あるギルドメンバーの遺書~アルファルドside~
本作は、少し前に日間ランキング2位・月間9位をいただきました「あるギルドメンバーの遺書」という短編 https://ncode.syosetu.com/n4695hi/
と、その短編シリーズ https://ncode.syosetu.com/s9750g/
の続きになります。
単体でも楽しめるようになっている作品ですので、お気軽にお楽しみください。
「今でも憎い」と、そんな言葉から始まった――これは彼の手記である。
とあるギルドに所属していた戦士のアルファルド。自害した青年の親友だったはずの彼は、乱雑なメモ帳にこれまた乱雑な字で綴る。
右利きのはずなのに左手で書かれたそれは、1月10日、「彼」の遺書が見つかって少し経った頃から始まっていた。
・・・・・・・
1月10日
俺とあいつが出逢ったのはこのギルドが出来る前。
まだエルザとあいつしか居ない頃だった。
エルザは有名な魔導師だった。こう言っちゃなんだけど見た目も綺麗で能力もあって、最初から誰もが彼女に目を奪われていた。
そのエルザと親しげに話しているあいつに自然と目が向くのは当然だった。だがあいつの場合はポジティブな感情じゃない。いわゆる負の気持ちというやつだ。嫉妬、と、人はそう呼ぶんだろう。
勿論、嫉妬なんてただみっともないだけだ。俺はその感情は全部封印して、あくまで仲間として接していくつもりでギルドに入った。力がある奴の周りには力がある奴が集まって、……まぁ上手くいってたよ、最初は。
最初に歯車が噛み合わなくなったのはオーディンとあいつだった。ミーシャに関して何か……まあ、俺は知らないが何かがあったらしい。オーディンは直情的なところがあったから、あいつの言葉は聞かずにただひたすらに責めた。責めただけでなく、露骨な嫌がらせも行っていた。
オーディンは勇者だ。
勇者ってのは、つまり特攻隊のようなもので――少なくとも俺達のギルドではそうで、同時に先見隊でもあった。オーディンがいないと敵影が分からないから、ギルドでは自然とオーディンに味方する空気ができつつあった。
あいつは全ての能力が高いが派手な戦いはしなかったから、どうしても地味に見えたんだろうな。実際は下支えになっているのがあいつだったわけだが、それに気付いた時には遅かった。
だが今、身に染みて思うよ。能力なんて関係なかった。
たとえあいつが何もできない奴だったとしても――あの選択自体が間違っていた。
あの時俺達は、ちゃんと話を聞くべきだったんだ。今更何を言っても遅いけれど。最初からオーディンの誤解だったと知ったのは、本当につい最近だ。
エルザがどうして幼馴染を虐げようと思ったのかはわからない。ただ俺は、エルザの蛮行、例えば街の女性に怪我をさせようとしたり、店から無断で金品を奪うようなことをしているのを知っていた。
その女性や店は悪人であると聞いていたから、俺もオーディンもミーシャも寧ろ良いことだとすら思っていた。だがあいつは一人だけ注意していて、エルザと大喧嘩になっているのも見たことがある。
愚かなことだが、俺はその頃にはすっかりエルザの方についていた。あいつが嫌いになったわけじゃない。ただ、「これは正しいことなんだ」と本気で思っていたんだ。怪我させるのも食事を抜くのも、本当に全部あいつのためだった。
あいつは確かに体躯には恵まれてなかったから。
痛みを与えれば反動で強くなると聞いていたから。
飯を抜けば反動で力がつくと聞いていたから。
俺はずっと善意だった。
まさか追いつめてるつもりなんてなかった。今更何を言っても遅いけど。
そしてあいつは自殺した。
エルザはそこでようやく本性を現した。仮にも幼馴染が死んだのに、エルザは迷惑そうに舌打ちしただけだった。まるで部屋で害虫が死んでいたときのような顔で。
そして終焉魔術――その製作者。俺はそこでようやく、ついていく相手を間違えたことに気付いたんだ。せめて葬った方がいいという言葉はあっさり流され、エルザは最悪を選んでしまった。
だがその時でさえも、俺は止めることができなかった。力づくなら止められたはずなのに。
魔石を掘り返しに行った俺達は、あいつの遺書を見つけた。
遺書を読んで、あいつは、俺達が絶望しているだろうと言った。……それも間違いじゃない。確かに絶望はした。
だけど俺はそんなことより、ずっと強く感じていたんだ。読めば読むごとに強くなっていく感情――不可解なくらいどうにもし難い、歓喜を。
誰もが一度は思ったことがあるだろう。こんな思いをするなら世界なんて終わっちまえばいいのに、と。
まあそれを実行に移したのがあいつだったわけだが。俺も思ったことがたった一度だけある。あいつが自殺したと知った時がまさにそうだった。
全てまやかしだと知った時、つまり洗脳されていたと分かった時だ。
あいつは能力は派手じゃなかったが、少なくとも良い奴だった。そういえば、戦士として行き詰っているときに一番相手をしてくれたのはあいつだった――
エルザを怨む資格が、果たして俺にあるだろうか? エルザの心理操作に掛からなかった下宿屋の娘や違うギルドの魔導師を前にそんなことが言えるだろうか。
だから俺は戦士としての死を選ぶことにした。
右腕は、近い死を悟った冒険者どもに斬られたことになっている。
本当は自分で斬った。俺はもう戦えない。
戦えない戦士など不要だ。
たとえ終焉魔術が無害化されても、この先に進むことはもうできない。たとえ進むとしてもその先は闇、つまりエルザ達を追う道のりでしかない。今でも憎い自分自身と、エルザ達を。
これが俺の結末だろう。これでいい。
この結末が、また新たな過ちを生まなければいいけれど。
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よろしくお願い致します。
※ミーシャ&オーディンside投稿しました