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第21話 明るい少女の暗い顔

「ここが、スミヤス荘……?」


 築30年のオンボロアパート『スミヤス荘』。そこに、高価なドレスのような服を着た少女がやってきた。


「どうぞ! お部屋の中も確認してくださいね!」


 大家の少女オーヤに案内され、ドレスの少女は空室だった202号室の中をじっくりと見回す。まるで、遊園地に来たかのようなキラキラ輝いている眼差しだった。


「どうですか? 気に入りましたか?」


 オーヤが朗らかにドレスの少女に尋ねると、少女は満面の笑みで答えた。


「とってもオンボロですねっ!」


 ……ピキッ。そんな音が聞こえてきた。オーヤは笑顔を保とうと我慢しながら口の端をヒクヒクさせている……。


「そうですねぇ〜……。もう築30年ですから……」


「ほえ〜……」


「あそこもあそこも……あんなところまでボロボロで……うわぁ……これは凄い……」


 ドレスの少女はボロボロの箇所をひとつひとつ指を差して確認していく……。指を差されるたびにオーヤの頭には怒りの血管マークが浮かんでいるようであった……。


「気に入りました! ここに住みますっ!」


 ドレスの少女は満面の笑みでアパートを契約することを決めた。オンボロアパート『スミヤス荘』に、また新たな住人がやって来たのだ。


   ◇


 それからしばらく経ち……。


「なんだか隣の部屋から音が……」


 シルクが神に祈りを捧げていると、隣の部屋から家具を運び入れるような物音がするのが聞こえた。シルクは、何が起こっているのかと首を傾げながら壁を眺めていた。


「誰か入居されたのかしら……」


 シルクが様子を見ようとドアを少し開け顔を出す。体格の良い男たちが隣の部屋へ、アパートに入るサイズのやや小さな家具を運び入れている最中であった。シルクはドアを開けて道を塞いでしまい、男たちは家具を運べず困っている表情を浮かべていた。


「あっ、どうもすみません……!」


 それに気付くとシルクはドアを閉め、再び道を空けた。アパートの廊下が通れるようになると、男たちはエッホエッホと家具を再び運び始めた。


「今のは運搬業者さんですね……。やっぱり新しくどなたか引っ越してきたようですね」


 しばらく空き家だった隣の部屋に新しい住人が来て、シルクは楽しみ半分、不安半分といったところであった。今は気心の知れた少女3人(本当は4人)だけの生活で心地よく暮らしている。そこに新しい人物が来るとなると、緊張と不安な気持ちが芽生えるのは仕方のないことだった。


 しばらくすると音は止み、アパートには静寂が戻った。シルクがもう運搬の邪魔にならないか心配しながらそっとドアを開ける。すると、そこにはカルマが立っていた。


「あら、カルマさん……! こんにちは〜」


「シ、シルクさん、こんにちは……!」


 カルマは自分の真上の階の物音が気になり、2階まで様子を見に来ていたようであった。


「誰か引っ越してきたんですか……?」


「そうみたいですね……。やっぱりカルマさんも気になりますか……」


「はい……。こ、怖い人だったら、ど、どうしようと思って……」


「ふふ……そうですね……。少し不安になりますよね……」


 自分と同じように心配しているカルマを見て、仲間が出来た気持ちになり、シルクはなんだか安心していた。


 そんな話をしている時であった。


『バンッ!』


 202号室のドアが思いっきり開いた。怖い人ではないかと心配していたシルクとカルマは、勢いよく開いたドアで心臓が飛び出そうになっていた……。


「シ、シルクさん……!」


「だ、大丈夫ですよカルマさん……! ちゃ、ちゃんとご挨拶すれば……」


 カルマがシルクに抱き付きガタガタ震えている。シルクも思わずカルマを抱き締めてしまい、お互い抱き締め合って震えていた。


「こんにちは〜っ!」


 そんな2人を嘲笑うかのように、綺麗な洋服を着た明るい髪色の少女が、元気良くひょっこりと姿を現した。


「は、はい。こ、こんにちは……」


 抱き締め合っているシルクとカルマは同時に挨拶した。その様子を少女はしげしげと眺めている。2人は勘違いされる前に慌てて体を離した……。


「あっ。ご、ごほん。わ、私は201号室に住んでいるシルクと申します……!」


「ワ、ワタシは下の102号室に住んでいるカルマです……。は、初めまして……」


「…………!」


 少女は2人の自己紹介を聞き終えると、目を輝かせながら前のめりになっていた。


「お隣さんっ!」


「は、はいっ!?」


「真下の人っ!」


「ま、ましたのひと……」


 少女は純粋無垢な笑顔で指を差しながら、自分と2人の関係を確認していた。


「うわぁ〜感激ですっ!! みなさんが同じアパートに住む一般人の方々なんですねっ!」


「い、いっぱんじん……」


 目を輝かせながら微妙に失礼なことを言う少女。悪い女の子には見えなかったが、またひとクセある少女であることは間違いなかった……。


「わたくしはプリズムと申します! みなさん! なにとぞよろしくお願いいたします!」


 自己紹介を終えると、プリズムはアパートの部屋の数を確認し始めた。全部で6部屋。その中の101号室が気になるようであった。


「あちらには、どなたが住んでいらっしゃるんですか!?」


 そこに住んでいるのは今、スライムを狩りに出掛けている人物であった。


「あそこはナイナさんという方が住んでいますよ。勇者ナイナさん」


「ゆ、勇者……!?」


 今まで弾けるような明るさを見せていたプリズム。しかし、勇者という言葉を聞いた途端、彼女の顔は暗くなってしまった。様子のおかしい彼女を心配してシルクは声を掛けた。


「ど、どうされたんですか……?」


「あ、いえ……! な、なんでもありません……。し、失礼します……」


 突然元気をなくし、部屋に入っていってしまったプリズ厶。シルクとカルマはその様子を不思議そうに眺めていた。


   ◇


 部屋に戻ったプリズムは一人、何かを悩んでいた。


「このアパートに勇者様がいる……」

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