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第19話 拾われた魔王

 異世界のアパート『スミヤス荘』103号室に住む魔王の手先カルマ。魔王の命令で勇者の監視生活を送っている彼女だが、今日は天気が良いので、アパートに申し訳程度に備え付けられている小さなベランダで洗濯物を干していた。


「よく晴れてて気持ちいいなぁ……。これならすぐ乾くかな……」


 洗濯物を干し終え、カルマが部屋に戻ろうとした時であった。首からぶら下げているチェーンがベランダの柵に引っ掛かり、チェーンが千切れ宝石が落下してしまった。


 その宝石は、魔王との通信手段として使われるカルマにとってもっとも大切な物だ。しかしカルマは、宝石が落下したことに全く気付いていない。


「ちょっと疲れちゃった……」


 洗濯物を干し終え、なんとも言えない疲労感と暖かな陽気で心地よくなった様子で、そのままカルマはウトウトとうたた寝を始めてしまった。


   ◇


「今日も良い天気だし、仕方ないからスライム狩り行くか……」


 勇者ナイナが家賃と生活費のため、憂鬱な気持ちを引きずりながら、剣と盾を装備して自室から出て来た。


『ピロリロリン♪ ピロリロリン♪』


「ん? なんだこの音……?」


 ナイナが平原へ出発しようとした時であった。アパートの裏から微かに軽快な音が聞こえてきた。


「アパートの裏からかな……」


 今まで聞いたことがない謎の音の正体が気になり、ナイナはどこから聞こえて来るのか確かめようと、音の方向を耳を済ませて探る。


「カルマさんのベランダから……?」


 カルマの部屋の裏にある小さなベランダ。その外側に綺麗な宝石が落ちていた。音の正体はその宝石からだったのだ。


 ナイナは恐る恐る、その宝石を拾い上げる。


「なんだろうこの宝石……って、これあれか……! カルマさんがいつも首からぶら下げてる奴だ!」


 見覚えのある宝石にナイナはすぐに持ち主を特定する。


「これきっと落としちゃったんだ……。届けてあげないと……」


 宝石を握り締めたナイナの指は、宝石に仕込まれているスイッチを押し込んでいた。


   ◇


「カルマよ。私だ。どうだ調子は?」


『え……?』


「え……?」


 魔王はいつもと様子が違うことに気付いた。いつもはカルマの部屋の中が映るように映像が壁に投影されるのだが、今回は魔王から見える景色が地面を向いていたのだ。


「ど、どうしたカルマよ……? なんか映像が変だぞ……?」


『あ、あの……カルマさんのお知り合いの方ですか……?』


「えっ……!?」


 宝石から謎の男性の声が聞こえ、ナイナは困惑している様子だった。宝石の映像は空を向いているので、ナイナから魔王の姿は見えていなかった。そして魔王は、カルマの声とは違う少女の姿が見えたので焦り始めた。


「あ、あの……えっと……。つかぬことをお聞きしますが……ど、どちら様でしょうか……?」


『あ、すみません……私、カルマさんの隣に住んでいる勇者ナイナと申します……』


「ええええええ!?」


 魔王は飛び上がって驚いていた。カルマに勇者の報告を聞こうと通信したはずなのに、勇者に直接通信が繋がってしまったのだ……。


『あ、あの。どうかされましたか……?』


「あ、いえ……ナ、ナイナさんのことはカルマからよく聞かされていたので、まさか、こうしてお話出来るなんて思っていなかったもので、それでつい嬉くなりましてな……!」


『そうだったんですね……! な、なんだか照れますね……』


『それでえっと……あなたは、カルマさんのお父さんですか……?』


「あっ!! そうなんですよ!! 私、お父さんなんです!! いつもウチの娘が本当にお世話になっておりますゥ!!」


『いえいえ、私の方こそカルマさんにはいつもお世話になっていて、いつも挨拶してくださいますし、礼儀正しくて心優しい素敵なお嬢さんですよ……!』


「娘のことをそんなに良く言ってくださるなんて……。父親冥利に尽きますな……」


 ひと通り魔王と挨拶を交わしたナイナは、カルマの通信用の宝石をしげしげと眺めていた。


『この宝石って通信出来るアイテムなんですね……。私、こんなアイテム見たことなくて……珍しいですねぇ』


「えっ!? いやまぁ……! なんというか、カルマは普段からぼーっとしていて頼りなくて危なっかしくて……! それで、心配になった私が特注で作らせて、娘にいつも肌身離さず持たせているという訳なんですよ……! ガハハハハ!」


『そうなんですね……! 確かにカルマさんはどこか不思議な雰囲気というか……。外見は大人っぽいのに中身は子供っぽくて……いつも可愛いなって思ってるんです!』


「そうですよね! あの子はいつまでも子供っぽくて……! 親としては心配なんですが、その可愛さがあの子の長所と言いますか……。例えば、どこかに潜入させても全然怪しまれないと言いますか……」


『え……? せ、潜入……?』


「えっ!? いやあのっ!! どこにいても子供っぽいと先入観を持たれてしまうので心配なんですよねェ!!」


(カ、カルマよ! どこにいるんだ!? この状況、早くなんとかしてくれ!)


 魔王はいつまでも勇者と会話し続けなければならず、ボロを出してしまわないかとハラハラしていた。


「魔王様〜。この書類に目を通して欲しいのですが」


 魔王がハラハラしていた時であった。魔王の部屋の外から、思いっきり部下が魔王の名を呼ぶ声が入ってしまった……。


『え……? ま、魔王様……?』


(マ、マズい……!!)


 絶体絶命の魔王。頭を高速回転させ、なんとか誤魔化そうと口からでまかせを放つ。


「魔を追う様の書類……! あぁ! 魔族を追うハンターの話か! 分かったすぐに行く!!」


「す、すみません!! ナイナさん!! 仕事の話が入りましたので私はこれで!!」


「あの〜? 魔王様〜? いらっしゃらないのですか〜?」


「魔を追う様な!! 分かったから!! お前はもう黙れっ!! で、ではナイナさん!! 失礼しますっ!!」


   ◇


 カルマの父は何故か慌てながらそのまま通信を切った。ナイナはポカンとしながらも、カルマの父と会話が出来たことを喜んでいた。


「カルマさんのお父さんって、なんか元気で面白い人だなぁ……」


 その後、ナイナはカルマの部屋の呼び鈴を鳴らし、うたた寝をしていたカルマは目を覚ます。そして、無事カルマの元へ宝石は戻ったのであった。

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