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第16話 実はいた忍者

 スミヤス荘203号室。そこに住む忍者のウスメは独り言ちた。


「アイリス殿が去ってしまい、ほんと寂しいですね……」


「事故物件騒動の時は、拙者もずっと冷や冷やしていましたよ……」


 ウスメは忍びの装束から日記帳を取り出すと、そこに今までの出来事を書き記した。


「ナイナ殿は、勇者として再び立ち上がれる日は来るのか……」


「カルマ殿は、魔王殿の命令通り、勇者の秘密を握ってしまうのか……」


「シルク殿は、皆にずっと隠しているサキュバスの秘密を隠し通せるのか……」


「まだまだ心配事は尽きませんけどね……」


 忍者の少女ウスメは、今まで起きた事件や住んでいる人物のことを全て把握していた。


 しかし、ウスメが、この203号室に住んでいることは、大家を除いて誰も知らない。


 いや、大家すら忘れているのだ……。


「拙者はいつも、アパートのみなさんとコミュニケーションを取ろうと躍起になっているんですけど……」


「職業病で、気配を常に消してしまっているせいで、影が薄くて誰からも気付かれないんですよね……」


 実はウスメは、頻繁にナイナたちの近くをウロウロしているのだが、誰一人彼女に気付く者はいなかった。


「……なんかこのシチュエーションすら、透明化してしまったアイリス殿と被ってますし……」


「せ、拙者の個性はどこに……」


「大家殿に至っては、家賃の回収に来るの忘れて家賃払いたくても払えませんし……」


 ウスメは3000G(ガネット)が入った袋を手に持つと、家を出ようと立ち上がった。


「気付かれないとはいえ、家賃も払わずこっそり住み続けようなんて、そんな真似は出来ませんし……」


「とりあえず、まずはなんとか大家殿に家賃を受け取ってもらわなければ……」


 ウスメは、アパートから少し離れた大家のオーヤの家へと向かった。


『ピンポーン』


「大家殿ー。すみませーん。ウスメですー。203号室の忍者のウスメでーす」


「家賃受け取ってくださーい」


「…………」


 呼び鈴を鳴らしたにも関わらず、大家は何故か出て来ない。しかし、ウスメはこの状況に慣れていた。


「呼び鈴の気配すら消すとは……。拙者の影の薄さはどうなっているんですか一体……」


「大家殿ー。ほらー。ウスメですよー。超プリティーウーマンのウスメでーす。B84 W54 H83でーす。ほらー。そこそこスタイル良いでーす。恥ずかしいでしょー? この情報ー?」


 ウスメはなんとか存在感をアピールしようと個人情報を暴露し始めた……。


「…………」


「で、出て来ない……」


「女の子がスリーサイズ暴露してるんですよ……? 普通、存在感出るでしょうが……」


「えっと……じゃ、じゃあ……。い、一発芸やりまーす」


 ウスメは風船を取り出すと、頭に血が上りそうになりながらも思いっきり膨らませ続けた。


『バァンッ!!』


「ゼーッ……ゼーッ……! 肺活量だけで風船を割りました! 拙者、今、肺活量だけで風船割りましたよ……! 凄いでしょ……!?」


「…………」


「あ、あの……す、すみません……。今のは拙者もなんか違うなーって思ってました……変な物見せてごめんなさい……反省してます……」


「いや、大家殿、お願いですから出て来てください……!! 毎回こんな存在感アピールするの大変なんですから……!! 」


「……いやぁ、今日もナイナさんは家賃払ってくれませんでしたね……」


「あれ……? ウスメさん……? 何やってるんですかそんなところで……?」


「…………え?」


 大家が突然、ウスメの背後から姿を現した。気付かないのではなく、大家は元から家の中にいなかったのだ……。


「あ、その手に持ってるの来月の家賃ですよね? 受け取りますね」


「ありがとうございます〜。それじゃまた来月も

 よろしくお願いします〜」


 あっさり家賃を受け取ると、大家はさっさと家の中へ入って行った。


「…………拙者も帰るか」


 無駄なことをしていたウスメは虚しい気持ちに包まれながら、自室へと戻った。

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