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第2話 転職と謎の僧侶

 スミヤス荘。そう書かれた看板が控えめに取り付けられている。築30年2階建てのオンボロアパート、その101号室に貧乏勇者ナイナは住んでいた。


 ナイナは雑誌を読んでいた。騎士。魔法使い。大道芸人。盗賊……多種多様な職業が書かれている職業案内の雑誌であった。


「転職するか……」


 いつまで経ってもうだつの上がらない貧乏勇者生活を続け、彼女の心は完全に死んでいた……。


「やっぱり勇者って、もっと人望があってキラキラした人じゃないと務まらないと思うんだよね私……」


「もうこの際、勇者御一行の一員として、再スタート

しようかな……」


 勇者を辞め、転職する決意を固めようとするナイナ。だが、彼女の脳裏に両親の顔が浮かんでいた。


『ナイナ、勇者になるの? 凄いじゃない! 私は、あなたはきっと選ばれし存在になるんじゃないかってずっと思っていたんだから……!』


『うぅっ! 父さんと母さんのことは心配するな……! お前は立派に、自分の使命を果たして来い……!』


 勇者として一人暮らしを始める前のことを思い出していた。その後、ナイナは自宅から遠い地のボロアパートを借りて、現在に至る。


「お父さん……お母さん……」


 自分に期待していた両親の姿を思い出してしまったナイナは、胸が締め付けられるような気持ちになり、勇者を辞める踏ん切りがつかなかった……。


「いつまで私はこんな生活を……」


 冒険に行くでもなく、ひたすら近所の雑魚モンスターを狩り続ける自分に、ナイナは嫌気が差していた。しかし、そんなことを言っても現実は無情だ。


「お金……稼ぎに行かないと……」


 気力をなんとか振り絞りながらフラフラと立ち上がり、剣と盾を装備すると、ナイナは今日のスライム狩りへ出掛けようとしていた。


「あ、ナイナさん。こんにちは〜」


「あ、シルクさん。こんにちは……」


 2階の201号室、ナイナの部屋の真上に住む僧侶の少女、シルクとアパートの階段の前で偶然鉢合わせていた。


「今日もモンスター倒しに行くんですか? さ、さすが勇者さんですね……!」


「あ、いや……ま、まぁ……」


 一方的にスライムを狩りに行くだけのナイナは、シルクの視線が気まずくて仕方なかった。シルクは勇者ナイナに憧れているようであった。ナイナはそのことに気付いており、彼女をガッカリさせたくないと勇者として振る舞うことを続けていたのだった。


 シルクはサラサラの美しく輝く髪と綺麗な聖女の格好で、いつも眩しかった。あまりにもこのオンボロアパートに似つかわしくない存在感を放っていた。


(な、なんでシルクさんはこんなところに住んでるんだろう……)


(い、いや……こんなところなんて言ったら大家さんに失礼だ……。ご、ごめん大家さん……私もお世話になっているのに……)


 ナイナはシルクの事情が気になりつつも、完全に余計なお世話なので聞くことも出来ず、シルクは謎の僧侶として、いつまでのナイナの心に引っ掛かっていた。


「あ、ナイナさん。私これから用事がありますので失礼しますね……」


「あ、シルクさんいってらっしゃい……」


 そう告げると、シルクはそそくさとどこかへ出掛けていった。その背中を不思議そうに見つめるナイナ。


「シルクさん……いつもど、どこに行ってるんだろう……」


 気になりながらも、ナイナはお金を稼ぐため、今日もいつもの平原へと移動するのだった。

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