満天の星空の下で
ヴァーリを少し周回し、俺とローザは屋敷へ戻った。
玄関前にはアルフレッドの姿があり、頭を下げていた。
「お帰りなさいませ、主様。それにローザ様も」
「ただいま。さっそく防衛を果たしたぞ」
「伺っております。なにやら、街の方でダークエルフが現れたとか」
「早いな。もう知っているのか」
「ええ、私の眼帯の方の目は“遠見”となっているのです。失礼ながら、状況を拝見させていただきました」
遠見、つまり遠くの出来事を見られる能力スキルってところか。便利な目を持っているんだな。
このアルフレッドという執事、やはり只者ではないな。
「そうか。それなら話は早い。とりあえず、何とかなりそうだな」
「いえ、今日は様子見に来たのでしょう。ダークエルフの力は、あんなものではございません」
「詳しいな」
「ええ、何度かその力を目の当たりにしておりますから」
「詳細をそのうち教えてくれ。今は食事にしたい」
「既に準備は整っております。こちらへ」
屋敷に入り、食堂へ向かった。
辿り着くとすでにミランダや三姉妹がいた。
「戻ったぞ、ミランダ。それに、三姉妹の方達」
「アビス様~! お待ちしておりました。もうご飯出来ていますよー!」
テーブルには、豪華な料理が並べられていた。ドラゴン肉、高級野菜、レインボーフィッシュの刺身とかジャイアントクラブの料理とか――豪華すぎてビックリした。
「これ、アルフレッドが全部!?」
「今日は特別な日でありますから、腕によりをかけさせていただきました」
かけすぎだろう、これは。
いや、嬉しいけどね。
こんな何十種類の料理が並べられているテーブル風景は、初めてだ。
それに、こんな大人数で一緒に食事というのも初めての経験だった。
俺は専用の席に着く。
隣にローザが座る。
「わぁ、アビスさん。良い匂いですぅ」
「そうだな。これほど色彩豊かな料理は初めてかもしれない」
ないわけではないが、ここまでとは恐れ入った。
さっそくナイフとフォークを手に取り、ドラゴン肉を切っていく。
柔らかい。
圧倒的な柔らかさ。
それに赤身が鮮やかだ。
ミディアムレアなのか、これは!?
このまま食して大丈夫なのかなと心配になるけど、俺は勇気を振り絞ってパクっと食べた。
口の中で肉が蕩けた。
「んまっ!!」
「アビス様、アビス様。このお肉、すっごく美味しいです!!」
あのミランダも目をキラキラ輝かせていた。
後に続いてローザも肉を切り分け、ゆっくりと口へ運んだ。すると、ローザは涙を流した。
「素晴らしい味付けですね、アルフレッドさん。真心を感じます」
料理スキルの高いローザが認めるほどか。
アルフレッドの料理スキルもカンストしているのだろうな。
三姉妹たちも上品に食事を進めていた。
こんな楽しい食事は初めてだ。
▼△▼△▼△
――食事を終え、俺はひとり庭に出た。
満天の星空。
煌めく銀河。
涙のような流星。
このヴァーリから見上げる空は美しい。
「アビスさん、ひとりでどうしたのですか」
「いやぁ、星が綺麗だなって」
「ええ、こんなキレイな夜空は中々見れません。この辺境の地だからこそかもですね。山も近いですし」
「ずっと平和が続けばいいのにな」
「本当ですね。でも、それが難しいのでしょうね」
「かもな。けど、それでも俺はこの街を守り続けていくよ」
「はい、わたしもアビスさんを支え続けていきます」
手を取り合っていると、ミランダも現れた。
「あー! 二人ともずるいです」
「ミランダ、すまんすまん。別にのけものにするつもりはなかったんだ。ちと、夜の風に当たりたくなってな」
「わたくしもです。ご一緒していいですか?」
「ああ、もちろんだ。ここにベンチがあるし、座ろう」
ちょうど三人座れる椅子があった。
そこへ座り、俺は女子に挟まれた。
「ローザ、ミランダ……近いな」
「いいんです!」
「構いませんっ」
二人が良いというのなら、良いのか。
さっきまで少し肌寒かったけど、今は体温のおかげか燃えるように暑かった。
ローザもミランダも体温が高い。
ローザが俺の手を握ってくる。
ミランダも対抗するように俺の手を握る。
「二人とも……」
「初日の夜ですから、ちょっと羽目を外すくらいいではないですか」
「ローザ様の言う通りです。わたくしも、少しは素直になりたいのです」
二人に手を握られ、
俺は心臓のドキドキが止まらなかった。
美しい夜空を見上げながら、二人に囲まれるこの状況。俺はなんて幸せ者なんだ。
思えば、碌な人生ではなかったけれど――ようやくここまで辿り着けた。
ヴァーリという街、住人達、この屋敷や執事のアルフレッド、三姉妹たち……そして、ミランダやローザがいれば、俺はもう何もいらない。
平穏さえあれば、それでいい。
だから俺は守り続ける。
この場所を――。
いつ、なにがあるか分からない。
俺は、ローザとミランダに気持ちを伝えた。
「ローザ、ミランダ……二人とも好きだ。大好きだ。二人が居ないと俺はもうダメかもしれない。いや、ダメなんだ。ローザが必要だ。ミランダが必要だ。俺とずっと一緒にいてくれ」
ローザもミランダも手を握りながらも、頭を寄せてくれた。それだけで“答え”は十分だった。
そう思っていたけれど、ローザは俺の右頬を。ミランダは左頬をキスしてくれた。
――俺は幸せ者だ。




