第11話 事故物件編③
『ピンポーン』
「ジュルジュル……」
勇者ナイナの部屋の呼び鈴が鳴らされた。ナイナは聞こえないフリをしながら、スライムそうめんを啜っている。
「わ、私、今食事中だから……。これは居留守じゃないから……」
大家がまた家賃を取り立てに来たのだと思い、精神力が続く限り、居留守を決め込もうと思っていた時であった。
「ゆ、勇者さん。ワタシです……! カルマです……!」
「カ、カルマさん……!?」
ナイナの部屋を訪ねたのは大家ではなく、お隣さんのカルマであった。カルマが自分の部屋を訪ねるなんて初めてだったので、ナイナは何事かとすぐ玄関に駆けていった。
「ど、どうしたんですか? カルマさん、何かあったんですか? 」
カルマは青白い顔をしながら、俯き加減で立っていた。何か言いたそうだが、なかなか言い出せないような雰囲気だった。
「あの……。立ち話もなんですから、どうぞ、上がってください……」
「い、良いんですか……? すみません……。お邪魔します……」
◇
カルマはナイナに招き入れられ、家の中へと入った。初めて勇者の部屋の中に入ったカルマは、しげしげと中の様子を眺めていた。
(こ、これが勇者の部屋……。部屋の中も特に言うことのない普通の部屋だな……)
(ハッ!? ワ、ワタシったら、いつものクセで……!)
相談しに来たのに、つい日頃の監視生活のせいで、勇者の部屋をジロジロ見てしまったカルマ。頭を切り替え、ナイナに向き直る。
「あ、あの……ナイナさんは“あの事件”ご存知ですよね……」
“あの事件”と言われナイナはハッとなった様子であった。“あの事件”はみんなに衝撃を与え、特に大家は、あれ以来寝込んでしまうほどショックを受けていたのだった。
「う、うん……知ってるというか、私も大家さんと一緒に、現場に最初に踏み込んだから……」
「本当に酷い状況だったよ……。だ、だって跡形もなく吹き飛んでたんだから……」
「うっ……」
カルマが口を手で押さえ、吐き気を堪えようとしている。その様子に気が付いた様子のナイナは、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「ご、ごめん。カルマさん……。想像しちゃったよね……」
「い、いえ……それでえっと……。“あの事件”以来、ワタシの隣の部屋でずっと変な音がするんです……」
「へ、変な音……?」
「柱が割れるような音とか、壁を強く叩くような音とか……。夜になると、女の子が“出して”とか“助けて”とか言ってる泣き声がき、聞こえてきて……」
「そ、そんな……」
そのことを思い出し、カルマはガタガタと震えていた。ナイナはあまりにも恐ろしい怪談を目の前で話され、血の気が引いているようだった……。
「そ、それってやっぱり……か、“彼女”なんですかね……?」
「だ、だってその怪現象が起こり始めた時期と、“あの事件”が起きた日がピッタリ一致するんですよ……」
「う、うーん……なるほど……」
ナイナはその現象を確認していないので少し半信半疑に見えたが、カルマの様子を見て、カルマの話を信じてくれたようだった。
「で、でも私、お、お化けとかどうすることも出来ないよ……!?」
「勇者さんでも無理なんですか……」
(魔王様……話が違うじゃないですか!)
ナイナはしばらく考える……。心当たりがないか探っている様子だった。
「心霊とかそういうスピリチュアルな物に詳しそうな人なんて、そんな都合よく近くにいる訳……」
「……あ」
「シルクさん……! 彼女は僧侶さんだよ! 神様にいつも祈りを捧げてるって言ってたし、絶対そういうの詳しいよ!」
「な、なるほど……!」
カルマとナイナはさっそく、シルクを頼ろうと2階への階段を足早に駆け上るのだった。




