第10話 事故物件編➁
スミヤス荘102号室。魔王の刺客カルマは、今日もナイナの監視を続けていた。
『なんで私はこうなんだろう……』
「勇者……今日もいつも通りネガティブなこと言ってる……」
魔王の部下カルマが、いつものように、魔王の命令で勇者ナイナの部屋を盗聴している時であった。
『パキッ』
「……え?」
突然、ナイナの部屋とは反対の隣の部屋から、乾いた音が響いた。
「な、なんの音だろう……」
「アパートに使われてる木材の音かな……」
カルマは音が気になりながらも、魔王の命令なので仕方なく、勇者の部屋の盗聴を続けた。
『パキッ。バキッ』
「お、音が気になる……。こんな音、前はしなかったのに……」
カルマは謎の音が気になり、盗聴に集中出来なくなっていた。
「今日はここまでにしよう……」
カルマは盗聴を切り上げ、一息つこうとしていた。
『ドンッ!』
「うわっ!?」
隣の謎の音は、柱の割れるような音から、壁を強く叩くような音に変わっていた。
「な、なんなの……。こ、怖いよぉ……!」
カルマはすっかり怯え、部屋の中で耳を塞ぎながら震えていた……。
そして日が暮れ、怯えているカルマは、今日はさっさと眠ることにした。
「……ほんとあの音なんだったんだろ」
気にしすぎているだけだと、そう自分に言い聞かせながら、カルマは布団を敷いて就寝しようとしてた。
『うぅ……ぐすっ……』
「…………え?」
薄っすらと、少女の泣き声のような音が聞こえ始めた。カルマは気のせいだと思い、そのまま眠りにつこうとする。
『出して……ここから出してよぉ……』
「ヒッ……!?」
今度はハッキリと聞こえた……。明らかに少女が泣いている声が、隣の部屋から聞こえている。
「そ、そんな……。と、隣には“誰もいないはず”なのに……」
『助けて……誰か助けてぇ……!』
「ひぃいいいいいっ!?」
カルマは布団を頭から被ると、そのままガタガタと震えていた……。その声は朝まで止まることはなく、カルマは一睡も出来なかった。
翌朝。
カルマは魔王からの通信に出ていた。
『どうだカルマ。何か勇者の情報は分かったか……?』
「うぅ…………」
『ど、どうした……? 顔色が悪いぞ? 何かあったのか?』
魔王がカルマの異変に気付いた様子で、心配する素振りを見せている。その優しさに触れ、弱りきっていたカルマはもう限界だった。
「ま、魔王様ああああああっ!! うわああああああんっ!!」
『ど、どうしたカルマ……!? お、落ち着きなさい……。ほら……! 魔王様がちゃんとお話聞いてあげるから……!』
カルマが泣き出し慌てる魔王。なんとかなだめようと、必死に優しい声を掛けている……。
「ひぐっ……。ぐすっ……。こ、このアパート……」
「じ、“事故物件”になっちゃいましたぁ……!!」
『えぇっ!?』
予想外の展開だったのか、魔王は間抜けな声を上げてしまった。カルマは泣きながら、この部屋で何が起きているのか魔王に説明し始めた。
「昼間は、ず、ずっと隣から変な音がするし、夜中は女の子の泣き声が聞こえて来るし……!!」
「ワ、ワタシもう限界です……!! お家に帰りたい……!!」
『ちょ、ちょっと待ちなさい……!!』
魔王に勇者の調査を命じられているカルマは、ガチ泣きしながら帰りたがっている……。そんなカルマの様子に、魔王は汗だくになりながら困っている様子である……。
『そ、そうだ! カルマ! 勇者に助けを求めなさい……!』
「えっ……!?」
『勇者は勇敢で、心優しく、困っている人を助ける
頼れる存在だ……!』
『勇者ならきっと、なんとかしてくれるであろう……!』
何故か監視対象の勇者に、厚い信頼を寄せている魔王……。カルマは訳が分からないと思いながらも、実際、頼れるのはアパートの住人くらいしかいないので、魔王の言う通り、勇者ナイナに頼ることにした。
「わ、分かりました……。勇者に相談してみます……」
『よし、良い子だ……。また何か困ったことがあったら、いつでも連絡しなさい……』
「は、はい……魔王様……。ありがとうございました……」
カルマは通信が切れたのを確認すると、足早に、勇者ナイナの部屋へと向かうのだった。




