔王。実際に魔王はカルマのことを偉いと思って褒めてはいるのだが、それはちゃんとやって欲しいことがあるからである……。
「あの、それで、どうだ? 勇者は? 何か情報は分かったのか?」
『そうですね……。そういえば、最近分かったことがあります』
「ほ、本当か!? よ、よし! では何が分かったのか魔王様にしっかりと伝えてください」
魔王はとにかく勇者が怖い。いつ誰に自分の世界征服の邪魔をされるか恐れているのだ。そんな勇者の新しい情報。それはもう気になってしょうがなかった。
『勇者ナイナさん。彼女は貧乏で、いつもこの世に絶望したような言葉を繰り返し呟いていますが……』
『以前、ワタシがこのアパートが事故物件になったと思って怯えていた時があったことを、魔王様は覚えていますでしょうか……?』
「あ、あぁ。あの時か。よく覚えてるぞ。お家に帰られちゃうのかと思って、本気で心配していたからな……」
『それで、その時、魔王様の助言通り、勇者に相談しに行ったのですが……』
魔王は一体どんな情報が飛び出してくるのかと、身を乗り出しながらカルマの話に耳を傾けている。
『普段暗くて頼りなさそうなんですが、でも、いざとなると凄く優しくて。困ってる人のために何が出来るのか、いつも全力で考えてくれています』
『以前、通信機能付きのこの宝石を落とした時も、親切に拾ってくれて届けてくれました……!』
『ネガティブですが、私と話す時はいつも笑顔になってくれて……。笑顔がとても素敵で可愛いです。私はナイナさんのことが大好きです』
『以上です』
「…………え?」
カルマから得られた情報。それは、勇者は凄く優しくて、笑顔が素敵な可愛い人で、カルマは彼女のことが大好き。ということであった……。
「オ、オホン。そ、そうか……。え、えっと、カルマよ……。もうちょっと弱点みたいなこととか、どんな技を持っているかとか……。そういうことは分からないですか?」
『うーん……』
しばらく考え始めるカルマ。全く心当たりがなく困っている様子であった。
『私、ナイナさんが戦ってるところあんまり見てなくて……。だから全然分かんないですね……』
「そ、そうか……。なるほど……」
魔王は少し考え、監視体制に少し変化を与えようとしていた。
「では、今度、魔王様直属の部隊の幹部の中から適当な者を、勇者ナイナの元へ送り付けます」
「そして、彼女の戦いを観察して、弱点や必殺技などを探りなさい」
『……えっ!?』
『か、幹部の人をナイナさんの元に送っちゃうんですか……!?』
「まぁ、カルマよ。落ち着きなさい。勇者は強い。幹部の1人や2人ではそう簡単にやられるような存在ではないのだ。だから大丈夫だ」
『そ、そうなんですか……?』
「幹部の予定を調整し、日程が決まり次第、ナイナの元に襲撃専門の刺客を送ります」
「事前にカルマに知らせるので、その時は勇者の戦いがしっかりと観察出来る場所でスタンバイし、幹部との戦いを見届け、それを私に伝えてください」
「……ということだ。分かったか?」
『は、はい……分かりました……』
「よし。良い子だ。では頼んだぞ」
カルマとの通信を切ると、魔王は大きな溜め息をついた。
「大丈夫かな、カルマ……。あの子は本当にいろいろと世話が焼けるからな……」
◇
「うぅ……幹部がここに来るなんて……ど、どうしよう……」
予想外の話の流れに動揺するカルマ。幹部といえばもちろん強い。そんな相手と大好きな勇者ナイナが戦う。カルマの心の中は一気に不安でいっぱいになっていた。
「ナ、ナイナさん……本当に大丈夫なのかな……」




